Vol.20(2011年11月17日配信)

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 こんにちは、RegMed-now編集室です。11月になり寒さも増してきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか?忙しい年末を前に、お体に気をつけてお過ごしください。
 前月号よりインタビュー企画第3弾として、歯科医として歯周組織再生に取り組んでおられる石川烈先生のインタビューを配信しております。日本では成人の半数以上が歯周病に罹患しているといわれ、歯を失う原因であるばかりではなく、糖尿病や動脈硬化など全身の疾患との関係も明らかとなっています。先生の歯周病治療に対する取り組みの一部は既に本メールマガジンでも紹介させて頂きましたが(Vol.16、17のABMESダイジェスト参照)、今号では、歯周組織再生療法やLEDを用いた治療技術開発、そして細胞シートを用いた臨床研究に至るまでのエピソードをお送りいたします。


【目次】

1. インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第3弾 石川 烈
●第2回 「人生とは歯のようなものだ」

2. 再生医療トピックス
◇第8回がんワクチン療法研究会(2011/11/19)開催のお知らせ
◇東京女子医科大学 櫻井靖久名誉教授追悼シンポジウム -「医学・薬学・工学の融合を目指して-」(2011/12/2)開催のお知らせ
◇第5回東京女子医大・早稲田TWInsジョイントシンポジウム「TWInsを拠点とした医理工融合の成果と展望」(2011/12/10)開催のお知らせ

3. ABMESダイジェスト
◇ES細胞の増幅・心筋分化誘導技術と細胞シート工学の融合による心筋組織工学(松浦勝久ら)
◇細胞シートを用いた新しい心疾患治療・再生医療の紹介(原口裕次ら)


1.インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第3弾
-東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 石川 烈

【プロフィール】
石川 烈(いしかわ・いさお)
1940年生まれ。歯学博士。 1965年東京医科歯科大学を卒業。 1968年からスイス ジュネーブ大学で助手を務め、1971年東京医科歯科大学大学院歯学研究科博士課程修了。その後、東京医科歯科大学で助手、講師、助教授を務め、 1984年より同大学教授、 2000年より同大学院教授となる。 2005年より同大名誉教授となり、この年より東京女子医科大学 先端生命医科学研究所の客員教授となる。現在は、同研究所の顧問として歯周病再生研究、後進の育成に力を注いでいる。


☆シリーズ第3弾を読む > 第1回第2回最終回

●第2回 「人生とは歯のようなものだ」

◆歯周病治療と再生医療

――奥様と一緒に日本に戻られてからは、どのような研究をされていたのでしょうか?

石川 30歳で大学院を修了して2年間助手をやっていましたが、「また海外で研究したい」という思いがわき上がってきて、文部省(当時)の在外研究員制度に応募したら受かってしまった。33~35歳までの2年間、またスイスに渡ったのです。
 合わせて4年もスイスにいると語学力もかなりついてきたので、帰国して講師にしてもらってからは研究論文をたくさん書かせてもらいました。1977年にWHOの国際会議がモスクワで開かれたとき、予防歯科の教授が「おれが呼ばれているんだけれど、これはおれの専門ではないから、お前が行くか?」と言われて行かせてもらいました。そこで、世界の錚々たるトップリーダーたちと一緒に報告書を作ったりしたわけです。
 そうして人の輪も広がって、その後いくつかの国を渡り歩きながら研究を続けました。だから皆からは「お前みたいに大学に籍を置きながら外国にばかり行っているやつはけしからん」と言われました(笑)。

――先生が先端生命研にいらっしゃるまでには、どのような経緯があったのでしょうか?

石川 1995年、再生医工学が日本学術振興会の助成対象になって、一つの研究に1億円ぐらいの予算をくれるということになった。それで、東京女子医科大、京都大学、筑波大学、東京医科歯科大学の4校で再生工学プロジェクトをやったのです。岡野光夫先生が教授になられてすぐの頃です。
 そのときの私は、BMP(bone morphogenetic protein)で再生医療をやっていましたが、岡野先生が発表された温度応答性培養皿を用いた細胞シートの技術を歯根膜で使ったら絶対に再生治療がうまくいくと思っていました。ただ、ずっとBMPをやっていたプライドもあって、なかなか言い出せずにいて、具体的に相談したのは1999年くらいになっていましたね。

――歯周病の最終的な治療に、再生医療が必要だと考えていらっしゃいますか?

