Vol.18(2011年9月15日配信)

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 こんにちは、RegMed-now編集室です。日差しはまだまだ夏ですが、過ごしやすい季節になってきましたね。卒業・終了年次の学生の皆様はそろそろ追い込みの時期でしょうか。年内にはバイオマテリアル学会やTERMIS-NAなども控え研究にお忙しい時かと思いますが、体調にはくれぐれもご注意を!

 さて、いよいよスーダンでの医療支援を手がけるNPO法人ロシナンテス代表の川原尚行先生へのインタビューも最終回となりました。私たちが感じた先生の熱い思いを少しでも皆様に少しでもお届けできていれば幸いです。ぜひご意見・ご感想などをお寄せください。


【目次】

1. インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第2弾 川原尚行
●第4回 「スーダン医療に描く夢」

2. 再生医療トピックス
◇2011年度 東京女子医大学園祭 女子医大祭のお知らせ(川原先生ご講演あり)
◇第2回G-COE公開シンポジウムのお知らせ
◇第43期バイオメディカル・カリキュラム 受講生募集!9月末日締切!

3. ABMESダイジェスト
◇カルシウムと扁平上皮細胞~新たな関連性について~(高木亮ら)
◇温度応答性ナノ薄膜の膨潤収縮挙動は非対称である(熊代善一ら)


1.インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第2弾
-NPO法人ロシナンテス理事長・医師 川原尚行

【プロフィール】
川原 尚行(かわはら・なおゆき)
1965年生まれ、福岡県出身。1992年九州大学医学部を卒業。1998年九州大学大学院修了後、外務省入省。在タンザニア日本国大使館へ医務官(兼二 等書記官)として赴任。その後、ロンドン大学で熱帯医学を研修。2002年、在スーダン日本国大使館に医務官 (兼一等書記官)として赴任。2005年外務省を退職後、スーダンで医療活動を開始。2006年NPO法人ロシナンテスを設立。


☆シリーズ第2弾を読む > 第1回第2回第3回最終回

●第4回 「スーダン医療に描く夢」

◆がん対策の展望

――スーダンでは、エイズは流行していますか?

川原 南部では少なくない。10%くらいでしょうか。北部では1%いくかいかないか。やはり、厳格なイスラム文化の国なので、アフリカ諸国の中では感染率は低いほうだと思います。
 
――スーダンに風土病はあるのでしょうか?

川原 リーシュマニア。非常に注目されています。これまで、感染症研究というものへの関心は高くなかったのですね。アフリカの感染症を研究して薬を創っても、抗がん剤や糖尿病治療薬などとは違って、それだけでペイしないから。neglected diseaseというのだけれど、それに対して新薬を開発しようというアイデアがヨーロッパで出てきている。ビル・ゲイツさんもThe Bill & Melinda Gates Foundationという財団を作って資金を提供しているので、いつか会ってみたいですね。リーシュマニア研究者というのは、皮膚型と内臓型とがいるのだけれど、内臓型の研究をしている人は日本に1人もいない。だから若手の研究者を育てたい。「お前やったら? ただちに第一人者だよ」とか言って(笑)。
 その他の保健医療の問題として重要なのは母子保健です。周産期死亡率が高い。その要因の一つに女性性器割礼(female genital mutilation;FGM)があって、スーダンは世界一多いのです。そういう特有の文化が保健医療に影響を及ぼしていることもあります。また、子どもの栄養状態も悪いので、われわれも栄養プログラムを始めるかどうか検討しています。

――スーダンに再生医療が必要だと感じたことはありますか?

川原 つい先日、村の人が交通事故に遭って腕を切断しました。また、毒蛇に咬まれて足が壊死し、切断に至ったケースもあります。再生医療ができれば本当によいのでしょうが、スーダンの医療の現状とはあまりにかけ離れ過ぎていて、なかなかイメージできないと思います。

――スーダンでは、死因に占めるがんの割合は高いのですか?

