Vol.34(2013年1月16日配信)

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 あけましておめでとうございます!RegMed-now 編集室です。本年もどうぞよろしくお願いします。寒空が続きますが、冬ならではの空気の清々しさも感じられる毎日ですね。
 さて、今号からは好評のインタビュー企画第7弾となります、熊本大学大学院准教授・太田訓正先生へのインタビューをお届けします。太田先生は、幹細胞の研究者です。准教授になられた現在も、ご自分でも実験を行っており、研究への熱意溢れる研究者です。第1回は「研究者・太田訓正ができるまで」と題し、先生の幼少期から研究者になるまでの道のりを紐解いてゆきます。


【目次】

1. インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第7弾 太田訓正
●第1回「研究者・太田訓正ができるまで」

2. 再生医療トピックス
◇シンポジウム「iPS細胞 再生医学研究の最前線」 リアルタイム映像配信のお知らせ(2013/1/27)
◇The 4th Asian Biomaterials Congress 演題募集のお知らせ(2013/1/31〆切)

3. ABMESダイジェスト
◇せん断応力による温度応答性培養表面からの細胞脱着(唐中嵐ら)


1.インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第7弾
-熊本大学大学院 生命化学研究部神経分化学分野 太田訓正

【プロフィール】
太田 訓正(おおた・くにまさ)
1987年九州大学理学部生物学科卒業、1992 年九州大学大学院医学系研究科単位取得退学。理学博士。同年日本学術振興会特別研究員、同年熊本大学大学院医学研究科助手、その後ケンブリッジ大学研究員、さきがけ研究21「認識と形成」領域研究員(兼任)、熊本大学大学院医学研究科助教授、同大学院医学薬学研究部神経分化学分野准教授を経て現職。2012年には米科学誌プロスワン電子版に乳酸菌を使用したガン化しない多能性幹細胞作製法に関する論文を発表し、世界から注目を集めている。専門は神経発生学。


☆シリーズ第7弾を読む > 第1回第2回第3回最終回

●第1回「研究者・太田訓正ができるまで」

──まず、「研究者 太田訓正ができるまで」ということで、どのような子供時代を過ごされたかおうかがいします。

太田 出身は三重県の伊勢市、家族は両親と妹が1人、みんな研究者ではありません。僕たちの時代はテレビゲームとかインターネットみたいなものが何もなかったから、本当に野山を駆け回るというか、野生児みたいな感じでした。部活動は、中学では卓球。公民館で友だちと卓球して遊んでいたからですが、中学ではその地区では結構強かったのですよ。でも、卓球はやはりちょっと暗いというイメージがあって、高校ではイメチェンでサッカーです。僕たちの頃のサッカー部は部室でたばこを吸う先輩がおり、担任の先生からは「そんな部活はやめろ」などと言われていましたが、気にせず続けました。Jリーグは僕たちが高校を卒業する頃にできたのかな。その後、サッカー人気は急上昇しましたね(笑)。

──小さい頃の夢は何でしたか。

太田 ずばり、フォーミュラ1のレーサーですね。僕が小学生の頃は、スーパーカーブームというのがあり、スポーツ車の人気がすごかったんです。フェラーリとかポルシェとか、街で見かけるとワクワクしていました(笑)。鈴鹿サーキットが近かったことも一因ですね。

──子供のころから生物の観察が好きだったのですか。

太田 そうですね。そこまで格好いいことはないけど、どこからか生き物を拾ってきては家で飼っていました。思い出深いのは、朝4-5時に、山へカブトムシやクワガタを友達と採りにいったことです。今の子供達はそのようなことはしているのでしょうか? 観察ということはないですが、生き物にずっと触れていたような気はします。

──生物学科に進もうと思ったきっかけは何でしょうか。

太田 高校で進路を決める時に、物理と化学を専攻していたこともあり、大学は工学部系に進学かなとぼんやり思っていました。1982年にラットの成長ホルモン遺伝子を、マウス受精卵にものすごく細い注射針でマイクロインジェクションして遺伝子を組み換えたトランスジェニックマウスが作製されたのですが、体の大きさが普通のマウスの約2倍になるという新聞記事を高校2年生の時に読み、興味を惹かれました。生物そのものを遺伝子で操れるというのがとても面白いなと思って。
 担任の先生からは、医学部へ進学したらどうかと言われたのですが、自分が医者になるというイメージが全然湧かず…「トランスジェニック」という単語が理学部に進んだ一番のきっかけでしょうか。

──学生時代のエピソードはありますか。

太田 九州大学大学院修士ではヒドラの味覚受容を研究していて、2年の時には軸索ガイダンス、神経回路網形成に興味を持ち始めました。当時は軸索ガイダンスという領域がなくて、それに近いことを研究しようと思ったら医学部くらいしかなかったのです。ちょうどその頃に、軸索ガイダンスのパイオニアと言われている藤澤肇先生(当時:京都府立医科大学助教授、現: 名古屋大学名誉教授)が、九大のセミナーに来られました。あれは運命的な出会いでした。

 藤澤先生は、まさに自分がやりたいことをやっておられたのです。その日の懇親会では偉い先生ばかりのなか参加し、「自分でお金を払うから参加させて欲しい」とお願いしました。博士課程からは京都府立医大の研究室にもぐり込むことに成功しました。翌年藤澤先生は名古屋大の理学部の生物の教授になられたので、何の疑いも無く一緒について行きました。僕がトラックを運転して、機器類を名古屋まで運んだ思い出があります(笑)。

