Vol.43(2013年10月16日配信)

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 こんにちは、RegMed-now編集室です。残暑もすっかり明け、過ごしやすい日が続いていますね。スポーツの秋、芸術の秋、食欲の秋をめいっぱい楽しみましょう。
 7月に刊行された「未来医療への挑戦者たち」は、お陰様で大変好評を博しております。全編無料のPDF版も絶賛配布中ですので、ぜひお知り合いにも広めて頂けましたら幸いでございます。
◆PDF版書籍ダウンロードページはこちらから→http://twins.twmu.ac.jp/gcoe/rmn-book
 さて今号では、赤池敏宏先生のインタビュー第2回をお送りします。新しい領域の開拓という魅力的なストーリーを、どうぞお楽しみください。


【目次】

1. インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第9弾 赤池敏宏
●第2回「ゼロの分野から」

2. 再生医療トピックス
◇第23回インテリジェント材料・システムシンポジウム 発表募集中(2013/10/31締切)
◇米国バイオマテリアル学会 2014 ANNUAL MEETING & EXPOSITION 演題募集中(2013/11/6締切)

3. ABMESダイジェスト
◇インテグリンシグナルはLgr5を介してマウスエナメル芽細胞の増殖を促進する(葭田敏之ら)


1.インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第9弾
-東京工業大学 生命理工学研究科 赤池敏宏

【プロフィール】
赤池 敏宏(あかいけ・としひろ)
1975年 東京大学大学院工学研究科合成化学専攻博士課程修了・工学博士。東京女子医科大学助手、東京農工大学助教授、東京工業大学 生命理工学部教授を経て、2012年退官後も東京工業大学特任教授として現在も精力的に研究活動に勤しむ。工学と医学との学際領域で生物学と高分子材料工学を真に融合した新しい学問領域の創成を目指す。


☆シリーズ第9弾を読む > 第1回第2回第3回最終回

●第2回「ゼロの分野から」

──鶴田研究室からはバイオマテリアル界の重鎮がたくさん出ています。ラボはどういう雰囲気だったのでしょうか。

赤池 もちろんまじめな学徒が多かったです。あまりにもまじめすぎて100人以上の卒業生の中でいわゆる大企業で社長や重役になった人は一人もいないんじゃないでしょうかね。はったりをきかせるような人は少なく、殆どがまじめな研究者です。みんな今では、専門領域、高分子領域における教授として、いろいろな大学に散らばっています。そういうまじめな研究者、素質のある人が集まっていました。問題は、まじめすぎて、あまりやくざな分野をやらないところに唯一やくざな僕が戻ったわけです。片岡さんは優秀ではありながら、冒険心にあふれていたから、後々女子医大の助手で移っていった僕の誘いに乗ったわけです。

 僕も含め、東工大でも3人ぐらい鶴田研究室出身の教授が出ていますし、他大学も入れると山ほど教授が輩出しました。そういう意味では意欲的な人が多かったですが、スーパーなチャレンジ精神は少し弱かった気がします。少なからざる数の学生が鶴田研究室を出てバイオマテリアルで活躍しているのは、僕と片岡さんが方向をかえ、そして体制を固めたことが大きいでしょう。第2世代までで20人ぐらい教授がいます。第3世代まで入れたら助教クラスまで含めて100人を超えます。もともとは認知度ゼロの新しい学際分野でした。設計概念も最初は何にもなかったし、特別な施設も装置も研究室もなかったのですから。それが今では、早稲田大学とか東京大学・東京工業大学でも3つか4つはバイオマテリアル絡みの研究室ができているでしょう。

──それから女子医大に異動されたのですね。その時の女子医大はどのような様子だったのでしょう。

 女子医大に行くきっかけですね。鶴田先生に女子医大に助手の口がありますが櫻井靖久先生に会ってみませんか、と薦められたことでした。おそるおそるだったか、意気揚々かは忘れましたが、行きました。学生運動で遅れていた割にはゼロからスタートするほうがいいかと思いました。化学をベースにし、生物、医学のほうに入るのならまだそう遅くはないと思って、こういう道になったと思います。