石川 はい。再生医療を使えば、平均寿命の年齢に至るくらいまで自分の歯で過ごせるだろうと考えています。でも、現状は歯周病を止めるのが精いっぱい。もちろん再生医療をいろいろ試したのですが、成功する例が2~3割で、あとはうまくいかない。誰にでも応用でき、きちんと治るような方法を考え出さなくてはいけない。
 1980年代に北欧の研究者が考え出したGTR(guided tissue regeneration)法が最初です。ひどい歯周病を治療した後は、普通は歯茎が下がってしまうので、それを直すために膜を張る。そこへ上皮などが入らないようにして、細胞が再生してくるのをじっくり待つ。時間がかかる方法です。
 今、日本でやられているのはFGF(fibroblast growth factor)を使ったり、エムドゲイン治療といってエナメルタンパクなどを使ったりして、必要な細胞を早く呼び寄せようというものです。だからGTR法に比べて再生がちょっと加速する。ただ、時々はうまくいくけれど、うまくいかないことも多い。それなら、必要な細胞を直接持ってきたほうがよほど早いではないかと。
 私の大学院のときのテーマは歯肉の組織培養で、論理的にも一番正しいと思っていたので、培養細胞を使うこと自体には何の抵抗もなかったのです。実際に試してみて、ちゃんと細胞が定着したら、うまく治る確率が圧倒的に高いということも分かった。

――歯の周りの組織から細胞を取ってきて治療するのは、世界初ですか?

石川 いや、再生というのは医療分野の世界的潮流の一つですから、考えることは皆だいたい同じで、歯根膜細胞をバラバラして入れたりしていたものの、なかなか定着しなかった。だから歯根膜シートをやろうと先端生命研に来たわけですが、幹細胞指針ができたりして学内や厚労省の承認が必要だということになって、あれよあれよという間に4年くらいたってしまいました。厚生労働省は「歯根膜細胞が癌化しないか証明しろ」とか言ってくるけれど、そんなこと簡単にできはしないのです。でも、一応求められていることは全部やりました。

――手続き面の問題から研究が遅れてしまったわけですね。そうした承認制度に対して、おっしゃりたいことはありますか?

石川 いや、難しいな。再生医療学会でも声明文を出しましたけれど、例えば美容整形などの分野で無茶をする医師は確かにいるのです。われわれはそういうことを一応知っているから、ある程度の規制は必要だと思います。でも、ガチガチに規制してしまって今度は誰も入れないというのも問題で、研究の発展を阻害します。お役人さんとしてみれば、1回承認して事故が起こったら全部自分の責任だと、非常に責任感の高い人ばかりだから(笑)、ありとあらゆることをチェックしたがるわけです。
 結局は研究者主導型で、きちんとしたことをきちんとやっていくしかない。その代わり、責任は全部自分たちにかかってくるのだから。

◆いつでもオリジナリティーが大事

――先生のお仕事の中で、特に、すごく患者から喜ばれたとか、自信を持ってやったと思えるような、印象に残っているものは何でしょうか?

石川 研究面では、思い残すことがないぐらい、いろいろと好きなことをやらせてもらいました。これは研究ではなく社会啓蒙運動と言うべきでしょうが、「8020運動」というのを聞いたことはありますか?あれを言い出したのは私です。今から20年くらい前。当時日本人の平均寿命は10年延びていました。ところが、入れ歯やブリッジの技術は伸びても、歯の寿命は全然延びてこなかった。それでも歯科医師会は「医療費を上げてくれ」と言うわけで、厚生労働省は「国民が納得するようなことをやってほしい」と。それで私が委員会に呼ばれた。「歯周病の問題を啓蒙するキャンペーンを大いにやってほしい」ということでした。
 当時渡された資料を見ると日本人の歯の数はここ30年の間「8004」でした。日本人平均が80歳で4本という状況だったのです。それで、「本来、歯科は入れ歯を作るところではありません。正しい咀嚼系を保ちつつ80歳で物をよく噛むためには、自分の歯が20本は残っているのがいい。ハチマルニーマルは語呂もいいし、どうですか?」と提案したのです。

――オーラルケアの面で、日本と欧米では違いがあるのでしょうか?

石川 残念ながら日本は、歯周病に関しては世界の中進国です。欧米人は自分の歯の状態をすごく気にする。きれいな歯並びは一種のステータスなので、歯並びの悪い人は上には上がれないのです。
 保険制度の問題も絡んできます。ヨーロッパの制度は日本と似ているけれど、アメリカでは歯科に保険が利きません。それで、アメリカの歯科医師会は治療費が非常に高いということを盛んに喧伝している。「早期発見、早期治療すれば、それほど費用はかからない。年1回は必ず歯科医のチェックを受けなさい」というわけです。
 また、歯周病と全身状態の関係にも注目が集まっています。口の中が汚い人は頸動脈の分岐点のところに動脈硬化が起こってきます。頸動脈で動脈硬化が進むとさらに、脳梗塞や心臓病につながる。The New England Journal of Medicineなどの医学誌にこのような関係を示すデータが発表されています。だからアメリカでは「Floss or Die!」と言って、オーラルケアに熱心です。こうして口腔管理を正しくやっていれば、8020を達成できるようになるでしょう。

――先生は歯科の啓蒙のためにシャンソンの訳詞をされたとうかがいましたが?

