No.33(2020) p.25-27
特集I先端生命医科学研究所創立50周年記念
これからの未来医学研究会について
未来医学研究会 齋藤 吉毅
私の未来医学への期待は、故桜井先生の未来予想図から始まりました。皆さんで、将来の医学を考える場として、この未来学会を盛り上げて行きたいと思います。 

 斉藤君、「私はディズニーランドみたいな医療健康ランドを創りたいと考えているんだよ。[1] と笑顔で語りかけてくれた桜井先生の言葉が今でも忘れられません。

 今から27年前ME24期生として女子大のMEカリキュラムに参加させてもらいました。ちょうど、娘が一歳になるかならないかの時でしたから、毎週の木曜日の午後と、土曜日の一日を掛けたMEカリキュラムは、家内には不人気でした。土曜日に家を出るときの気まずさは、おそらく、私が説明しなくても、皆さんには容易に想像できると思います。

 でもこの状況を救ってくれたのが、桜井先生からいただいた言葉でした。家族への犠牲に対して、MEカリキュラムへの参加を自分自身の中で正当化するにはあまりある魅力的な言葉でした。

 MEカリキュラムの中で、医学の先生方がどうやって病気を診断するのか、そのために必要な知識の獲得の方法(臓器別、発症症状別の経験のマトリックスからの特定)はどうするのか知り、難しいものだと誤解していた医学も、実際は工学とあまり変わらない勉強方法(経験の積み方)であることを理解しました。でも、振り返ってみると、MEカリキュラムでの私にとっての最大のメリットは、桜井先生の健康ディズニーランドを創るというような発想方法が、医療機器の開発をする私にとって大きなヒントになったと感じています。健康ディズニーランドだけではありません。将来の医療環境を考えた、いくつかの絵を見せていただきましたが、ものすごく示唆に富んでいたものでした。実際に、絵の中のいくつかのものは、今現在、実用化されているものもありましたから、今考えてみても素晴らしい発想であった思います。

 カリキュラムを卒業後、2~3年の間は、未来医学会に参加し、というよりは、ME24期生の同窓会?(飲み会)に参加していましたが、しだいに、会社の仕事が忙しくなり、また、同期生の参画が減ってきたので、私自身も、未来医学会への参加を取りやめてしまいました。未来医学会の会報をいただくたびに、会費を支払っていない後ろめたさを感じていました。

 このころになるとMEカリキュラムで思った未来医学への意義は意識の片隅に追いやってしまっていました。

 2015年に岡野先生からお電話をいただき、OLYMPUSから、是非、未来医学会の理事として参画を依頼され、改めて、未来医学会へ復帰致しました。やはり、未来医学会へ参加し、MEカリキュラムの卒業テーマの発表を伺い、改めて、自分が過去に思っていた意識が蘇ってきました。さらに、参加させていただいた理事会にて現状の未来学会の財政状況、会員の活動状況などを伺い、これはなんとかしなければと痛切に思いました。これまでの自分の企業での経験からアドバイスができないかと活動をさせていただいております。2019年になって、岡野先生からの要請で副会長の職務を拝命させていただき、現副会長の森さんと一緒に、新しく会長に就任された清水先生をサポートさせていただいております。

 私が考える未来医学会は、冒頭の桜井先生の夢そのものです。未来の環境を考え、英知を集めた討議が実現できる会です。そのためには、MEカリキュラムを卒業した方々はもちろん、未来の医学を考える方々に未来医学会に参加していただくことを願っています。 MEカリキュラムは51期を迎えており、これまでの卒業生だけでも、1000名近くいるはずです。この卒業生が、MEカリキュラム卒業後も興味を持って参加してくれる方策が必要と考えています。

 現在、清水先生のご努力で、マンスリーセミナーの活発化を推進しております。MEカリキュラムに参加した卒業生はMEカリキュラムのメリットを理解できているはずです。この卒業生がMEカリキュラムの卒業後も、喜んで参画し、未来の医学の在り方などを討議できる場として未来医学会を盛り立てていきたいと思っています。

参考文献

[1] 桜井 靖久, "一人ひとりのセルフケアを支えるメディカル・ディズニーランド", 高分子, 49 (3), 109 (2000).

(2020年2月13日受理, 2020年3月23日公開)


齋藤 吉毅 (さいとう よしたけ)

未来医学研究会 副会長

BMC24期

略歴

1984.3 東京工業大学 機械物理学 材料物性学 卒業

1984.4 オリンパス光学工業株式会社 入社

2001.4 ~ 2002.3 同社 超音波内視鏡 開発グループリーダ

2002.4 ~ 2004.3 同社 超音波事業 ビジネスユニット長

2004.4 ~ 2006.3 同社 商品企画部長

2006.4 ~ 2008.3 同社 第2開発本部長

2008.4 ~ 2010. 9 Olympus America Inc. Vice President & CTO

2008.4 ~ 2010.9 GyrusACMI Executive Grope Vice President

2010.10 ~ 2015.3 オリンパスメディカルシステムズ(株) 第2開発本部長

2015.4 ~ 2019.4 オリンパス(株)執行役員/事業開発室 室長

2015.4 ~ 2019.4 オリンパスバイオマテリアル(株) 取締役

2015.4 ~ 2019.4 オリンパスRMS(株) 取締役副会長

2019.4~ オリンパス(株)科学技術担当役員

2019.4~ Olympus Scientific Solution America Chairman

その他

2008年11月 日本発明協会 発明賞受賞 (超音波機器)

2006年~ 東京工業大学 大学院総合理工学研究科 非常勤講師

2010年~ 同 工学部機械宇宙工学科   非常勤講師