No.33(2020) p.38-44
特集I先端生命医科学研究所創立50周年記念
先端生命医科学研究所と未来医学のこれから
未来医学研究会・東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 清水 達也

 先端生命医科学研究所50周年を迎え、非常に喜ばしく感じるとともに、当研究所を牽引し歴史を築いてこられました桜井靖久先生、岡野光夫先生に心より感謝申し上げます。また、バイオメディカル・カリキュラム(BMC)に参加された方々、修了後も当研究所における教育・研究にご尽力いただきました数多くの方々にも深く御礼申し上げたいと存じます。

 50周年に際し、かつて桜井靖久先生が描かれた未来医療イラストに倣い、現時点で私の思い描く4つの未来医療イラストをご紹介します。

① Tissue & Organ Engineering(ティッシュエンジニアリングからオーガンエンジニアリングへ)

 現在当研究所で研究開発しているティッシュエンジニアリングの進歩によりオーガンエンジニアリングが実現、細胞から生体同様の臓器の作製が可能となり、ドナー臓器に頼らない再生臓器移植医療が始まります。また生体外で臓器作製が可能となることで基礎研究や創薬研究における臓器モデルが実現、実験動物ゼロが実現します。さらに細胞から組織を作製する技術は食料生産にも利用されスーパーには家畜飼育に頼らない栄養バランスのとれた健康的な培養肉が並びます。

図1 ティッシュエンジニアリングからオーガンエンジニアリングへ

 

② Organ Treatment Outside of the Body(臓器の治療は体外で)

 組織・臓器の培養技術の進歩により生体外での臓器培養が可能となります。疾病に陥った臓器を一旦摘出し、代替のデバイスで生命維持している間に、体外で遺伝子・再生・放射線・化学・免疫治療など複数の治療を実施し、治癒した臓器を生体内に再移植します。これまで生体内では実施困難だった治療も、生体外でより集中的に実施することが可能となります。

図2 臓器の治療は体外で

 

③ Civil Medical Care & Mobile Medical System(医療は市民の手で)

 安全安心な家庭内診断機器の導入により多くの疾患は家庭内で診断が可能となります。必要な薬は近くのコンビニエンスストアで受け取る、あるいはドローンによる宅配が可能となります。簡単な治療は移動式オペ室(Mobile SCOT)で実施され、医療の現場は住んでいる場所となります。さらに幼少時から医療教育を実施、医療リテラシーを向上させることで、市民が主体的に医療に参加するようになります。これにより医療費の大幅削減、より健康な社会となります。

図3 医療は市民の手で

 

④ Space Hospital(医療は宇宙空間へ)

 いよいよ医療は宇宙空間でも実施されるようになります。宇宙エレベータや月面での低重力環境を利用したリハビリテーションや運動負荷の軽減が可能となります。高齢者や心臓・肺疾患を持つ患者が適切な負荷のある宇宙空間で暮らすことでその病状を軽減させることができ、生産性の向上にもつながります。今後深刻な課題となる介護負担の軽減にもつながります。宇宙遊泳しながら宇宙放射線でのがん治療も可能になるかもしれません。月に永住する高齢者も増えることでしょう。

図4 医療は宇宙空間へ

 

 いかがでしょうか?

 それぞれ、技術的課題、社会的課題がたくさんありますが、今後、皆様にもご意見をいただきながら、それぞれの未来医療の実現に向けた研究・教育・社会活動を展開していきたいと考えております。

 今後も研究所一同力を合わせて、未来の医療を切り開き、より多くの患者様の救済、そして世界的な諸問題の解決に貢献すべく、「夢と信念」をモットーにチャレンジし続けていきたいと考えています。

(2020年2月24日受理, 2020年3月23日公開)


 

清水 達也 (しみず たつや)

未来医学研究会 会長

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 所長・教授

略歴

 1992年東京大学医学部医学科卒業後、循環器内科医師として済生会中央病院、JR東京総合病院で勤務。その後、東京大学大学院で分子生物学研究に従事。1999年より東京女子医科大学先端生命医科学研究所で世界初日本発の細胞シート技術を用いた再生医研究をスタートし肉眼レベルで拍動する立体心筋組織の作成に成功。2011年同研究所教授、2016年同研究所所長に就任。立体組織構築技術の再生医療・創薬モデルへの応用に加え、細胞農業への展開を目指している。