石川 昔、歯科医院の中には、汚い歯周病の写真ばかり並べて、「放っておいたらこんなに悪くなりますよ」と脅すやり方をしていました。私はそれでは絶対に駄目だと思いました。スイスへ行ったときの経験からして、人の心を和ませないと人はついてきてくれない。きれいなものを見せて、「こういうふうにきれいになりたい」となるほうが人はついてくる。それで、ちょうど歯科の啓蒙書を作ってほしいと頼まれたときに、何か歯について歌っている歌はないかと調べたけれど、日本にはあまりなかったのです。そのとき、妻が「La vie c’est comme une dent」(人生は歯のようなもの)を教えてくれました。フランスの有名な詩人が詩を書いて、それを有名なシャンソン歌手が歌っているのです。さっそく権利上の処理をして、それを載せた本を作りました。ほかにもいくつか、同様の仕事をしています。

――楽しくて、オリジナリティーあふれるお仕事ですね。

石川 それは大事です。それを私はジュネーブ大学で学んだのですが、教授から「自分のオリジナリティーのある研究をやれ、人のまねをするな」ということを盛んに言われました。当時は「日本はまねばかりする」とバッシングされていた時代です。スイスでも何度も大げんかをしました。例えば「日本の時計なんて、キロいくらだ」と言うから、「日本は今、クオーツという特殊な技術を開発していて、そのうちすごく精巧な時計ができるから、お前さんらはひどい目に遭うぞ」と言ってやった。それで本当にそうなった。外国にいると非常に愛国者になってしまうんですよ(笑)。
 同じように、せっかく本を作るなら、今までなかったような本を作ろうと。意地を張っているわけではないけれど、できればそのほうがいい。やることなすことがナンバーワンよりオンリーワンの世界です。そういう気持ちをずっと持っていると、面白いものができるのではないでしょうか。

――いい意味での反骨精神というか、メインストリームには乗らないぞという……。

石川 そう、なかなか乗りにくいし、仮に乗っても照れてさっさと降りてしまう。照れくさいと言えば、これは非常にいい思い出なんですが、アテネ大学から名誉博士号をもらったときのことです。スイスに4年間いましたので、ギリシャからの留学生もたくさん来ていて、ずっと彼らの研究指導やっていました。彼らが国に帰ってアテネ大学の教授になる。そうした縁あって、日本人では私だけなのですが、アテネ大学の名誉博士号をいただいきました。そのときは本当に神殿作りの建物の中で講義をやったんです。妻と子どもを連れて行きまして、本当にいい思い出です。

◆21世紀は光の時代

――先日のセミナーで、「今はレーザーを使った歯の治療に興味を持っている」とおっしゃっていましたが、新しい治療法ですか?

石川 日本で歯科レーザーに取り組み始めたのは、医科歯科大学学長だった山本肇 先生でした。先生が学長として医科歯科大学に戻って来られたとき、私も誘われたわけです。
 最初は炭酸ガスレーザーやネオジウムレーザーを使っていたけれど、やはり歯科に適したレーザーを開発しようということでEr:YAGレーザーができました。これを日本で開発しようというので、1990年から20年間ぐらいずっとやってきたわけです。
 再生医療にも大変に役に立ちます。というのは、Er:YAGレーザーを照射すると完全に無菌にでき、しかも骨は破壊されない。歯周病の患部には細菌やウイルスがいっぱいいますが、そこへ直接レーザーを当ててやると完全な無菌域を作れるから、そこへ歯根膜シートを張ればいいわけです。
 私は「21世紀は光の時代だ」と言っています。レーザーというのは特定の波長の光なので、ちょうどいい波長を当ててやれば虫歯もきれいに取れるし、歯周ポケットも無菌にできるし、インプラント治療にも使える。患者さんは、いつ、何をされているか分からないうちに治療が終わる。今は機械が高いからそれほど普及していませんが、保険も適用になったので普及してくると思います。
 今、われわれはさらに研究を進めていて、LEDを使おうと。殺菌効果が必要であれば光感受性物質を与えておいて赤い光を口に当てるだけでプラークコントロールができるし、止血効果であれば青の光を当てるだけ。レーザーの一つの欠点は、目に当たると非常に危険なので、一般の人はもちろん、歯科衛生士や看護師にも使わせることができないことです。ですから、LEDのほうが安全でいろいろなことがやりやすい。

