Vol.44(2013年11月20日配信)

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 こんにちは、RegMed-now編集室です。急に寒さが厳しい季節になりましたね。今年も残りわずかになりましたが、体に気をつけて頑張りましょう。
 7月に刊行された「未来医療への挑戦者たち」は、お陰様で大変好評を博しております。11月25-26日に開催される第35回日本バイオマテリアル学会大会でも配布いたしますので、是非出展ブースにお立ち寄りください。また、全編無料のPDF版も絶賛配布中ですので、ぜひお知り合いにも広めて頂けましたら幸いでございます。
◆PDF版書籍ダウンロードページはこちらから→http://twins.twmu.ac.jp/gcoe/rmn-book
 さて今号では、赤池敏宏先生のインタビュー第3回をお送りします。再生医療の実現化に向けた取り組み方を伺いました。どうぞお楽しみください。


【目次】

1. インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第9弾 赤池敏宏
●第3回「研究を空想の産物で終わらせないために」

2. 再生医療トピックス
◇第35回 日本バイオマテリアル学会大会に当グローバルCOEのブースを出展します。(2013/11/25~2013/11/26)
◇アメリカ細胞生物学会 2013 開催のお知らせ(2013/12/14~2013/12/18)

3. ABMESダイジェスト
◇末端官能基の違いによる温度応答性高分子ブラシ表面における細胞接着温度の制御(松坂直樹ら)
◇受賞のお知らせ


1.インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第9弾
-東京工業大学 生命理工学研究科 赤池敏宏

【プロフィール】
赤池 敏宏(あかいけ・としひろ)
1975年 東京大学大学院工学研究科合成化学専攻博士課程修了・工学博士。東京女子医科大学助手、東京農工大学助教授、東京工業大学 生命理工学部教授を経て、2012年退官後も東京工業大学特任教授として現在も精力的に研究活動に勤しむ。工学と医学との学際領域で生物学と高分子材料工学を真に融合した新しい学問領域の創成を目指す。


☆シリーズ第9弾を読む > 第1回第2回第3回最終回

●第3回「研究を空想の産物で終わらせないために」

◆“数”と“純度”が勝負の再生医療

──将来バイオ人工臓器が本格的に臨床で使われるようになるとき、どういう課題をクリアし、できあがりはどんなものになるとお考えですか。

 組織工学は、工学志向のバイオロジストというか、バイオマテリアル工学分野の人たちがバイオロジーや医学の研鑽を積んで、そういう領域を作ってきました。バイオ人工肝臓、バイオ人工皮膚、バイオ軟骨、バイオ人工血管等々のハイブリッド人工臓器が提起されてきました。そういった内容は今再生医療で素朴にES/iPS細胞から肝細胞、心筋細胞を作る人たちに対しては、1つのモデルケースとして、すなわち過去に工学的チャレンジの実績のある例として提示されるべきであるし、山中先生のグループや類似の立場に立つグループの多くの方々もそれに学んだらいいと思います。

 人工肝臓では体外循環モジュールなんてよく書いてある。僕だけではなく、みんなが挫折したけど、その最大の理由は細胞がないからでした。肝機能の仮に10分の1をアシストするだけにしても必要とされる250億個もの細胞の数を調達できない。それから、高次構築をきちんと担保できるサイエンス、あるいはエンジニアリングがまだないということだったのです。その2つの課題を超えれば新しい再生医療とこれまでめざしてきた組織工学の基本的な設計論は同じです。当面は思う存分攻めていくべきだし、攻められるのではないかと思います。

 古い組織工学でも人工肝臓だから肝細胞をスフェロイドぐらいにして組み立ててみようとか、少し妥協して、組織のモデルとして利用するとか考えてきました。ぴったり肝臓と同じ組織はできないのだから。しかし、そもそも肝臓細胞を大量に調達する道がなく、実用可能な人工肝臓にはどうにも近づけなかったわけです。

