Vol.41(2013年8月21日配信)

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 こんにちは、RegMed-now編集室です。今年の猛暑に負けないようあと少し頑張りましょう。先月刊行された「未来医療への挑戦者たち」は、お陰様で大変好評を博しております。皆様の元へ届けるため現在電子書籍化の準備中ですので、もうしばらくお待ち下さい。さて、今回のインタビューは片岡先生の最終回です。片岡流研究哲学と夢を語っていただきました。


【目次】

1. インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第8弾 片岡一則
●最終回「新たな世界を切り拓くために」

2. 再生医療トピックス
◇第45期バイオメディカル・カリキュラム 受講生募集!
◇第13回日本再生医療学会総会演題募集開始

3. ABMESダイジェスト
◇簡単にできる多機能ブロックコポリマーの合成法の開発(秋元淳ら)
◇受賞のお知らせ


1.インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第8弾
-東京大学大学院工学系研究科/医学系研究科 片岡一則

【プロフィール】
片岡 一則(かたおか・かずのり)
1979年東京大学大学院工学系研究科 合成化学専攻博士課程修了。東京女子医科大学助手、東京理科大学基礎工学部教授を経て現職。ナノバイオテクノロジーを基軸として、医薬工の分野を融合し、新たなイノベーションの創出を目指す。


☆シリーズ第8弾を読む > 第1回第2回第3回最終回

●最終回「新たな世界を切り拓くために」

◆縄張りや限界を捨てよう!

──今後の夢と、若手へのアドバイスをお聞かせください。

片岡 1つはいま、医・工連携とか医・工融合と言っていますが、多くの医・工連携というのは「私、作る人。あなた、使う人」みたいなものです。勝手に自分の専門、限界を作ってしまうわけです。「私はもの作りですから、細胞はわからないです」あるいは「動物実験なんてよくわからない」と。一方において、「私は医者ですから、くれたものは使いますが、ポリマーの構造なんかわからない」と。こういう形でやっていると、まず破綻するわけです。特にうまくいかなくなった時に、お互いに相手に責任をなすりつけるので、だいたい仲が悪くなります。

 そうではなくて、工学の考え方や工学の知識を持った医学者、それから医学の考え方、医学の技術、医学の心を持った工学者を作らないといけない。自分の中で融合しないと意味がないわけです。たとえば自分が化学屋であっても、医者と一緒に実験をやっている時に、医者がやっている手術がおかしかったら、「それはおかしいんじゃないか」と言えなくてはいけない。それを言って怒るようなやつとは共同研究しなければいいのです。そのような意識、縄張りを持たないということをぜひ実践してほしい。自分の分野は、どちらの分野でも一流の研究、一流の話ができるようにしなければいけない。「鳥なき里のコウモリ」では困るのです。化学の学会に行って医学の話をして、医学の学会で化学の話をするのではなく、化学の学会に行ったら化学のベースで勝負する。医学の学会に行ったら医学のベースで相手を説得できるようにする。大変だけれども、ぜひそれを進めていってほしいと思います。それが本当の新しい分野を作っていくことではないかと思います。

──うわべだけでない、本当の医・工連携が実現できたとき、新しい分野が作られていくということですね。

片岡 僕は「デリバリー」という言葉が嫌いなのです。デリバリーというとピザ屋の宅配みたいな感じになる。ピザを持って行って、玄関で判子をもらって帰る。だけど我々がいまやろうとしていることは、行くだけではないのです。そこで環境をセンシングしてプロセッシングして、オペレーションをやるわけでしょう。僕はこれをナノデバイスと呼んでいます。要するに、小さなものの中に非常に大きな医療機器のあらゆる機能を凝縮している。そういうものを作れるはずだと。そういうものが作れると、生体内のいろいろなバリアを克服できるので、新しい治療法が生まれる。つまり既存の方法を補完するのではなく、それがあることによって治療法が変わる。たとえば、がんの治療が変わる。そういうことができる、それをやるべきだと思っているのです。

 もう1つは、病気の治療や診断だけではなくて、いまの生物・生理学自身も曲がり角だということです。つまり、昔の生物・生理学というのは形態学だったわけで、分子生物学が出て一気にそちらにシフトした。だから、生物・生理学というのは古臭い学問のようになってしまったのです。ところが分子生物学や細胞生物学は、所詮はシャーレの中の話なのです。シャーレの中で起こっていることが体の中で起こっている保証などありません。結局は、生物は生物に関わらなければいけない。そうすると、生体内でおこっていることこそが最終目標である。たとえば、月の世界はどうなのだろうか。それは地球の上で模擬の月の環境を作って実験していてもわからない。月に行かないといけない。だから、シャーレからin vivo(生体内)にシフトしないといけないのです。

 僕らが研究を始めた頃は、やろうと思っても方法がなかった。でも、いまは方法がある。体の中を見るイメージングもできているし、高機能な顕微鏡もある。見るためのツールはある。だけど、問題はそこで起きていることにトリガーをかけるとか、そういう方法論が欠如しているのです。だけど、ナノメディシンができると、そこにものを持って行って、環境に応じて、たとえば薬を出すとか遺伝子を働かせるとか、何かができる。それで生物はどのように応答するのだろうかというのがわかる。そうすると、今までわからなかった新しい生物の事実が出てくる可能性がある。だからin vivo生物学。in vivo生物学をやるための、なくてはならないツールですよ。そうすると生物学自身が変わると思います。僕は「ナノ生理学」と言っているのです。ナノ生理学を学問分野にするには、ナノメディシンというか、いま、我々が言っているようなデリバリーシステム、そういうものが必要になる。それが絶対にできると思います。

