Vol.32(2012年11月21日配信)

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 こんにちは、RegMed-now編集室です。あっというまに秋も過ぎ去りもう冬の気配ですね。 TWInsは各種シンポジウム、視察、忘年会とイベント続きです。流行中の風邪に負けないよう、2012年のラストスパートをかけて行きましょう!
 さて、連載中の慶応義塾大学・総合医科学研究センター特別研究准教授の松崎有未先生のインタビューは3回目に突入しました。今回は先生のメインの研究テーマである間葉系幹細胞の正体についてじっくり語って頂きました。


【目次】

1. インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第6弾 松崎有未
●第3回 「間葉系幹細胞の正体を明らかに」

2. 再生医療トピックス
◇第3回グローバルCOE公開シンポジウム 開催のお知らせ(2012/11/22)
◇第22回インテリジェント材料/システムシンポジウム&第7回バイオ・ナノテクフォーラムシンポジウム 開催のお知らせ(2013/1/8)
◇枝野幸男経済産業大臣および仙谷由人衆院議員ら、TWInsを訪問

3. ABMESダイジェスト
◇三次元組織内での細胞パターニングによる血管網のデザイン(村岡恵ら)


1.インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第6弾
-慶応義塾大学 総合医科学研究センター 松崎有未

【プロフィール】
松崎 有未(まつざき・ゆみ)
筑波大学第一学群自然学類数学主専攻および医学専門学群を経て1997年博士課程修了。Children’s Hospital/Harvard Medical Schoolなどでのリサーチフェローを経験後、慶応義塾大学医学部生理学教室にて現職。


☆シリーズ第6弾を読む > 第1回第2回第3回最終回

●第3回 「間葉系幹細胞の正体を明らかに」

─―先生は間葉系幹細胞(MSC)をはじめとする様々な体性幹細胞の研究をされていますが、これらのテーマに着目されたきっかけは何ですか。

 松崎 まずMSCに関してですが、実は自分でやりはじめる前は“MSCと言われているものは存在しない”と思っていたのです。当時、MSCと考えられていたものは、きっと骨髄の細胞にマクロファージか何かが貼りついて、何となく長細くなって増殖性を獲得してしまっただけではないかと私は考えていました。ただ、存在しないとも言い切れないし、もしあったらおもしろいと思い、まず、基にあるものをきちんと同定することから始めたのです。

 神経堤幹細胞研究に関して言うならば、脊髄損傷の治療グループから、治療に神経堤幹細胞を使いたいと声をかけられたのが起源です。ヒト生殖組織幹細胞に関しても、産婦人科の研究者が、子宮内膜にも幹細胞が絶対いるはずだから、先生のところで研究させてくださいと言って来たのが始まりです。フローサイトメーターを使っていると、いろいろな人が自分の持っている細胞を解析したい、この中に幹細胞がいるはずだと言ってくる機会が多いんです。自分でやり始めたのは、MSCだけです。本当にあるのかどうかを証明したいと。

──今後のMSC研究の展望としてはどういうことを考えていますか。

 松崎 一番興味があるのは、やはり末梢の循環動態。今まで間質系の細胞というのは、あくまでも間葉系の細胞であって、その場にいて支持組織を網目状に構築していて、そこに血球細胞がやってきては離れていくというスキームだったと思うのですが、そうではなくて、骨髄のMSCというのは意外に自ら動いて、血中を循環しているらしいことがわかってきました。しかも細胞の運命のいろいろな段階で、形質を刻々と変えているようだ、と。そこのところがちょっとわかり出したので、それが非常におもしろい。炎症や免疫とも絡んできますし。

──造血幹細胞も骨髄ニッチ(造血幹細胞のすみか)から外れて体を循環して帰ってくるというモデルがあります。MSCもそうなのでしょうか?