 細胞を増やす作業はどちらかというとケミカルエンジニリアング(化学工学)の領域であるはずというのは強く言われ始めています。数量が勝負だと。たとえば不織布あるいは編み物細工の上に、あるいはマイクロビーズの上に、あるいはマルチウェル加工したチップの上に、大量かつ、上手にES細胞やiPS細胞を未分化増殖させるとか、その後ある段階で分化誘導をかけるとか・・・という具合に化学工学的技術を応用するのです。その場でやれればもっといいのですが、いったん分離(ソーティング)し、ワンクッションおいて、分化を開始した純粋な系だけで肝細胞特異的な材料と言われる基板、そういうバイオマトリックスを有効に活用することによって播き直して分化を進行させ肝臓を再構成させる方法も考えられます。

 再生医療デバイスとしての質を上げるという問題は解決するのではないかと思います。基本的には、細胞認識材料をコートした表面の上で細胞をきれいにハンドリングして、思ったとおりの誘導がかけられる技術は、少なくともバイオマテリアルサイドでは持つべきだと思って、願いを込めて提案したのが「Cell-cooking Plate(細胞用まな板)」の概念です。

 ただこれまでの考えではES/iPS細胞の塊りを作ると、未分化細胞集団はその中でうごめいていて臓器形成に到る未知の発生プログラムによって制御されているのです。分化に到るそのメカニズムはブラックボックスだが、それでスフェロイドなどの細胞塊を作らせておけばそのまま使えるからよいのだという意見が強くあります。どちらかといえば発生学者に近い再生医療研究者が主張をしておりますがあまりサイエンティフィックではないと思いました。それで細胞用まな板上でもっとES細胞の行く末を科学的・工学的に制御したいと思ったのです。

 だからこそシングルセル状態を目指すのです。シングルセルでできる限りのところまで維持して、まずはとことん制御できる範囲内で制御して増殖させたほうがいいと。シングル状態で増やすテクノロジーが以後の分離精製(細胞ソーティング)の際にも有利で基本的に重要な細胞操作だと思って言っているのが、「細胞用まな板」の概念です。まな板の上に1個1個が独立し、乗せられる、そういうまな板用のコーティング剤や細胞認識性バイオマテリアルこそ重要でこれを開発するというところに真骨頂があります。

 マテリアルをちょっとコーティングしておけば最初から細胞が混じっていても、あるいは発生の分化の過程でヘテロな細胞群に分化が進んでいても、目指す肝細胞だけがくっつくといったような、いろいろな点で次のステップに進みやすいのです。その次にそういった材料がどれぐらい自由自在に作れるのかという問題に入ってくるわけです。結構できるだろうと思います。細胞認識性バイオマテリアルの設計コンセプトで!実際にはこの20数年でまあまあ期待通りの展開を見せました。

◆研究の実用化には異分野の力が不可欠

──再生医療を実現するには何が重要ですか。

 数年前に岡野光夫先生がティッシュエンジニアの組織工学会と大きな規模を誇る再生医療学会を合併させました。僕も両方の設立に関与していました。岡野さんが後から入って来てあれよあれよという間に両学会をドッキングさせるとは思わなかったです。そのへんはすごい卓見とパワーの持主ですね彼は!僕にはとてもこういうことはできません。結果としてはよかったと思います。それで再生医療学会に工学色が少し出てきました。しかし後から工学色が加わってきただけで、最初に走っていた主流の人は生物学・発生学者とひたすら実用化を急ごうとする臨床医学分野の人たちです。そのような分野では大量に作るとかソーティングさせるとか、ノンストレスで細胞を培養するという発想がほとんどないと思います。フローサイトメトリーで分離、精製する限り、抗体で染めて、蛍光ラベルをしなければならない。ノンストレスでなければ、臨床分野への実用化へは程遠いのではないかというのが僕の考えです。

 蛍光ラベルしてそのまま使うというのはどう考えてもおかしいでしょう。別のソーティング方法の場合には、さらにマグネット微粒子がついているのですよ!そんな細胞が仮に比較的無傷で分離生成されても、治療のために打ち込まれたり臓器が作れるかというと大いに疑問がありますよね。

