No.33(2020) p.123-134
特集Ⅲ未来医学研究会のいま
2019年日本中国文化交流協会大学生訪中団報告書
早稲田大学・東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 大友 春輝, 上本 詩織, 田原 滉大, 藤田 真央
2019年6月10日~17日に、「中国の大学生と交流することにより相互理解を深め、中国の生活文化に直接触れ、より客観的に中国を理解すること」を目的とし、2019年度日本中国文化交流協会大学生訪中団に参加した。今回の訪中では、北京、蘭州、敦煌の三都市を訪問した。故宮博物院や万里の長城、莫高窟の見学および中国の伝統工芸制作体験等を通じて中国古来の文化を学んだ。また北京林業大学および蘭州大学の学生との交流を通して、現在の双方の文化や学びへの姿勢を共有することで、日中両国の相互理解を深めることができた。以上に関して、我々が感じたことを含め、ここに報告する。

 2019年6月10日~17日に、2019年度日本中国文化交流協会大学生訪中団に参加させていただいたため、道中で学んだことについてここにご報告させていただきます。

 今回は、中国日本友好協会からのご招待により、日本中国文化交流協会の一員として中国の3都市を訪問した。初日の東京での顔合わせの後、北京に2泊、蘭州に1泊、敦煌に2泊、最後に再び北京に1泊する、計8日間の行程であった。

 今回の訪中の目的は、「中国の大学生と交流することにより相互理解を深め、中国の生活文化に直接触れ、より客観的に中国を理解すること」であった(日本中国文化交流協会大学生訪中団 事前説明会資料より)。今回の訪中団は、日中文化交流協会事務局の方11名、学生100名の計111名で構成された。

 6月10日。東京赤坂にて団員との顔合わせ会が行われた。日本全国から学年も専攻も多様な学生が集まっており、訪中への期待と緊張が入り混じった顔合わせであった。学生の専攻は、美術や音楽などの芸術系、中国語などの語学系の学生が多く、我々のような理工系学生は少数であった。

 6月11日。羽田空港から北京へと出発した。北京に到着してすぐに中日友好協会および現地のガイドの方々に手厚く出迎えていただいた。午後は故宮博物院を訪れた。故宮博物院は、歴代皇帝らによって収集され紫禁城に保管されていた美術品を展示する博物館であり、世界最大の木造建築群として世界文化遺産にも指定されている。我々が想像していた、伝統的な中国のイメージと合致する真っ赤な壁に緑や茶色の装飾が施された建造物が印象的であった。三方を壁に囲まれた広場は皇帝が演説を行った場所であるといい、声が壁に反響することで音響設備のない時代にも集まった大勢の人々に声を届けることができたという。また、ここでは中国の伝統工芸制作体験教室に参加した。バスごとに3つの班に分かれ、それぞれ器の絵付け、首飾り制作、ゴム彫刻を体験した。私たちは器の絵付けとゴム彫刻を体験した。器の絵付けでは中国の伝統的な絵柄の意味について解説していただき、ゴム彫刻では皇帝の印鑑のレプリカを制作した。中国の伝統的な芸術や建造物を目の当たりにし、また実際に伝統工芸制作を体験させていただくことで、その精巧さと歴史の長さを体感することができた。最後には、今回の訪中団団長である東京藝術大学宮廻先生と故宮博物院の王院長にご挨拶をいただいた。現地の記者の方も大勢取材にいらしており、この訪中団が日中両国にとって重要な意味をもたらすことを実感した瞬間であった。

 6月12日。この日の午前中は、北京林業大学の学生と共に万里の長城を登った。世界文化遺産である万里の長城の景観を楽しみながら、中国の学生と英語で会話することは、非常に貴重な体験であった。また、万里の長城を訪れた後、中国の教育部・国家林業草原局直轄の重点大学である北京林業大学を訪問した。

6月12日 万里の長城で現地大学生と交流

 北京林業大学では、北京林業大学の学生と日本人大学生が混合で班を作り、各班の研究テーマについて話し合った。このとき、美術を専攻する日本人大学生が次々と研究テーマに関する虫の絵を完成させていく様子には驚いた。また、私は中国の学生と英語でコミュニケーションを取りながら、班の研究テーマについて話し合い、理解を深めた。私の班では、カミキリムシが樹に及ぼす影響について議論し、カミキリムシの幼虫が木の幹をトンネル状に食害し、樹を枯らすことさえあるということを知った。そして、その後、美術を専攻する学生が描いた絵を用いてポスター発表を行った。2時間という僅かな時間で、研究内容を理解しポスターを完成させつつ、100人以上の前で発表するという機会は得難い体験であった。また、このとき共に議論し、発表した中国人学生とは、帰国後もSNSで話し合い、メディアを介さないありのままの中国を知ることができている。