 松崎 どうも回っているみたいです。ただ、それが全身や局所の炎症を発症しているところから呼ばれて行っているのか、それともまったくそうではなくて勝手に出ていっているのか、、いまひとつわからない。とくに損傷を与えたからといってバッと出ていくわけでもないのです。その出て行くシグナルというか、機構がよくわからない。さらに、出ていった先で形質もすごく変わる。しかもそれは、今までMSCとは関係がないと思われていた細胞らしいのです。その辺が「なるほどなあ」というところであって、とくに炎症との絡みでおもしろくなりかけています。

──静脈から注射した培養MSCは生体に生着できませんが、体内にあるものはできるということも発表されています。

 松崎 体外で培養したMSCと体内のMSCは全然違う。同じものだと思ってはいけないということは、声を大にして言いたいですね。

──再生医療の研究をしていても、組織工学と幹細胞の研究者ではMSCの認識に大きな差がありますが、この現状についてどう感じていますか。

 松崎 MSCというのは材料として優れています。骨髄細胞さえあれば、培養皿に入れて培養するだけで比較的簡単に増やせて、加工するのも楽です。何かに分化させようとすれば、簡単になってしまう。そういう意味では、工学系の人たちがMSCを使って骨を作ったり軟骨を作ったりというのは、それはそれでいいと思います。

 ただし私たちは、取り出してきてどうなるかではなくて、生体の中で本来何をやっているのかを一番知りたいのです。MSCを幹細胞としてとらえるのなら、何といってもやはり生体内でしょう。生体外で何をやったところで、それは似て非なるものというか、似たようなものを見ているといったらよいでしょう。その辺のとらえ方の違いです。たとえていうなら、写真ではなく絵を見ているようなもの、興味の違いですね。

 私たちはあくまでも生体内に、細胞の本質を理解するところにこだわってきたのです。しかも、よくわかっていないから、一番おもしろい、燃えるところですよね。みんなやっていることはできるだけやらない。みんなやらないことを、のんびりやりたい。みんなやっていることをやると、焦って結果、論文を出さなければいけなくなるでしょう。しかし最近私達が目指している方向のMSC研究もトレンドになりつつあるので、ちょっと困っています(笑)。

 特に2009年に『The Journal of Experimental Medicine(JEM)』にうちの大学院生だった森川暁君が出した論文はその転機になったと思います。その結果、マウスのMSCの実験ができるようになった。MSC研究というのは、基本的にヒトのMSCを使って生体外でやられてきたのがほとんどです。マウスを使っているのはたぶん10分の1くらいで、生体から取り出してすぐのMSCを使った研究なんてほとんどなかった。しかしその重要性がなかなか理解されなかったから高名な学術誌にはことごとく蹴られたけれども、『JEM』に掲載されてから、生体内での動態を可視化しようという試みが増えてきています。自分たちの成果がいい雑誌に載らなかったのは悔しいけれども、その重要さが気づかれはじめたので、まぁいい仕事をしたかなと私たちは思っています。ヒトでは生体内の実験はできないのですから。

──幹細胞の研究者として、組織工学とかバイオマテリアルの研究者にリクエストはありますか。たとえばこんな素材とか組織モデルがほしいとか。

 松崎 三次元の培養系も少し作ってくれると助かる。やはり平面で培養しているとわからないことがけっこうあります。また組織を作る効率を上げたいなら、私たちのデータや知見をもう少し使ってくれたらいいなと思います。どちらかと言うと、あまり興味をもってくれないのですね。いくらMSCの純度を上げていって、粒ぞろいのすごくきれいなピカピカの細胞が取れますよ、と言ったところで、「ああ、そうですか、そこまでやらなくても、うまくいっているからいいですよ」ということが多くて、それが残念ですね。

それと意見を交換できる場がお互いにないのですね。バイオマテリアルの学会と幹細胞の学会とのジョイントをまずやったほうがいいかもしれない。もしかしたらお互いに得るものがあるかもしれないですし。

──ところで、近年メディアで幹細胞を用いた治療などの記事や、クリニックの広告が増えていますが、一方で規制の問題や、効果、安全性などが疑問視されているということもあります。先生はクリニック等で行われているいわゆる幹細胞治療に関して、どういう見解をおもちですか。

 松崎 MSCを静脈注射してしまう人たちがいまだに後を絶たないことを一番危惧しています。非常に危険です。培養して増やしたMSCというのは肺に詰ってしまって、下手をすると肺塞栓を起こして死んでしまう。これはネズミの実験で多くの論文が出ていて、ほぼ常識です。しかし、それを知らずにMSCを点滴して患者さんが亡くなってしまった事故が日本でも起きています。何でもいいから治してほしいと思っている人にとっては、藁をもすがる思いでしょう。MSC自体は、様々な液性因子を分泌するという性質が非常に強いので、その意味をわかったうえで使うなら、何かしらの治療の目的を果たせると思います。