 精製・分離は、材料絡みでノンラベリングでできるように、そこで細胞を認識できる材料というコンセプトはバイオマテリアルで絶対必要だと20年来、いや30年来思っていました。そういう設計コンセプトがあればこそ組織工学さらには再生医療もうまくいく可能性を持っていると確信していました。

 更には数も重要な問題となります。例えば細胞バンクから100万個の細胞をいただいてきて、バイオ人工肝臓を作るには250億から2500億の肝実質細胞が必要となります。この天文学的な細胞数をノンストレス・無傷で増やし回収することが実用化のためには必要なのですが、極論すればその中に1個でも2個でもiPS細胞がいたら困るという問題もあります。

 そういう点では化学工学が必要だし、バイオマテリアル工学が必要だし、場合によればコンピュータを駆使したインフォマティックスが能率を上げる助けになります。こういうことをやらないといけないと思っています。これには工学部サイドで研鑚を積んでいるバイオマテリアルのセンスとか、化学工学、バイオリアクターのセンスを持っている人たちがたくさん必要となります。こういったセンスの豊かな若い研究者の教育はとても重要です。

◆バイオマテリアルをさらに盛り上げるために

──バイオマテリアルを創成期から築き上げてきた先生から見て、今後のバイオマテリアルを盛り上げるためには何が必要でしょうか?

 少し冗談っぽく言えばあなた方の時代においては、バイオマテリアルはもう下り坂かもしれないね(笑)。学問・研究はそれがピークの時に憧れ、選ぶなと僕はよく言います。しかし今がピークのように見えるが、実際にまだまだバイオマテリアルの応用も基礎も道中半であります。新しい領域、バイオマテリアルと生化学とか、分子生物学をもっと本格的に掛け合わされたら絶対によくなるという信念を持てば、もっと高いピークがくるかもしれない。僕から見てさらに発展させることは必要不可欠となると思うよ。学際領域である以上、自分の指導するチームが2つに分かれているということがこれからはよくあると思いますね。見事にハーモナイズしているわけではなく、少なくとも代表選手、代表バッターは両方をおもしろおかしく融合して語れないと引き込み効果がないです。それが君たちの課題かもしれません。

 この領域はインフォマティックス、ドライケミストリー、エレクトロニクスとすら絡むかもしれません。つまり再生医療もどんどんインフォマティックス、コンピュータで細胞のありようをいろいろデザインしていくべきであると。遺伝子を入れるとか組み合わせることも試行錯誤でやっている時代は過ぎていきます。次は要素を入れて、多少わかっているロジックスを入れ込んで、何か適切な答えはこの辺ではないかとおよそのあたりをつけ攻めないといけません。実験で“じゅうたん”爆撃をしている時代でもないと思います。

 ノーベル賞を受賞した山中伸弥先生も遺伝子の組み合わせを変えて、「ばんばん入れて」とやっていました。山中先生だけならできなかった、大学院生の高橋和利さんだったからできたわけだともっぱら言われていますね。たまたま山中先生とは全く違う領域から意欲的な高橋さんが来た。何も知らなかったと思います。でも両方がかけあわさった気持ちで山中先生が自分の領域に向けて手取り足取りして交流した。そうしたら水を吸い込むスポンジのように高橋さんが伸びた。そのうち「遺伝子組合せの消去法でやったらどうですか」という、山中先生も考えつかないようなことを提案してきてこうして成功したというのです。そういうような領域を皆さんが次のステップで考えられれば、バイオマテリアルはまだ発展します。そうでないと、やはり「あの時期がピークだったのか」ということになる(笑)。

 歴史上で栄えた王国ですら何百年とはもたない。学問だって、次の世代が「おもしろい領域だから入りました」と言って、そのままルーチンワークをやっているだけだとあとは衰えていくばかりでしょう。どのように切り口を展開すれば人に誇れるというか、人がやらなかったことをやることになるか考えたらいいです。

