Vol.31(2012年10月17日配信)

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 こんにちは、RegMed-now編集室です。厳しい残暑も過ぎ去り、過ごしやすい季節になりましたね。Regmed-nowは31号を迎えました。これからもますます内容の充実に努めて参りますので、これからもご購読頂けますと幸いです。
 さて、今号は引き続き慶応義塾大学・総合医科学研究センター特別研究准教授の松崎有未先生のインタビューをお送りいたします。先生の学生時代の研究留学時の体験、研究に対する考えなどを伺い、学生の方々へのアドバイスもいただきました。どうぞお楽しみに。


【目次】

1. インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第6弾 松崎有未
●第2回 「プロの研究者としての第一歩」

2. 再生医療トピックス
◇第12回 日本再生医療学会 演題募集中のお知らせ(2012/9/11~2012/11/14)

3. ABMESダイジェスト
◇脱着速度の差で細胞を分離するインテリジェント表面の作製(長瀬健一ら)
◇IL-1レセプターアンタゴニストによる上皮細胞の増殖制御(近藤誠ら)
◇受賞のお知らせ


1.インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第6弾
-慶応義塾大学 総合医科学研究センター 松崎有未

【プロフィール】
松崎 有未(まつざき・ゆみ)
筑波大学第一学群自然学類数学主専攻および医学専門学群を経て1997年博士課程修了。Children’s Hospital/Harvard Medical Schoolなどでのリサーチフェローを経験後、慶応義塾大学医学部生理学教室にて現職。


☆シリーズ第6弾を読む > 第1回第2回第3回最終回

●第2回 「プロの研究者としての第一歩」

─―学部生の時に最初の研究論文をまとめられたそうですが、研究テーマについて教えてください。

 松崎 MRL-lpr/lprマウスという自然発症の自己免疫モデルマウスがあって、その表現型の解析です。今ではFasというレセプターの突然変異だというのがわかっていますが、その頃はまだわかっていなかった。リンパ節が異常に大きくなるので見た目からして何かが完全におかしくなってる、とはっきりわかるマウスなんです。そのT細胞が、また変なT細胞で、T-cellレセプターは発現しているけれどもCD4とCD8は出ていない。非常に不活発になっているというような、ちょっと変わった表現型になっていて、それがどういうふうに発生してくるかということを調べて論文にしたのが医学部の2年生の時です。

──最初は幹細胞の研究ではなかったのですね。

 松崎 幹細胞の研究で有名な須田年生先生(現慶應義塾大学教授)のところから代々血液内科医が中内研に派遣されてきていて、それで造血幹細胞の研究を中内研でもやり始めてはいました。岡田誠司先生(現熊本大学教授)に手ほどきを受けて、コロニーアッセイ法や骨髄移植の仕方など、基本的な手技はできるようになっていたのですが、その頃はT細胞をメインにしていたので、造血幹細胞は正直いってあまり興味がありませんでした。
 その最初の研究の流れで、c-kitという抗原をマーカーにして、胸線の中の一番未分化な細胞、T前駆細胞を同定した研究、むしろこちらの方が最初の論文といえるでしょうか。c-kitの抗体を作った小川峰太郎先生(現熊本大学教授)、西川伸一先生(現理化学研究所)とのコラボレーションで、私がセカンドオーサーの論文が先だったんですが、その頃はまだ、自分たちで精製抗体を作って、蛍光標識して、それでフローサートメトリーで解析するというのが当たり前だったから、西川研で作ったc-kit抗体に色素をつけて他の抗体と組み合わせて骨髄細胞の多色解析をした結果がその論文に載りました。学部の学生の4年か5年の時、私は解析しただけですが、『The Journal of Experimental Medicine』に載って、今までに500くらい引用されています。
 その頃は論文を書くとき、Figure 1といったら本当に図は1個だったのですね。フローサートメトリーの図ひとつでFigure 1だった。今図1つといったらパネルが10個分くらいある。やらなければいけないことが多すぎて、論文を出すのも年々大変になってきています。

──学生、院生時代の悩みはありますか?

 松崎 その頃の悩みは、雑用でこき使われたことですね。これが一番のストレスでした。だって、大学から給料をもらっている人たちが研究に専念している隣で、学部の学生、大学院生でお金を払っている立場の人間が、なんでこんな雑用をやらされているのか、おかしいと思いません?でも、嫌いじゃないからやってしまう、これはよくないですよ。とにかく雑用をほいほい引き受けてはだめです。慶應に来てからは言われてもやらない、できる限り死んだふりをして、あまりやらないようにしていました。やはり自分の立ち位置を決めておかないとだめですね。

──研究のスランプがあった時は、どうやって脱出するのですか?