 

6月12日 北京林業大学での発表会の様子

 この日の夜には、訪中団の歓迎会を開催して頂き、万里の長城や北京林業大学で仲を深めた中国人学生と談笑しつつ、円卓に並べられた数多くの中華料理を頂いた。言葉が判らなくとも楽しい時間を共有できたことから、言語が上手く理解できなくても、お互いに伝えようとしていれば言葉の壁は何も問題にならないと実感し、積極的にコミュニケーションを取っていく姿勢が大事なのだと学んだ。

 6月13日。朝早くに北京を出発し、飛行機で蘭州へ移動した。北京よりも西に位置する蘭州は、甘粛省の省都であり、古くからシルクロードの要衝だった地である。空港からのバスで外を眺めると、北京と比較して自然が豊かであることが印象的であった。この日に宿泊をするホテル蘭州飛天大酒店で昼食をとった。蘭州で有名だと聞いていた蘭州牛肉麺を、作る過程から見ることができた。夕方からは中国教育部直轄の重点大学である蘭州大学を訪問した。大学内の逸夫科学館ホールに到着すると、大きく「热烈欢迎日本大学生代表团来校访问」という電光掲示板があった。北京林業大学でも同様のスローガンが掲げられており、この「热烈欢迎」は「ようこそいらっしゃいました」という意味であるという。歓迎という文字を見て喜びを感じるとともに、この学生交流会への責任を強く感じた。中国の学生と合わせて200人での記念撮影の後には蘭州大学政治国際関係学部の朱永彪教授から「一帯一路と甘粛省」というテーマで講義を受けた。一帯一路とは中国から中央アジアを経由してヨーロッパにつながる陸路(一帯)と中国沿岸部からアラビア半島、アフリカ東岸を経由する海路(一路)という交易ルートを整備して経済の発展を促進する構想のことである。北京から移動してきた時には、比較的田舎であると感じたが、この講義内容で考え方が変わった。今後、世界の中での中国の存在感、影響力がさらに強くなっていくということを感じ、日本も、日本の将来の社会を引っ張る私たちも、この勢いに置いて行かれてはならないと考えさせられた。講義の後は、蘭州大学で日本語を学ぶ学生との交流会が行われ、それぞれの国から交互にパフォーマンスを披露し合った。特に、日本の着物とは異なりパステルカラーの柔らかな衣装で踊る民族音楽が印象的であった。学食で一緒に夕食を食べた蘭州大学の学生は、日本語を学び始めて2年ほどしか経っていないと話していたが、とても上手に日本語を話しており、興味のある日本のアニメなどの話を積極的にしてくれた。北京林業大学の学生との交流ほどの時間はなかったが、勉強熱心な中国の学生から大きな刺激を受けた。

6月13日 日中両国の学生による蛍の光

 6月14日。蘭州を発ち敦煌へ向かい、到着した直後には雨が降った。敦煌は、シルクロードのオアシス都市であり、年間総雨量は非常に少なく、雨が降った日に訪問することは幸運のしるしとされているようで、気分が高揚した。敦煌で最初に訪問したのは、シルクロードの重要な関所である陽関だ。敦煌市の南西約70kmに位置する陽関は、都市からは離れ、博物館、烽火台址があった。烽火台は漢代に作られたものであり、シルクロードにおける重要な”通信技術”である。烽火は約70kmあるとなりの関所に信号を送ることができるが、烽火台址でさえ巨大であり、”通信量”もわずかである。しかし、約2000年前であってもより遠くに、速く情報を伝達しようという技術が確立されていたことに驚くと同時に、現代技術の進歩による利便性を再確認した。この日は敦煌賓館で宿泊した。

 6月15日。敦煌二日目は、観光地となっている砂山の鳴沙山と月牙泉という泉を訪れた。鳴沙山は東西約40km、南北50kmにわたる砂山であり、砂漠地帯のほんの一部である。今回の訪問では砂山を登ることができ、砂漠の中では凹凸の一つにすぎない砂の山の巨大さに圧巻された。

