Vol.40(2013年7月17日配信)

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 こんにちは、RegMed-now編集室です。梅雨も早めに明け、今年の夏は千年に一度の猛暑だと言われています。熱中症対策を万全にして乗り切りましょう。さて今号では引き続き、東京大学でご活躍されているバイオマテリアル界の重鎮、片岡一則先生のインタビュー第3回をお送りします。「ナノメディシンが世界を救う」と題し、難病の治癒率を上げるための研究にかける熱意をお話しいただきました。どうぞお楽しみに。


【目次】

1. インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第8弾 片岡一則
●第3回「ナノメディシンが世界を救う」

2. 再生医療トピックス
◇上廣倫理研究部門開設記念シンポジウム「iPS細胞から考える生命(いのち)へのまなざし」開催のお知らせ(2013/7/26)
◇再生医療実現拠点ネットワークプログラム キックオフシンポジウム 開催のお知らせ (2013/8/26)

3. ABMESダイジェスト
◇迅速な細胞シート作製を目指したヘパリン機能化温度応答性表面上での細胞増殖/細胞剥離の制御(有坂慶紀ら)
◇受賞のお知らせ


1.インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第8弾
-東京大学大学院工学系研究科/医学系研究科 片岡一則

【プロフィール】
片岡 一則(かたおか・かずのり)
1979年東京大学大学院工学系研究科 合成化学専攻博士課程修了。東京女子医科大学助手、東京理科大学基礎工学部教授を経て現職。ナノバイオテクノロジーを基軸として、医薬工の分野を融合し、新たなイノベーションの創出を目指す。


☆シリーズ第8弾を読む > 第1回第2回第3回最終回

●第3回「ナノメディシンが世界を救う」

◆治癒率を上げるための研究とは?

──今後の課題と展望をお聞きしたいと思います。

片岡 ナノメディシンをやって確かにわかったことは、高分子ミセルの技術というのはかなり奥が深いということです。中に入れるものも、最初は疎水的な薬だけでしたが、遺伝子などいろいろなものが入れることができるのです。

 それ自身で広がりが出てきたというのは良い点なのですが、やっていてだんだんわかってきたことがあるのです。僕らはがんの研究をやっています。そうすると、がんの患者さんというのは、今70万人以上いると言われている。そして、日本では毎年35万人ががんで亡くなっているのです。そうすると、簡単に「がんの死亡率を下げる」とみんなが言うけれども、たとえば10%がんの死亡率を下げるには、年間数万人の人を救わなければいけないのです。大きな装置を作るとか、それはそれでいいけれども、たとえば重粒子線治療でいったい何人の人を実際に治療できるのか。それを考えると、たぶん死亡率には影響が出ないと思うのです。山のように装置を作れば別ですが、それは無理ですよね。誰がお金を払うかという話になるでしょう。

 僕は、ドラッグデリバリーシステムとかナノメディシンというのは「いつでもどこでも誰にでも」ということが大切だと考えています。つまり大きな装置はいらないし、一定の設備のある病院ならみんな使える。例えば、MRI(核磁気共鳴装置)のイメージング造影剤として使うのもいいですね。MRIイメージングのよい点というのは、今、この装置は日本中で6000台動いているのです。ほとんどは強さが1.5テスラーくらいある。これの性能を、感度をもっと上げたい。そうすると、X線CTに比べて放射線を使わないし、空間分解能もいいものができるのです。PET(陽電子放射断層撮影)は感度が高くてよいのですが、空間分解能は必ずしもよくないという問題があります。それから、見えないがんがいっぱいあるかもしれない。PETは原理的にはグルコースの代謝で見ているから、たとえば、グルコースの代謝が活発でないがんなどはわからないわけです。MRIはその点、もっと可能性がある。でも、感度を上げなければいけないでしょう。

 感度を上げるには2つ方法があって、1つはもちろん磁石の強さを大きくするのです。7Tです。ところが磁石の強さを5倍にすると、そのためにかかる費用が5倍では済まない。指数関数的に必要なのです。これを普及させるのはものすごく大変です。もう1つの方法は、小さなエンジンの車にターボをつけるのと同じように、ターボをつけてしまえばいい。それが造影剤なのです。だから、ナノメディシンで作った高性能の造影剤で安全なものができれば、今の1.5TのMRIの性能を飛躍的に上げられる。そうすると、もう既に6000台動いているので、それがそのまま高感度MRIに変わるわけです。