 女子医大の櫻井靖久教授のもとで、「好きにやっていいから思い切って新しいバイオマテリアルの仕事になるようにしてくれ」と言われ、2年間殆どデューティフリーで勉強しました。満を持してこれなら誘えると思って、片岡一則さん(東大Dr.)と岡野光夫さん(早大Dr.)を誘いました。彼らは自分から乗ってきました。周りには反対した人もかなりいたらしいです。僕が片岡さんと岡野さんを誘ったのではなく、片岡さんと岡野さんが僕を選んだというか、この領域を選んだという側面も間違いなくあります。そういう両サイドからの相互作用が利いています。無理やり引っ張るとか、無理やり押しかけてもうまくいくわけありません。両方がシンクロナイズしないと。それが盛り上がった理由だと思います。

──片岡先生や岡野先生とは、出会ってから30年ぐらい経たれているんですよね。

 新しい領域で最初の5年間ぐらい同じ飯を食った感じでしょう。兄弟以上に知っている感じです。明治維新の革命を闘い取った、新しい領域を目指して闘い取った同志だから。皆さんも、そういう燃え上がる時期にいたいとか、そういう時代をまた作りたいと思うでしょう。それがなかったらうそです。そこから始まって、明治維新を闘っているなというような気持ちで取り組んでいました。吉田松陰とか、松下村塾のようなことを実際に語り合い、そういうものを目指そうではないかと励まし合いました。そうしたら直ちにデータがヒットしはじめたという感じのするスタートでした。

 そうこうする内にエンジンがかかってきてぼんぼん論文が出始めました。最初の論文も、2年目ぐらいに代表的論文が岡野さんと片岡さんから出始めたわけです。私が最初一人で細々とやっているとときは勉強と試行錯誤の動物実験みたいなことでした。彼らが加わってから本格的に材料の生化学、高分子が絡んだバイオマテリアル学がスタートしたわけです。

──櫻井靖久先生について何か思い出はありますか?

 僕と同じでカラオケが大好きで、よく騒ぐんですけど興奮すると手がつけられない。機嫌のいいときはすごくすてきな先生でした、頭もすごくいいし。僕たちは櫻井先生に研究内容のネーミングをさんざんしごかれました。当時私たちグループではバイオマテリアルはサイエンスでないといけないという重要性に気付いて「バイオマテリアルサイエンス」という著書を櫻井先生と鶴田先生の指導の下で編纂しました。それまではバイオマテリアルはサイエンスなのかと言う人が多かったのですが、どんどんサイエンスになっていったのはそのあたりからです。

 話が飛んで今の僕の研究の話になるけど最近はやり始めた「細胞用まな板」を名付けたのは僕です。Cell-cooking Plateと。また、「カドヘリン工学」と名付けた分野を、雑誌「再生医療」2012年11月号の総説で提唱したのですが、僕はそれまで山中先生ではなく、カドヘリンと言う今では重要(有名)になっている細胞接着分子の発見者である竹市雅俊先生がノーベル賞を取ると思っていました。それまで純粋に細胞生物学分野の研究分野だったのに対して、バイオマテリアル研究の立場を強調してカドヘリン工学、カドヘリンマトリックス工学という名前を付けてしまおうと櫻井先生流に、思ったのです。でも山中先生が昨年ノーベル賞を先にもらったのはびっくり仰天です。竹市先生がノーベル賞を取るだろうと東工大内の雑誌に我が思い出の記を兼ねて予測記事を書いたにすぎませんが、山中先生受賞決定の後に印刷物になったので少し恥ずかしかったです。

──女子医大5年の後に、東京農工大に移られたのですね。

 幸か不幸か1980年春に東京農工大へ移ることになりました。助手3人で仲良くやっていた女子医大時代と全く同じことを続けてやっても仕方がない、それまで一緒にやってきた研究は全て、岡野、片岡助手のいる女子医大に残すべき課題であると思いました。実験施設も動物実験の問題も、ずっと有利な条件にあるのは女子医大なのだから、全くの新しいラボでは何か工夫をしなくてはいけないと思ったのです。それまで女子医大で立ち上げて、血液を採って血小板だけ、リンパ球だけに分け、相互作用を解析的にやるのがバイオマテリアルサイエンスである。それはそれで間違いではないと思いました。それはそれでやることがいっぱいありますし、両氏がさらに発展させていました。そういう流れと対抗するために、それではどうしたらいいのだろうかということで、細胞培養系を初めて導入しました。採った血液ですぐやるのではなく、保存がきく培養細胞株(セルライン)があるわけだから。そういう細胞のほとんどは接着依存型の細胞なので、細胞認識材料によくマッチする対象だと思えたのです。