──それを広めるのも夢の1つということですね。

片岡 そうです。だからみんなが思っている以上にこの分野は奥が深い。デリバリーシステムというと、生物の人はすごく非生理的なことをやっていると勘違いする人が多いけれども、まったく違うのです。体の中はデリバリーシステムだらけなのです。だって、細胞というのはサイトカインのデリバリーシステムでしょう。サイトカインなどは全身に出たら毒だから。だけど、それを出している。それからエクソソームはまさにデリバリーですよね。実は、多細胞生物はみんな自分の体の中に持って生まれたデリバリーシステムがあって、それをうまく使うことによって情報伝達をしたり、機能を出したりしているのです。ですから、ある意味ではそれを我々の合成化学の力で作ってやるだけだから、これは自然の摂理に適ったことをやっているわけです。だから何も非常識なことをやっているという意識はまったくないのです。

◆焦らず逃げず、まずは小さな成功から

──バイオマテリアルを研究する若手に向けてメッセージをお願いします。

片岡 いまやっている研究というのは、新しい治療法や診断法を研究するためのものかもしれない。でも一方においては、学問というのは基礎から応用に行くより、応用から基礎に行くほうが結構多いのです。たとえば熱力学の法則がある前から、蒸気機関車は走っていたわけです。それから、エントロピー。あの摩訶不思議なものは戦争から生まれたのですよ。プロシアとフランスが戦争をしていた頃、大砲を撃っていて、フランス軍の将校が弾道計算をやるのですが、合わない。それで、弾道計算をやる時にある定数を入れることによって、ピタッと合うようになった。その定数は何なのかと。そこから考えがスタートして、エントロピーという概念に到達したのです。

 ある目的を持って新しい方法論で、診断や治療をやる。そうすると、たぶん新しい方法論を使ってやるから、従来の方法ではわからないことを必ず見つけるわけです。そこから「なぜなのか」というふうに行くと、生物学の常識を覆すような発見につながる場合がある。だから、常にそういうことは頭に置いておいたほうがいいと思います。つまり自分のやっていることは、診断や治療に使うということはもちろん重要ですが、それに留まらず、ひょっとしたら生物学の教科書を塗り替えられるような発見があるかもしれないことなんだと。自分の持っているツールを使ってです。そういう大きな夢を持って研究をやってほしいですね。

──最後に、スランプの脱出法はありましたか。

片岡 これは難しいですね。「転んでもただでは起きない」という感じでしょうか。あとは、「風車 風が吹くまで 昼寝かな」というような。つまり風車は風がなければ回らないので、しばらく昼寝をするというか。 最近は世知辛いからなかなかそうも言っていられないでしょうけれども、あまり焦らないことでしょうね。それから、あまり横に逃げないことですね。これが駄目だから次にこっち、こっちと行ったら、全然違う方向に行ってしまうかもしれない。何でもいいから1つ成功させることです。何も大きいことをやらなくても、小さいことでもいいのです。するとそれが結構、成功体験になると思います。

──ありがとうございました。


―了―

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(インタビュアー:RegMed-now編集室/ 編集:RegMed-now編集室・シーニュ)

*本インタビューのご感想をぜひお寄せください。
regmed-infoabmes.twmu.ac.jp

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2. 再生医療トピックス

◇第45期バイオメディカル・カリキュラム 受講生募集!

東京女子医科大学では、医療産業に携わる社会人が1年間で医学と工学を系統的に学習する講座を約40年にわたり開講しています。
開講期間: 2013年10月~2014年9月
申込み〆切: 2013年8月末日
詳細はwebをご覧下さい。
http://www.twmu.ac.jp/ABMES/BMC/

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◇第13回日本再生医療学会総会演題募集開始

第13回日本再生医療学会総会の一般演題の募集が始まりました。今回は京都大学の田畑泰彦先生が大会長を務めております。

会期:2014年3月4日(火)~6日(木)
演題募集期間:2013年8月6日(火)~10月15日(火)
会場:国立京都国際会館
URL:http://www2.convention.co.jp/13jsrm/

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3. ABMESダイジェスト

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所(ABMES)の注目の研究成果をお届けします。

◇簡単にできる多機能ブロックコポリマーの合成法の開発
  秋元淳(Jun Akimoto)ら著

 近年のめざましい高分子合成技術の発展により、20年前では特殊な技術を必要とした高分子の合成が容易になってきている。特に、異なる種類の高分子をつなげたブロックコポリマーはリビングラジカル重合などの方法を用いることにより、均一なサイズの高分子も合成が可能である。本研究では、リビングラジカル重合とカチオン開環重合を組み合わせることにより、温度応答性と生分解性を併せ持つブロックコポリマーの合成法を提案した。このポリマーは合成法が容易であるだけでなく、高分子末端の修飾も可能であるため、バイオマテリアルの分野で応用が期待できる。

"Synthesis of terminal-functionalized thermoresponsive diblock copolymers using biodegradable macro-RAFT agents"
Jun Akimoto, Masamichi Nakayama, Kiyotaka Sakai, Masayuki Yamato and Teruo Okano,
Polymer Journal (2013) 45, 233

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◇受賞のお知らせ

 当研究所博士研究員の金京淑さんが「2013 CTS Travel Awardn」を受賞されました。おめでとうございます!

学会名:12th Congress of the Cell Transplant Society(2013年7月7日-11日)
受賞名:2013 CTS Travel Award
演題名:"Fabrication of 3-Dimensional (3-D) Functional Hepatic Structures using Cell Sheet Stratification Technique"
共著者名:KyungSook Kim, Kazuo Ohashi, Rie Utoh, Tetsutarou Kikuchi, Teruo Okano




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