 このように、ナノメディシンのよいところは、大勢の人に使ってもらえるので、統計的に難病の治癒率を上げられる。このことは大事だと思います。国民にとって、税金を使ってやる研究に関しては、統計的に目で見える形で出してもらうのがいいわけでしょう。統計的にと言うと、非人間的なように思われるかもしれないけれども、もちろん1人の人間を救うことはすごく大事です。だけど、オーバーオールで考える時には、統計的な数字として死亡率を下げるとか、そこまでいかないと、本当の意味で医学的貢献はないわけです。 全然話は違うけれども、乳児の死亡率は1920年代の日本では、たぶん20%とか30%あったでしょう。だからまさに、お産は危険行為だった。だけど今は1%を切っているわけです。誰も危険だと思わないでしょう。だからこそありがたみを感じないという面もあるけれども、あれはすごいことなのです。僕はそれと同じようなことをやりたいのです。

 それから、最近では、ナノメディシン、たとえばミセルを使うと転移がんが治せる可能性がでてきています。転移を抑えてしまう。そうすると、たまたま転移してしまっても、まだ十分に治療ができるわけです。そうすると不安がなくなる。不安のない難病治療を実現したいです。

 他には、今のところドラッグデリバリーシステム技術はまだこれからなので、既存の薬を入れていますよね。これはもうしようがない。まず既存の薬を新しいキャリアに入れて認可を取らないと、認可は取れないのです。認可が取れると、そのポリマーは使えるという話になる。そうすると、今度はそのポリマーに新しい薬を入れることができるのです。そうなると創薬プロセスが変わる。つまり今はまず薬があって、薬を作って、これはどうにもならないから何とかしてくれとなっているけれども、その薬を開発する段階からドラッグデリバリーシステムを念頭に置いて薬の開発を行う。核酸医薬などはそうなっているでしょう。それによって創薬プロセスが間違いなく革新するのです。

◆目指すは「プリウス」のような最先端

 基本的には、ナノメディシンの技術は日本のもの作りから来ているので、高品質のものを適正価格で提供できるはずなのです。そうすると、経済合理性が非常に優れていて、医療費が抑制できる。医療費の抑制というのはやはり大事なのです。つまり、今、エコカーにみんな乗っているでしょう。あれは資源が有限であることを念頭に置いて考えているわけです。医療も同じです。負担できるものは当然、限界がある。その中でいかに高品質にするかという概念がすごく大事なのです。医療費抑制というと、みんな何か身構えるのは、質が下がるのではないかという思いがあるからなのです。でも僕はそう思わない。だってエコカーなどはまさに質が上がっているわけですから。

 要は、限りある資源を有効に活用して、かつ効果を高める。言葉で言うと、「均質な高付加価値医療の提供」です。それは結果的には効果も高まるし、経済合理性の面でも優れているし、それから、技術で優れていれば輸出できるので、海外でも使ってもらえる。そうすれば少なくとも日本にとっては、貿易収支が改善することにもつながる。だから結局は、みんなが納得する形で医療の質を上げていけるのではないかと思う。これが僕は大事だと思っています。

 車で言うと、個別化医療とか先端医療の1つの道筋はフェラーリやF1です。つまり金に糸目はつけない。だけど、非常に画期的な治療ができる。これは必要だと思うのです。車だって、F1があるからこそ、そこでの技術がいろいろな車に反映されるわけでしょう。ただ一方においては、F1だけでは自動車産業は成り立たないわけです。フェラーリは馬力はあるし性能は高いけれども、それを本当に享受できる人の数は限られていて、アクセスが非常に限定的ですよね。

 ナノメディシンというのは、プリウスのようなエコカーですから品質は優れている。さらに、いつでもどこでも使える。アクセスが限定されない。僕らが目指している最先端というのはそういうものなのです。だから、なるべく多くの人に使ってもらって、がんであれば目に見える形で、死亡率を下げるという形で貢献していく。もしそういうものが普及すれば、製薬会社も潤うし、国民の医療費にも余裕が出る。そのようにして余裕が出たところを、数は少ないけれども非常に困っている難病、それを救うのがフェラーリとかだから、F1の開発に投入すればいいわけです。それをやることによって、全体が回るのではないかと。それが「ナノメディシンが世界を救う」ということにつながるのではないかと思います。

──再生医療とも関連はあるのでしょうか?