 松崎 スランプというのは、研究がうまく進まないということでしょうか?あまり考えないことにする。とにかくできる限り考えない、何かやっているうちに必ず見つかる、と思うことにしています。
 しかし、実験がうまくいかないとかというのは、スランプのうちに入りません。実験がうまくいかないとき、こういうことが問題か、ああいうことが問題かといって、いろいろ試していって一つずつ潰していく作業そのものが実験でしょう。それはスランプではありません。
 私にとってのスランプというのは、アイデアが出ない、次に何をやるかテーマが見つからない時です。そういう時は、普通はあれこれ論文を読んだりしてよく勉強するのだろうと思うのですが、あまりそういうことはしません。だって、そこから得られるアイデアなんて、基本的にもう出ている、発表されていることでしょう。それよりは、いろいろな人と話をしたりセミナーをいろいろ聞きにいったりします。それも人がやっていることではないかといわれるかもしれないけれども、人が話しているデータ、情報はリアルタイムにパッと出てくる、生のものなのです。
 それについてその人がどう説明するかのほうが、文章を読むよりイメージが鮮明で、良いアイデアが浮かぶことが多いです。シンポジウムを聞きに行ったり、学会にできるだけ参加して、人に会って話をすることがやはり一番重要だと思う。話しているうちに何となく、「そう言えばこの間こんなことがあったな、あれはもしかしたらおもしろいネタになるかもしれないな」というのを思いついたりします。とにかく友達をいっぱい作って、学会に行った時に話せる相手を作っておくのが大事です。

──先生は研究を楽しんでいらっしゃるように思えます。

 松崎 先ほども述べましたが、中内啓光先生が、口が酸っぱくなるほどおっしゃっていたのは、「思いもよらないことが出た時はおもしろい」。こうなるのではないかと思って実験してみたらまったく予想外の、違う結果が出たとします。ふつうは、「やり方が悪かったのではないか?何か間違っているのでは?」と考えます。そういうとき、中内先生は真っ先に、「おもしろいじゃん、これ」と言う。「考えたとおりになるのって全然おもしろくないんだよ。考えたのと逆の結果になった時がおもしろいんだよ」と、常に、しつこいくらいおっしゃっていました。「実験が失敗したのかな」とへこんでいたのが、「そうか、もしかしたらこれはおもしろいかもしれないんだ」となると、すごく研究が楽しめるのです。今はなかなか楽しめないですね。やらなければならないことが多くなってくると、どうしても研究で楽しめないですね。

──アメリカに留学されていましたが、日本との違いはどのように感じられますか?

 松崎 難しいところですね。研究自体は日本のほうがとにかく圧倒的にやりやすい。お金があって設備があって人がいればの話ですけれども。アメリカといっても行くところによります。私が行っていたボストンは、基本的に、「とにかく人を蹴落としてなんぼ」の人が集まっているところだから、正直あまり楽しくありませんでした。とくに私が行った時には、いい意味でも悪い意味でもものすごくアグレッシブな人がいて、その人のおかげで研究室の中がしっちゃかめっちゃかだったので、正直アメリカはあまりいい思い出がない。最初に入った研究室のボスとうまくいかなくて研究室を変わったりしたので、途中でテーマも変えざるをえなくなったり、データは出ていたけれども論文も出せなかったし。
 だから、研究や仕事の内容よりも、行くところは選んだほうがいいですよ。ボストンにはハーバード大やMITなどもちろん一流どころがあるけれども、街自体にもなじめなかった。私はどちらかというと、イタリア系というかラテン系人が集まっているところに行けばよかったかなと。西海岸にしとけばよかった!というのが一番の後悔かも。
 慶應に来てからは、楽しいですね。やればやっただけ成果が出るようになったし、慶應の人たちは真面目なので、私が言いたい放題、アイデアを出すだけで、みんなワーッと手を動かして論文も出してくれるので、非常に楽で楽しいですね。学生、臨床から来る人たちはやる気があるし、真面目で熱心。育ちがいいからかしら。