6月15日 敦煌市街をバックに鳴沙山にて

 午後は、団長である宮廻先生が深く関わっている莫高窟を訪れた。この莫高窟は、先生のクローン技術によって復元されており、デジタル化も行われている。莫高窟は、300年代に仏教僧が修行のために岩壁に穴を掘り、仏塑像を奉ったり、大仏を建設したりしたことが起源となっている。研究によって、約600余りの洞窟、2400余りの仏塑像が存在する。私たちは、まずデジタルセンターを訪れた。360度で投影された莫高窟のCG映像などによって、莫高窟の歴史、沿革についてわかりやすく知る機会となった。また、実際に訪れた莫高窟は、壁に無数ともいえる数の穴が掘られており、その一つ一つに仏像が彫られ、壁画も書かれていた。最も大きなものでは、巨大な石窟の中に大仏が存在し、建立した人々の強い意志を感じた。日本では石窟の数が非常に少なく、規模も小さいため、文化の違いや、スケールの大きさを学ぶことができた。

 敦煌は、地理的関係から20時でも空が明るく、夜市が盛んである。23時になっても子供たちが外でサッカーをしており、多くの人が市場で買い物、飲み会をしている。そのにぎやかさから、敦煌市民の心の豊かさ、治安の良さを知ることができた。

 6月16日。敦煌を発ち、北京へ向かった。この日は移動がメインであり、夜は中日友好協会の方々により歓送会を開催していただいた。

 今回の訪中団の目的は、「中国の大学生と交流することにより相互理解を深め、中国の生活文化に直接触れ、より客観的に中国を理解すること」である。訪問大学の学生と、両者の文化の違いや、学びの違い、将来への想いなど、異なることや共通していることに関して多く意見を交わすことができた。現在、国家規模では、日中関係は円満であるとは言えず、平和的に解決すべき課題があるのは事実であろう。したがって私たちの交流関係を継続し、大きくしていくことで、そういった諸問題を将来的に解決することの必要性を強く感じた。また、隣国としても、中国の経済成長や科学力からは、学ぶべき点が数多くあり、文化交流を積極的に継続する必要性を感じた。

 最後になりましたが、日中文化交流協会のご支援により、昨年に引き続き4人の学生が訪中することができました。心より感謝いたします。

6月16日 最終日の歓送会にて

(2020年2月24日受理, 2020年3月23日公開)


大友 春輝 (おおとも はるき)

早稲田大学大学院 創造理工学研究科 総合機械工学専攻

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所

学歴

2015年3月 早稲田大学本庄高等学院卒業

2015年4月 早稲田大学創造理工学部総合機械工学科入学

2019年3月 早稲田大学創造理工学部総合機械工学科卒業

2019年4月 早稲田大学大学院創造理工学研究科総合機械工学専攻入学

 

上本 詩織 (かみもと しほり)

早稲田大学大学院 創造理工学研究科 総合機械工学専攻

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所

学歴

2014年3月 早稲田大学系属早稲田実業学校高等部 卒業

2014年4月 早稲田大学創造理工学部総合機械工学科 入学

2018年3月 早稲田大学創造理工学部総合機械工学科 卒業

2018年4月 早稲田大学大学院創造理工学研究科総合機械工学専攻 入学

2020年3月 早稲田大学大学院創造理工学研究科総合機械工学専攻 修了

受賞

2017年 新領域学生研鑽会 最優秀ポスター賞

2018年 文部科学省主催第7回サイエンス・インカレ ポスター部門 国立研究開発法人科学技術振興機構理事長賞

2018年 TWIns10周年記念東京女子医科大学・早稲田大学ジョイントシンポジウム「TWIns 現在 過去 未来 2018」 ポスター賞

 

田原 滉大 (たはら こうだい)

早稲田大学 創造理工学部 総合機械工学科

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所

学歴

2016年3月 千葉県立佐倉高等学校卒業

2016年4月 早稲田大学創造理工学部総合機械工学科入学

2020年3月 早稲田大学創造理工学部総合機械工学科卒業 予定

2020年4月 早稲田大学大学院先進理工学研究科生命理工学専攻入学 予定

 

藤田 真央 (ふじた まお)

早稲田大学大学院 創造理工学研究科 総合機械工学専攻

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所

学歴

2015年3月 私立立教女学院高等学校卒業

2015年4月 早稲田大学創造理工学部総合機械工学科入学

2019年3月 早稲田大学創造理工学部総合機械工学科卒業

2019年4月 早稲田大学大学院創造理工学研究科総合機械工学専攻入学