 当時は、修士・博士と、だいたい一貫した1つのテーマを学ぶのが普通だったと思うのですが、僕みたいに途中でテーマや学校を変える人はほとんどいなかった。名古屋大での身分証の名前は「特別研究学生」でした。それくらいまれな存在だったみたいです(笑)。

 藤澤先生が九州大学にセミナーに来られていなかったら、軸索ガイダンス分野の研究はやっていなかったかもしれないし、当時はバブル絶頂期だったので民間に就職していたかもしれないですね。

──恩師である藤澤先生から、どういった指導を受けたのでしょうか。

太田 藤澤先生は態度で示すような先生でした。50歳ぐらいまでご自分で実験をされていた一方で、大型の研究費も稼いでこられて、書類書きとか伝票の整理を全部ご自分でされていたのです。秘書さんやテクニシャンは一人もいませんでしたから。今、僕がそれをやれるかというと、なかなか難しいですね。背中で見せる先生でした。格好いいですよね。 

──研究者としての初めての研究テーマはどういうものですか。

太田 軸索ガイダンスについて、僕はプレキシンという分子をクローニングしてひたすら作っていました。神経系の研究を行っていると、当時は抗体染色でどんなにきれいに染まるかというのが命だったんです。このプレキシンを認識する抗体(当時はB2抗体と呼ばれていた)は、網膜の内網状層と外網状層という、シナプスが形成される層だけをきれいに染めます。僕はその染色パターンに魅了されて、このB2抗原のクローニングを研究テーマとしようと思いました。

 藤澤先生の研究室で主に研究されていたのはニューロピリンという分子で、この分子は僕が行った頃にはほぼクローニングが終わっていたのです。プレキシンは、抗体があって免疫染色がきれいという発表はあったけれども、誰もやっていませんでした。それで4人しかいない研究室だったのですが、4人のうちの1人、僕がプレキシンで、他の2 人、高木新先生(現、名古屋大学)や平田たつみさん(現、遺伝学研究所)はニューロピリン。当時、プレキシンはどういう機能をしているかなど一切わからないので、手探りで始めました。その時の免疫染色の写真が『細胞工学』(2012年10月号)の「1枚の写真館」というコーナーに、「B2抗原からPlexinへ」という題で掲載されているので、ぜひ見てください。


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<第2回 「生体内情報伝達経路の仲介因子としてのTsukushi」に続く>

(インタビュアー:RegMed-now編集室/ 編集:RegMed-now編集室・シーニュ)

*本インタビューのご感想をぜひお寄せください。
regmed-infoabmes.twmu.ac.jp

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2. 再生医療トピックス

◇シンポジウム「iPS細胞 再生医学研究の最前線」 リアルタイム映像配信のお知らせ

今月末、ノーベル賞受賞で話題のiPS細胞研究に関するシンポジウムが神戸で開催されます。非常に人気が高く申し込みは締め切られましたが、HP上で講演の様子がリアルタイム中継される予定です。

日時:2013年1月27日(日)14時~17時(予定)
演者(敬称略):岡野栄之(慶応義塾大学)、中内啓光(東京大学)、笹井芳樹(理化学研究所)、井上治久(京都大学)、山中伸弥(京都大学)
URL:http://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/seminar/121130-125501.html


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◇The 4th Asian Biomaterials Congress 演題募集のお知らせ

会期:2013年6月26日(水)~29日(土)
会場:Hong Kong University of Science and Technology (HKUST), Hong Kong
要旨締切:2013年1月31日(木)
URL: http://www.abmc4.ust.hk/index.html

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3. ABMESダイジェスト

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所(ABMES)の注目の研究成果をお届けします。

◇せん断応力(*1)による温度応答性培養表面からの細胞脱着
  唐中嵐(Tang Zhonglan)ら著

 本研究では、細胞が温度応答性表面から剥がれる際の、細胞脱着の動力学的な性質を調べるために、平行平板型流体システム(*2)を参考にマイクロ流路を用いて、温度応答性培養表面からの細胞脱着に要する力を評価するためのデバイスを構築した。この流路は幅400μm、深さ50μmの五つのチャネルを並べた構造となっており、流路の長さを変化することで、各流路の流速の比がそれぞれ3.0:2.5:2.0:1.5:1.0となるように設計した。各流路に播種したウシ血管内皮細胞、またはマウス繊維芽細胞は、37℃のインキュベーターで24時間培養すると、マイクロ流路内に接着および伸展していた。細胞を播種したマイクロ流路デバイスを、20℃に設定したクールプレートの表面に放置し、流速2.0ml/hで培地を流すと、細胞は液体の流れによって生じたせん断応力により除々に温度応答性表面から剥離した。細胞脱着のプロファイルはpeeling model(*3)を用いて分析し、細胞脱着時の細胞変形速度定数Ctと細胞脱着速度定数k0を得られた。本方法を用いて、接着した細胞を表面から剥がすために必要な力をはじめとする、細胞と表面との相互作用を検討することが可能となる。

*1 せん断応力:流れなどの影響で、物体の表面と平行に滑らせるように働く力。ずり応力。
*2 平行平板型流体システム:平行な二枚の平板の中を流体が流れて行く系のこと。単純な流体力学を適用して、内部の流れを考えることができる。
*3 peeling model:細胞の接着した表面からの剥がれ方を再現するモデルのひとつ。

Tang Z, Akiyama Y, Itoga K, Kobayashi J, Yamato M, Okano T., "Shear stress-dependent cell detachment from temperature-responsive cell culture surfaces in a microfluidic device"
Biomaterials. 2012 Oct;33(30):7405-11.





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