──雰囲気を大切にされているのですね。

 松崎 どうせやるのなら楽しいほうがいいじゃないですか。アメリカは、今はもう予算規模が小さくなってしまっているから、とにかくお金を取るためにみんな汲々としている。だから、すごく慌ただしく、期間が短すぎてしまって、ほとんど半年単位くらいで勝負をかけようとしているじゃないですか。あれでは、たとえスタンフォード大であっても、とても楽しめないだろうなと思う。
 ヨーロッパはいいですよ。のんびりというのではないけれども、お金がない分よく考えておもしろいことをやろうとしますね。アメリカはお金をいっぱいかけて人をたくさん使って、早くやろうとする。みんなが思いつくようなことを早くやるのがアメリカ。ヨーロッパはそうではなくて、頭をよく使ってアイデアでおもしろいことをやろうという雰囲気があるのではないでしょうか。

・・・・・・・・・

<第3回 「間葉系幹細胞の正体を明らかに」に続く>

(インタビュアー:RegMed-now編集室/ 編集:RegMed-now編集室・シーニュ)

*本インタビューのご感想をぜひお寄せください。
regmed-infoabmes.twmu.ac.jp

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2. 再生医療トピックス

◇第12回日本再生医療学会 演題募集開始のお知らせ
 -10年後を担う再生医療を目指して-

演題登録受付期間:2012年9月11日(火)~2012年11月14日(水)
会期:2013年3月21日(木)~23日(土)
会場:パシフィコ横浜
URL:http://www2.convention.co.jp/12jsrm/

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3. ABMESダイジェスト

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所(ABMES)の注目の研究成果をお届けします。

◇脱着速度の差で細胞を分離するインテリジェント表面の作製
  長瀬健一(Nagase Kenichi)ら著

 近年、新しい医療技術としての細胞治療、再生医療が急速的に発展しており、それに伴い、細胞の活性を損なわずに分離・精製する技術が強く求められている。そこで本研究では、温度応答性高分子をガラス基板上に高密度に修飾し、親水性・疎水性が変化する温度応答性インテリジェント表面を作製した。四種類のヒト細胞をインテリジェント表面上へ37℃で接着、20℃で脱着したところ、接着速度はほぼ等しいのにもかかわらず、脱着速度に顕著な差が見られた。そこで、血管内皮細胞、骨格筋芽細胞を37℃でインテリジェント表面上に接着させ、20℃に温度変化させると、インキュベーション初期に血管内皮細胞が回収でき、インキュベーション後期に骨格筋芽細胞が回収できた。これらより細胞間の脱着速度の差を利用した新規細胞分離システムの可能性を示した。

長瀬健一,木村綾華,清水達也,松浦勝久,大和雅之,武田直也,岡野光夫, "Dynamically cell separating thermo-functional biointerfaces with densely packed polymer brushes"
Journal of Materials Chemistry, 22(37):19514(2012)


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◇IL-1レセプターアンタゴニストによる上皮細胞の増殖制御
  近藤誠(Kondo Makoto)ら著

 角膜や食道の再生医療のため、口腔粘膜上皮細胞シートの移植が有用な治療法として注目されており、この培養工程の細胞増殖の制御は、確実なシート作製や患者待機時間減少のため不可欠である。イヌ口腔粘膜上皮細胞は,培養系から3T3フィーダーレイヤーやコレラ毒素を除いた増殖に不利な条件でも非常に高い増殖能を示す。培養5~9日目のイヌ細胞培養上清はラット細胞の増殖を顕著に促した。この時期のイヌ細胞に高発現なサイトカインをスクリーニングしたところ、IL-1レセプターアンタゴニストが口腔粘膜上皮細胞や表皮角化細胞の増殖を促すことが見出された。さらに,培養された細胞は正常なマーカー発現を示しており、臨床応用への可能性が強く示唆された。

近藤誠,大和雅之,高木亮,並木秀男,岡野光夫, "The regulation of epithelial cell proliferation and growth by IL-1 receptor antagonist"
(In Press)


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◇受賞のお知らせ

 当研究所講師の長瀬健一先生が韓国(大邱)にて開催されました15th International Biotechnology Symposium and Exhibition (IBS2012)においてIBS2012 Organizing Committee Poster Awardsを受賞しました。おめでとうございます!

学会名:15th International Biotechnology Symposium and Exhibition (IBS2012)(2012年9月16-21日)
受賞名:IBS2012 Organizing Committee Poster Awards
演題名:Cell separating intelligent bio-interfaces having thermo-responsive polymer brushes
共著者名:Kenichi Nagase, Ayaka Kimura, Tatsuya Shimizu, Katsuhisa Matsuura, Naoya Takeda, Teruo Okano




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