――「8020」を目指して新しい技術を開発して、また啓発にも力を注いでいかれるわけですね。

石川 70歳になると、「まだやっているの」と言われますが(笑)、いろいろと楽しく……。

――やはり楽しいのがいいですね。

石川 人生は楽しくないといけない。私は今だって毎日、「今日はこれをやってやるぞ」と思えることがあって楽しいです。それで、家に帰ったら家族で仲良くやるという人生が一番いいのではないですか。3人の子どもは結婚して孫が6人、楽しくやっています。 私は皆さんの倍ぐらいの人生を過ごしてきました。皆さんは今がサンライズで、まさにこれから頑張るところ。私はサンセットのギリギリのところでわずかに光っている感じですが、それはそれで結構楽しいものです。

・・・・・・・・・

最終回 「人生は自分の生き方を見つける旅」に続く

(インタビュアー:RegMed-now編集室/ 編集:RegMed-now編集室・シーニュ)

*本インタビューのご感想をぜひお寄せください。
regmed-infoabmes.twmu.ac.jp

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2. 再生医療トピックス

◇第8回がんワクチン療法研究会 開催のお知らせ

日程:2011年11月19日(土) 13:30~17:30
会場:東京女子医科大学病院 総合外来センター5F大会議室
参加費:2,000円、懇親会費: 1,000円 (当日受付で申し受けます)
*事前参加登録など、詳細は下記URLをご参照ください。
URL:http://www.ascavath.org/convention/index.html

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◇東京女子医科大学 櫻井靖久名誉教授追悼シンポジウム
 「医学・薬学・工学の融合を目指して」開催のお知らせ

日程:2011年12月2日(金) 9:40~17:50
場所:東京女子医科大学 弥生記念講堂
参加費:一般(事前登録) 5,000円、一般(当日参加)7,000円、学生3,000円
URL:http://www.twmu.ac.jp/ABMES/ja/sakurai-sympo/

*シンポジウム終了後、「櫻井先生を偲ぶ会」を開催 (18:10~19:45)
場所:東京女子医科大学 TWIns 2Fラウンジ
参加費:5,000円

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◇第5回東京女子医大・早稲田TWInsジョイントシンポジウム
 「TWInsを拠点とした医理工融合の成果と展望」開催のお知らせ

日程:2011年12月10日(土) 10:00~20:00
会場:<シンポジウム>東京女子医科大学 弥生記念講堂
   <ポスター会場>TWIns3階セミナールーム[アクセスマップ]
参加費:無料
懇親会:18:30~ TWIns2階ラウンジ / 懇親会費:教員・ポスドク 1,000円 (それ以外の方は無料)
URL:http://www.twmu.ac.jp/ABMES/ja/jointsympo5th/

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3. ABMESダイジェスト

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所(ABMES)の注目の研究成果をわかりやすくお届けするコーナーです。
<最新論文紹介>

◇ES細胞の増幅・心筋分化誘導技術と細胞シート工学の融合による心筋組織工学
  松浦勝久(Katsuhisa Matsuura)ら著

 心筋組織工学においては、細胞ソースは欠かすことのできない課題であり、それは細胞シート工学においても同様である。本研究は、マウスES細胞の3次元浮遊培養の導入により、シート作成に必要な心筋細胞の質的・量的回収を可能にするとともに、ES細胞由来心筋細胞シートの積層化による心筋組織構築の可能性を初めて示したものである。

Creation of mouse embryonic stem cell-derived cardiac cell sheets
Biomaterials 2011, 32(30), 7355-7362; doi:10.1016/j.biomaterials.2011.05.042

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◇細胞シートを用いた新しい心疾患治療・再生医療の紹介
  原口裕次(Yuji Haraguchi)ら著

 これまで様々な治療が試みられているにもかかわらず、心疾患は現在、主要な死亡原因の1つであり、特に先進諸国において社会問題となっている。最近、細胞を用いた再生医療が新しい心疾患治療として注目され、すでに臨床治療も行われている。この総説では細胞シートを用いた心疾患治療・心筋再生にフォーカスをあて、最新の知見も含めて詳しく述べた。

Regenerative therapies using cell sheet-based tissue engineering for cardiac disease
Cardiol. Res. Pract. 2011, 2011 ,845170; doi:10.4061/2011/845170


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