ご挨拶
日本の医療機器産業は、診断機器に強いが治療機器の開発力に乏しい。結果、日本発治療機器は数少なく、オリジナルな治療機器となると稀である。そこには企業のリスク回避の特性と実用化経験の少なさが原因としてあげられる。“外科医の新しい目と脳と手”を創ることが目標である我々も、診断機器が中心であった“外科医の新しい目”の開発は比較的スムーズであったが、治療機器となる“外科医の新しい手”の開発では多数の障壁にぶつかり、隘路を突破できないことが多かった。解決策として、国際標準化や医師主導治験を行い、それぞれ、2013年7月にIEC規格FD発行、2013年9月に薬事承認まで到達した。
これらの経験から、医療機器開発プロセス全体-医療ニーズ探索・プロトタイプ開発・審査承認対応-に通じ、高リスク高度管理医療機器の実用化をも一貫して迅速に推進できる人材の必要性を痛感したため、養成を行う文部科学省の「先進的医療イノベーション人材養成事業」に応募し採択された。このような機会を頂いたことに感謝し、充実したプログラム構築に邁進している。
具体的には、本学先端生命医科学研究所先端工学外科学分野を拠点とし、経験豊富な専任講師のガイドでニーズ抽出から解決策の構想、プロトタイプ化を行う「医療機器開発研究指導」と、実際のプロトコル作成から承認申請までを模した「医師主導治験演習」とによって、開発/薬事両面の習熟を図る。修了試験に相当するものとして、ビジネスプラン作成等を課し、新アイデアを臨床へ届けるため不可欠な事業的側面の基礎力を養う。加えて、海外の医療機器開発の最前線ラボの協力(スタンフォード大学バイオデザインプログラム、ミネソタ大学メディカルデバイスセンター 、ハーバード大学ブリガムアンドウィメンズホスピタル)による研修科目で、今後の世界環境変化に対応できるグローバルな発想・思考を涵養する。そして、医学博士課程に「困難の乗り越え方-突破力-を身につけるプログラム」を相加し、先進医療機器の実用化を主導する人材を育てるものである。
治療機器の開発実用化という困難な目標を共有できる学生諸氏に多数御参加いただければ幸いである。
事業推進責任者
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 先端工学外科学分野
教授 村垣 善浩