 でも、例えば外国では、鼻粘膜から取ってきた幹細胞に似た細胞を打つと筋萎縮性側索硬化症という難病が治るとかいっているものがありますが、治るわけがない。本当にいつまでたっても原理がよくわからないまま、肝硬変や、だめになった心筋を治そうとしてMSCを打つ人たちが後を絶たないのです。治ればOKみたいな雰囲気がどうしてもあります。幹細胞の補充療法として、つまり機能する細胞を、だめになった細胞、パーツの代わりに入れてあげるという意味ではほとんど役に立たないということを理解してもらわないと、いつまでたってもこういうことになると思います。

 とにかく培養したMSCは静脈注射してはいけないというのは、やはり学会等が主体となって注意、警告しないといけません。わかっていても「ちょっとしか打たないから大丈夫ですよ」とか、わけのわからないことを言う人たちが本当に後を絶たない。だけど、日本には幹細胞学会がない。幹細胞学会をきちんと作って、幹細胞の性質を明らかにするための基礎研究をしっかりやって、その知識を臨床へ還元する道筋を作るべきですね。

・・・・・・・・・

<最終回 「夢、若手へのアドバイス」に続く>

(インタビュアー:RegMed-now編集室/ 編集:RegMed-now編集室・シーニュ)

*本インタビューのご感想をぜひお寄せください。
regmed-infoabmes.twmu.ac.jp

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2. 再生医療トピックス

◇第3回グローバルCOE公開シンポジウム開催のお知らせ

テーマ:「今、先端医療には若手研究者の夢と力が必要だ!」
会期:2012年11月22日(木)10:00~17:50
会場:東京女子医科大学 弥生記念講堂
参加費:無料(懇親会費:1000円)
事前登録:不要
URL:http://twins.twmu.ac.jp/gcoe/3rdsympo.html


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◇第22回インテリジェント材料/システムシンポジウム & 第7回バイオ・ナノテクフォーラムシンポジウム開催のお知らせ

主催:一般社団法人 未踏科学技術協会  インテリジェント材料・システム研究会
会期:2013年1月8日(火)10:00~17:30(予定)
会場:東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 TWIns 2階会議室
参加費:協会会員:4000円、一般:14000円、学生:3000円
URL: http://www.sntt.or.jp/imsf/index03.php

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◇枝野幸男経済産業大臣および仙谷由人衆院議員ら、TWInsを訪問

  10月24日に枝野幸男経済産業大臣および製造産業局関係者7名、11月1日に仙谷由人衆議院議員および経済産業省関係者5名が本学先端生命医科学研究所(TWIns)の視察および研究者との意見交換のために訪問されました。

↓詳細は以下のURLをご覧下さい↓
http://www.twmu.ac.jp/news/news-u-all/768-twins.html
http://www.twmu.ac.jp/news/news-u-all/772-twins.html

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3. ABMESダイジェスト

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所(ABMES)の注目の研究成果をお届けします。

◇三次元組織内での細胞パターニングによる血管網のデザイン
  村岡恵(Muraoka Megumi)ら著

  毛細血管網は、組織内部の細胞の生存や組織の機能発現において欠かせない構造である。そこで、三次元組織の構築において組織内への血管網の導入が大きな課題となっている。本研究では、温度応答性培養皿上で血管内皮細胞を実際の血管網のような形に並べる事で、三次元組織のなかに組み込む事の出来る血管網の構築を目指している。線維芽細胞シートでストライプ状にパターン化した血管内皮細胞をサンドイッチした組織モデルを用いて、三次元組織内での血管内皮細胞の動きを観察したところ、血管内皮細胞の配置に合わせて線維芽細胞の配向をデザインした組織において、パターン形状を保つ事が可能であった。これにより、組織の三次元構造全体を意識したデザインを行うことで、パターニングによる組織内での毛細血管網の構築ができる可能性が示唆された。

村岡恵、清水達也、糸賀和義、高橋宏信、岡野光夫, " Control of the formation of vascular networks in 3D tissue engineered constructs "
Biomaterials,2013; 34: 696-703





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