Vol.25(2012年4月18日配信)

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 こんにちは、RegMed-now編集室です。新年度が始まり、はや半月程経ちました。新たに研究生活をスタートされた方もようやく慣れてきたころと思います。本メルマガも、フレッシュな気分で今年度をスタートし、みなさまにホットな情報をタイムリーにお届けできるよう頑張っていきますので、今後とも応援お願いいたします!!
 さて、金沢工業大学の松田武久先生のインタビューも今回が最後となりました。先生は、昨年度末でご退官となりましたが、まだまだ研究に対する情熱は衰えない様子で、きっと今後もどこかの研究報告会でお目にかかれるのではないかと期待しています。最終回は、先生から後進の私達にメッセージをいただきましたのでお送りいたします。


【目次】

1. インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第4弾 松田武久
●最終回 「研究者人生の総決算として」

2. 再生医療トピックス
◇第14回国際組織細胞化学会議(ICHC 2012) 演題〆切【2012/4/30】迫る(2012/8/26-29開催)
◇活動報告 FIRSTサイエンスフォーラム2

3. ABMESダイジェスト
◇細胞シート工学を用いた生体組織再構築の実験プロトコール(原口裕次ら)


1.インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第4弾
-金沢工業大学 松田武久

【プロフィール】
松田 武久(まつだ・たけひさ)
1968年京都大学工学部燃料化学科卒業。1968年三井東圧(現 三井化学)(株)技術研究所に入社後、1972年、京都大学で博士号を取得。その後、渡米し、ケース・ウェスタン・リザーヴ大学で博士研究員、米国無機化学メーカーのローム・アンド・ハース社の中央研究所で研究に従事。1980年、設立されたばかりの国立循環器病センター研究所人工臓器部に研究室長として就任。1998年、九州大学大学院医学研究院医用工学分野教授、2006年、金沢工業大学のゲノム生物工学研究所教授に就任。


☆シリーズ第4弾を読む > 第1回第2回第3回最終回

●最終回 「研究者人生の総決算として」

◆大学教授のポジションを固辞していたわけ

――国立循環器病センター(現在の国立循環器病研究センター)には18年間いらっしゃったのですね?

松田 そもそも僕の中では、福井先生(福井謙一名誉教授・京都大学)が生きておられるときに自分が大学の教授になるというのが嫌だったんですよ。福井先生みたいな方が大学の先生だと思うと、僕が大学の先生だというのは、とてもじゃないけど恥ずかしい。いろいろな大学から声をかけてもらったんですが、全部断っていたんです。福井先生が1998年の1月に亡くなられた後のその年の4月1日の7時頃に電話がかかってきました。「九州大学医学部長の杉町ですけれども」と。第二外科の教授で、ハイブリッド肝臓をやられた方です。何の話かと思えば、「今、教授会が終わったんですが、先生が圧倒的第1位で教授に推薦されました。どうされますか?」ということでした。
 僕は、「医学部からのお誘いは初めてで、何だか面白そうだから僕は行きます」と決めたんです(笑)。大学院の医用工学の教授として赴任しました。でも、福井先生が亡くなる前だったら行かなかったと思います。「松田君、何で君が大学の教授になるんだ?」と、言われそうな気がしてね。九州大学では、心臓外科、整形外科、脳外科、皮膚科や腫瘍外科等の臨床医局から大学院生が派遣され、多くの再生医学の研究に関与しました。また、福岡の街は海に面していて、この地に住めたことがうれしかったです。

◆夢を完結させたい!

――その後、金沢工業大学に移られて、2006年にはゲノム生物工学研究所教授に就任されています。

松田 金沢工業大学では、産総研の生命研究所長をされていた大箸先生と一緒に今の研究所を立ち上げました。国循時代から継続して研究をしてきた小口径人工血管ステントの研究を金沢大学心肺外科と循環内科との共同研究で行なっております。実験動物として愛玩動物の犬はもう使えないので、ブタの血管がヒトの血管と反応性の面で非常によく似ているということで、ブタを使った移植実験を始めました。日本で唯一ブタの手術をできるのが九州大学だったので――これは医師なら誰でもできるというわけではありませんからね――、九州大学の循環器内科におられた下川宏明先生(現・東北大学教授) と親しかったので、指導をお願いすることになりました。
 金沢大学の医学部から循環器内科の医師を5人、5日間東北大学に派遣して頂き、ブタの麻酔のかけ方などゼロからスタートして、朝から晩までブタの実験に関する訓練を積んでもらいました。東北大学から帰ってきても、時には失敗があるわけですよ。今はもう、in vivoの実験で安定したデータが出るようになりましたけれども。
 僕は最終的にはin vivoの実験しかデータとして使わないんですよ。in vitroの実験というのは論文を書きやすいわけです。きれいにできるから。でも、in vivoの実験には努力がいるし、継続してやらなければいけないし、ものすごくたくさんのファクターが入りますよね。しんどいけれども、やはりそれをやる。ところが、in vivoの実験をやっても論文としてはアクセプトされにくいんです。バイオマテリアルの分野なんかでは、ポーンとはね返されるときがあります。特別な分野で臨床に近い人しか読まないということでね。
 僕が今やっているのは、流血中に極く微量含まれている血管内皮前駆細胞を流血下でデバイスの人工基材表面で捕捉し、ついで分化誘導して内皮化するというシナリオのテクノロジーがどこまで行けるかということですね。ここまではできて、これ以上はできないとか、こういう方法でやったらもう少し可能性があるとか、そういうことも論文を書いて出したいと思います。デバイスの血液接触面の“自己化”技術を実現し、“究極のバイオインターフェース”の夢を完結させたいという気持ちがありますね。