 君達は僕らの頃に比べると、そういう意味ではつらい部分があります。僕らの時時代は一緒にスタートした岡野さんにしても片岡さんにしても高分子と全くつながっていなかった医学とか血液学をつなげる喜びがあって、レベルの低いところからスタートし進展を楽しむことができました。今はもっとレベルを上げないと本当の意味で抗血栓性材料も、生体適合性材料も設計できなくなっています。でも蓄積はあるし、ノウハウも先輩たちが築いているから、その上をどうやっていくのか、皆さんが考えるべきだと思います。切り口を自分でユニークなところに視点を置いて、さらに既存のバイオマテリアル研究を1つ入れてみるとかすることによって、絶対に面白くなると思います。

 それと、厳しい意見かもしれませんが、博士研究員にしろ助教にしろ今の若手の多くは任期付きのポジションにいると思います。将来に対する不安と闘っているという人も多いです。でも研究をやるときは、若い者が根性出して、それにボスの獲得資金かもしれませんが最低限の研究費がつけば研究のスピードはいくらでもアップできるはずです。5年の任期に勝負をかけないと。緊張感を持って頑張ればそれなりの展望は拓けるのではないかと思います。

・・・・・・・・・

<最終回 「『ラッキー』を信じてどんどん挑戦を!」に続く>

(インタビュアー:RegMed-now編集室/ 編集:RegMed-now編集室・MDS・シーニュ)

*本インタビューのご感想をぜひお寄せください。
regmed-infoabmes.twmu.ac.jp

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2. 再生医療トピックス

◇第35回 日本バイオマテリアル学会大会 開催のお知らせ

~バイオマテリアル研究新挑戦~
当学会において東京女子医科大学グローバルCOEが出展し、書籍の配布を行います。ぜひお立ち寄りください。
会期:2013/11/25(月)~2013/11/26(火)
会場:タワーホール船堀(東京都江戸川区)
URL:http://www.kokuhoken.jp/jsb35/

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◇アメリカ細胞生物学会(2013 ASCB Annual Meeting) 開催のお知らせ

会期:2013/12/14~2013/12/18
会場:ニューオリンズ(アメリカ・ルイジアナ州)
URL:http://am.ascb.org/meetings/

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3. ABMESダイジェスト

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所(ABMES)の注目の研究成果をお届けします。

◇末端官能基の違いによる温度応答性高分子ブラシ表面における細胞接着温度の制御
  松坂直樹(Naoki Matsuzaka)ら著

 これまでに温度応答性高分子Poly(N-isopropylacrylamide) (PIPAAm)の末端官能基の疎水性度によって、下限臨界溶液温度(LCST)が低温側にシフトすることが知られている。本研究では表面開始可逆的付加-開裂連鎖移動型ラジカル(SI-RAFT)重合法によって、分子量制御されたPIPAAm鎖末端に連鎖移動剤由来の疎水性官能基であるドデシル基が存在する。この末端官能基を還元反応によりチオール化した後、親水性官能基のマレイミド基に置換することで、異なる末端官能基の影響によりPIPAAm鎖のLCSTに変化が生じ、末端官能基の親・疎水性の違いによって細胞の接着温度範囲を制御できることが明らかとなった。

Naoki Matsuzaka, Masamichi Nakayama, Hironobu Takahashi, Masayuki Yamato, Akihiko Kikuchi, Teruo Okano,
“Terminal-Functionality Effect of Poly(N-isopropylacrylamide) Brush Surfaces on Temperature-Controlled Cell Adhesion/Detachment”, Biomacromolecules, 14, 3164-3171 (2013)

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◇受賞のお知らせ

 当研究所博士研究員の近藤誠さんが、中国(烏鎮)にて開催された、
TERMIS-AP 2013 Annual Conferenceにおいて SYIS Best Oral Presentation, Second Prize を受賞されました。おめでとうございます!

学会名:TERMIS-AP 2013 Annual Conference (2013/10/23-2013/10/26)
受賞名:SYIS Best Oral Presentation, Second Prize
演題名:"Contractile manipulation of epithelial cell sheets with serum by regulating myosin phosphorylation and actomiosin dynamics"
共著者名:Makoto Kondo, Masayuki Yamato, Ryo Takagi, Daisuke Murakami, Hideo Namiki, and Teruo Okano





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