 再生医療ももちろん関係が深くて、たとえば最近かなり成果が出てきているのは、メッセンジャーRNAのデリバリーというのがあります。これをやると、神経再生などにはすごくいいわけです。もちろん遺伝子治療にもいいけれども、いくつかの困難な問題があって、ものすごくハードルが高い。これが本当に普及するには、やはり企業がやってくれないと駄目なのですが、企業がまず、なかなかやらないのです。タンパク質デリバリーもあるけれども、この欠点は持続性がない。メッセンジャーRNAはある程度、持続する。それからもちろんゲノムに組み込まれるということもない。唯一の問題は分解しやすいとか、免疫原性が出ること。でも最近わかったのは、うまくナノメディシン化すればそういう問題は解決する。そうすると、それらを使った再生医療ができるでしょう。細胞を使った再生医療とドッキングさせることによって、対応できる疾患が広がると思います。

 再生医療でも比較的急を要するような治療、それから、非常に複雑な臓器などには細胞を使わないと無理ですよね。一方においては、単純な骨の再生であるとか神経の再生というのも半年とか時間がかかっていますね。つまり、明日までに神経を再生しろという要求はないわけです。そういうものだったら、デリバリー技術をうまく使うと対応できるのではないか。一方、非常に急を要する、半年なんか待てない、かつ非常に複雑な臓器を構築しなければいけない場合、これはもう細胞を使うしかないと思います。神経の再生や骨の再生のように、時間はある程度かかってもいい。ただ、確実に安全に行われたほうがいい時には、デリバリーシステムを使う。場合によってはその両方をコンビネーションで使う。そういう点では再生医療にももちろん役に立つ。ただその場合は、「エコメディシン」と言っているのだけれども、エコカー的な使い方をされるということが重要なのではないかと思います。

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<最終回 「新たな世界を切り拓くために」に続く>

(インタビュアー:RegMed-now編集室/ 編集:RegMed-now編集室・シーニュ)

*本インタビューのご感想をぜひお寄せください。
regmed-infoabmes.twmu.ac.jp

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2. 再生医療トピックス

◇上廣倫理研究部門開設記念シンポジウム「iPS細胞から考える生命(いのち)へのまなざし」
  開催のお知らせ

会期:2013年7月26日(金)13:00~16:30(開場12:15)
会場:京都大学 百周年時計台記念館 百周年記念ホール
URL:http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/seminar/130703-120000.html

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◇再生医療実現拠点ネットワークプログラム キックオフシンポジウム 開催のお知らせ

会期:2013年8月26日(月)13:30~18:00(開場13:00予定)
会場:東京国際フォーラムB7/B5
参加費:無料
URL:http://www.jst.go.jp/saisei-nw/information/001.html

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3. ABMESダイジェスト

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所(ABMES)の注目の研究成果をお届けします。

◇迅速な細胞シート作製を目指したヘパリン機能化温度応答性表面上での細胞増殖/細胞剥離の制御
  有坂慶紀(Yoshinori Arisaka)ら著

 ムコ多糖であるヘパリンは、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)と複合体を形成することによって、bFGFの活性を高めることが知られている。そこで本研究では、bFGFをアフィニティー結合により表面導入するためのヘパリン固定化温度応答性表面を開発した。この表面は、温度応答性高分子鎖の膨潤/収縮変化によって、bFGF/表面固定ヘパリン間のアフィニティー結合力を制御できることが明らかになった。これは、37℃において表面導入されているbFGFによる効果的な細胞増殖の促進と、20 ℃への低温処理による細胞シートの速やかな脱着の両方を可能とする技術である。この新規温度応答性表面を用いた培養システムは、細胞シート作製時間の短縮化として有用であり、迅速な細胞シート治療を達成するための応用が期待される。

Yoshinori Arisaka, Jun Kobayashi, Masayuki Yamato, Yoshikatsu Akiyama, Teruo Okano, "Switching of cell growth/detachment on heparin-functionalized thermoresponsive surface for rapid cell sheet fabrication and manipulation"
Biomaterials. 2013 Jun;34(17):4214-22. doi: 10.1016/j.biomaterials.2013.02.056. Epub 2013 Mar 13.

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◇受賞のお知らせ

 当研究所研究生の松坂直樹さんが「Best Young Scientist Award for Poster Presentation」を受賞されました。おめでとうございます!

学会名:The 4th Asian Biomaterials Congress(2013年6月26-29日)
受賞名:Best Young Scientist Award for Poster Presentation
演題名:"Terminal-Functionality Effect of Thermoresponsive Polymer Brushes on Surface Properties and Temperature-Induced Cell Adhesion Behavior"
共著者名:Naoki Matsuzaka, Masamichi Nakayama, Hironobu Takahashi, Taka-aki Asoh, Akihiko Kikuchi, Teruo Okano





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