 それ以来、細胞認識材料の分子設計と評価をやってきました。肝細胞の培養とか、細胞培養の技術が専門であったわけではないのですが、僕らが新しいバイオマテリアル時代のペースメーカーになっていることを実感できたのは確かです。結果的に、細胞培養系でいろいろなバイオマテリアル研究の強化をすることになりました。

──生体適合材料と細胞認識材料では現象が正反対ですよね。

 いや、結論を言うと細胞認識材料は何もくっつかない抗血栓性材料、血液適合性材料と表裏一体の関係にあると言いたいのです。僕は肝細胞を中心にやっていたのですが、肝細胞特異的接着材料として設計された表面には、血小板が当然くっつかないし、赤血球もくっつきません。肝細胞は肝臓に固定されていて血液中を泳ぎませんから血液中に存在するあらゆる細胞が接着しないことになります。理想的な肝細胞特異的材料を設計するという目標に向かっては多少の紆余曲折はありましたが、まあまあうまくいきました。代表選手が側鎖ガラクトースを持つポリマーです。それは肝細胞以外にほとんど認識されません。ましてや血清タンパク、アルブミンがコートされていれば、それがブロッキング剤になってほかのものはほとんどくっつきません。血液循環用に使えばそのまま血液適合性材料だと気づいたわけです。

 逆にいうとポリエチレングリコールを修飾するとか、リン脂質側鎖を有するMPCポリマーを利用するとかで抗血栓性材料がデビューしましたが、何もくっつかない材料としてだけ、そのまま使っていたら僕はもったいないと思います。その中に何かの細胞認識リガンドを入れる。入れれば理想的に、もしかしたら僕らのポリマーよりももっといい細胞認識材料になる。一般的にある細胞にだけに特異的に存在するレセプターがあります。ほかの細胞が一切くっつかないということが保証された材料の中に、そのレセプターにだけ認識されるリガンドを植え付けるのです。どうですか、ユニークな発想でしょう。

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<第3回 「研究を空想の産物で終わらせないために」に続く>

(インタビュアー:RegMed-now編集室/ 編集:RegMed-now編集室・MDS・シーニュ)

*本インタビューのご感想をぜひお寄せください。
regmed-infoabmes.twmu.ac.jp

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2. 再生医療トピックス

◇インテリジェント材料・システム研究会 第23回インテリジェント材料・システムシンポジウム 発表募集中

会期:2014年1月14日(火)10:00~17:30(予定)
会場:東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 TWIns 2階会議室
発表申込締切:2013年10月31日(木)
URL:http://www.sntt.or.jp/imsf/index03.php

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◇米国バイオマテリアル学会 2014 ANNUAL MEETING & EXPOSITION 演題募集中(2013/11/6締切)

会期:2014年4月16日(水)~19日(土)
会場:Colorado Convention Center, Denver
演題募集締切:2013年11月6日
URL:http://2014.biomaterials.org/

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3. ABMESダイジェスト

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所(ABMES)の注目の研究成果をお届けします。

◇インテグリンシグナルはLgr5を介してマウスエナメル芽細胞の増殖を促進する
  葭田敏之(Toshiyuki Yoshida)ら著

 ウサギやネズミなどげっ歯類の切歯は生涯にわたって伸び続ける。これは歯の後端部に幹細胞ニッチが存在し、歯を形成する細胞を供給し続けことによって起きる。このためげっ歯類下顎切歯は歯の幹細胞の研究において広く用いられている。
 代表的な細胞接着たんぱく質であるインテグリンファミリーの一つであるインテグリンbeta3(Itgb3)は、マウス下顎切歯に発現が見られ、幹細胞の維持に関与していることが示されている。今回我々はItgb3のマウス歯胚幹細胞における役割をItgb3欠損マウス及び株化エナメル芽細胞を用いて検討した。その結果Itgb3はLgr5を介して歯胚上皮幹細胞の増殖を正に制御していることを見出した。
 Lgr5は近年種々の上皮細胞の幹細胞マーカーとして注目されているが、インテグリンとの相互作用は過去に報告がない。本研究で報告されたインテグリンとLgr5の相互作用は、歯胚上皮のみならずさまざまな上皮幹細胞で増殖制御にかかわっている可能性が考えられる。

T. Yoshida, T. Iwata, T. Umemoto, Y. Shiratsuchi, N. Kawashima, T. Sugiyama, M. Yamato, T. Okano,
"Promotion of mouse ameloblast proliferation by Lgr5 mediated integrin signaling.", Journal of cellular biochemistry,114(9):2138-47(2013)




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