◆一時の評価は気にしなくていい

――最後に、若手研究者へのメッセージをお願いします。

松田 そうですね。あまり人の言うことを聞かないほうがいいかもしれないね(笑)。明らかに間違っているという以外は、今までの常識の中で評価するのはよくないでしょうね。岡野先生の細胞シート工学だって、「そんなのは意味ないだろう」という声もあったのに、あれだけ大きな展開とインパクトのある立派な研究分野を樹立されたでしょう。片岡一則先生(現・東京大学教授) の高分子ミセルの話だって、「あれは絶対に肺の毛細血管のところで詰まるよね。片岡さんは知っているのかな?」なんて評価もありました。だけれど、世界に先駆けるドラッグ・デリバリーの分野を大きく拓いている。だから、簡単に「イエス」とか「ノー」とか、「駄目だ」とか「できる」とか、そういうことを言うべきではないなと思ったよ(笑)。
 それまでは、岡野先生にしても片岡先生にしても、いろいろと大きな研究費をもらって研究してきても、最先端の分野での取り組みだから、うまくいかないほうが多かったと思います。ところが、2人とも、2塁打どころかホームランを打っちゃった。岡野先生自身がそう言っていたね。僕が「2塁打か3塁打じゃない?」と言ったら、「いや、ホームランです」って(笑)。
 だけど、それは同業者としてうれしいことですよ。そういうことが2つ、3つ、4つと出てこないと、こういう分野は社会から消されていくと思うよ。だから、こういう研究をきちっとやっていくと、こういうふうに研究分野を創出して社会に還元されますということを、常にアピールしていく必要があると思います。
 僕自身のことで言えば、今も大きな課題を克服できていないのが残念ですね。人工材料のみでは血液適合性を長期にわたって完全に保証できないというのが、僕自身の考えなんですよ。やはり血管前駆細胞のことを知れば知るほど、抗凝固性、抗血小板性、線溶活性という3つのファンクションが組合わさっている内皮細胞はすごいと思うんですよ。この3つを人工物で機能発現するのは、なかなか難しいのではないでしょうか。
 ただ、人工心臓の研究に参加して分かったことの一つに、人工基材表面での生体防御機構の活性化の強度と性質が流体力学ストレスに大きく支配されることです。例をあげたように、人工ポンプのサイズと形状が非常に重要だということです。例えば、研究当初は1回の拍出量が2リットルの人工ポンプを使っていました。ヤギだってそんなにはありません。人工心臓の父と言われる故・阿久津哲造先生 からは、「これでは大きすぎるよ。3分の1にしろ」と言われました。阿久津先生からは、“ポンプのデザイン”“材料”“表面性状”の3つが最適化された時に最も抗血栓性が発現されることを教えて頂きました。改良型のポンプでは、フルストロークで拍出すると、ほとんどの血液がなくなるわけです。0.5秒でドボドボと入って、0.5秒で全部送り出すから、血栓のできる時間がない。
 流体力学的な設計をふまえて生体親和性と抗血栓性が高いMPCポリマーを使えばかなり有望ということが示されています。しかし、血液が滞留するようだとMPCポリマーでも血栓ができるでしょう。臓器機能の再構築は多くの分野の知識と技術を組み合わせて発展していくものと思い、次世代の研究者の益々の研究の発展を祈念しています。


―了―

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(インタビュアー:RegMed-now編集室/ 編集:RegMed-now編集室・シーニュ)

*本インタビューのご感想をぜひお寄せください。
regmed-infoabmes.twmu.ac.jp

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2. 再生医療トピックス

◇第14回国際組織細胞化学会議(ICHC 2012) 演題登録〆切をご確認ください

会期:2012年8月26日(日)~29日(水)
会場:京都国際会議場
演題締切:2012年4月30日(月)
URL:http://www.acplan.jp/ichc2012/

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◇活動報告 FIRSTサイエンスフォーラム2

2012年2月5日(日)に、宮城県仙台市の東北大学片平さくらホールにおいて開催されました「FIRSTサイエンスフォーラム2」で岡野教授が担当したアフタートークの様子を掲載しました。当日の講演の様子も動画で掲載されておりますので、こちらの方も是非ご覧下さい。
URL:http://first-pg.jp/forum/forum2-2nd.html#report
URL:http://twins.twmu.ac.jp/first/news_sf02.html

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3. ABMESダイジェスト

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所(ABMES)の注目の研究成果をお届けします。
≪当研究室の研究成果がNature Protocol誌に掲載されました≫

◇細胞シート工学を用いた生体組織再構築の実験プロトコール
  原口裕次(Yuji Haraguchi)ら著

 先天的あるいは後天的な組織・臓器の機能欠損が原因で起こる様々な疾患に対して、最近再生医療が世界的に注目されている。再生医療は“21世紀の医療”とも呼ばれている新しい医療である。元々の組織/臓器の性質を保持した組織を生体外で再構築する組織工学は、効率的な治療効果につながり再生医療にとって重要な基盤技術の1つである。また生体外で再構築された組織は、薬剤の薬効・毒性試験に利用可能な技術でもある。当研究室はこれまでに細胞シート工学を用い、心筋組織・肝組織など様々な組織再構築に成功し、それらの組織を様々な組織・臓器疾患の治療に用いてきた。この論文では細胞シートを用いた生体外での組織再構築の実験プロトコールについて、動画もまじえ具体的に述べられている。この方法で構築した、巨視的にその自律拍動が確認できる心筋組織の動画も掲載されている。

Fabrication of functional three-dimensional tissues by stacking cell sheets in vitro,
Nature Protocols, 2012, 7, 850-858. doi:10.1038/nprot.2012.027




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