川原 統計自体がないので、具体的な数字は出せません。やはり、感染症や栄養不良が多いです。ただし、それらを克服したとなったら、がんの割合は高いと思います。

――将来、がんの対策にも取り組みたいということですが、具体的なプランはありますか?

川原 それは医療先進国との交流事業から生まれるものと考えています。九州大学との交流事業として互いに医師を派遣し合っていますが、現時点では専門治療施設のような箱を作る段階ではなくて、いわばソフトウェアの設計から始めている段階です。手術をどのように行なうか、術前の診断をどのように行なうか、術後のケアをどのように行なうか……。医師だけではなく看護師も入れて、チーム医療の概念も共有していきたいと思っています。
 ただ、スーダンでがんの治療というと、外務省や厚生労働省に嫌われてしまう。「プライマリーヘルスケアであるとか、そっちのほうが先じゃないか」と。これは考え方の違いであって、ボトムアップと同時に、上からのシャワー効果という考え方も必要なんです。
 ゆくゆくは、小さくてもいいから、がんセンターのような専門治療施設を建てて、半分は診療費をいただき、半分はチャリティーで診療する。そこで日本の協力を得て、スーダン南部の医師たちも招いて教えるといった夢もあります。

◆“one for all, all for one”

――ご自分を評して「あまり後先を考えずに突き進むタイプ」とのことですが、そのよい面はどんなところだと感じていらっしゃいますか?

川原 計算高い人は年収や何かを計算して動くわけ。そんなこと考えていると、なかなか前に進まない。もっとおおらかになって、「金は天下の回りもの」くらいに思って、本当にやりたいこと、やらなければならないことをやっていけばいいのではないかと。

――いろいろなお話を伺ってみて、川原先生は目の前の壁に一つひとつ全力で取り組んで、ブレイクスルーされてきたように感じられましたが?

川原 私にも師と仰ぐ人がおります。その方は去年、残念ながら若くして亡くなりました。その方に出会うまでは、本当にちゃらんぽらんな男でしたよ。「医者になってポルシェを乗り回そうかな」と思っていたし(笑)。それが今、全然違うところで動いているからね。

――その方のことをお聞きしてもよいでしょうか?

川原 カメラマンの方で、本当にものをよく見られる人だった。目を3つ持っているんじゃないかという感じ。いろいろなものの見方や価値観があるということを教えられたのも、その方からですね。私がスーダンに行ってからも、「お前がやっているんじゃないんだよ。やらせてもらっている、くらいに思っておけ」と言ってもらいました。

――川原先生が大学院に進まれたのは、何か研究テーマをお持ちでのことでしたか?

川原 いや、先生に「お前、大学院へ行け」と言われて「はい」と答えた、それだけです。
大学院ではがんの血管新生を研究していて、今やっていることとは全然違うのだけれど、そこで学んだ考え方とかもののとらえ方は、今の自分に非常に役立っていると思います。

――私たちは専門領域の中で視野が狭められがちなので、意識の変容が必要ですね。本日の日本再生医療学会の講演には、どのような気持ちで臨まれましたか?

川原 私は、先ほど言ったように病院を建てるとかいったことを節目節目の目標に置いてはいますが、それがゴールだとはまったく思っていないのです。ゴールはもっと遠いところにあって、常にゴールを目指しながら死んでいきたいと思っています。
 だから、講演テーマを「意志あるところに道拓けるか?」としたのは、君たちのような若い年代が私と同じような感じで後に続いてくれて、それが二代目、三代目となり道ができていく、そうあってほしいという思いもあるんです。吉田松陰は若くして死んだけれども、彼の弟子が国難を乗り切ったわけじゃない? あんな感じ。自分を吉田松陰と比較するのはおこがましいけれども、遠いところに目標を置いて、そこに向かっていく。いつ死ぬか分かりませんが、バトンタッチしながら生きていきたいですね。

――後進の育成については、どうお考えですか?

川原 今はまだ「ロシナンテス=川原」という状態だから、組織改革をしないといけない。早く、私がいなくても組織として動けるように。私がいつまでも先頭に立っているのでは駄目でしょうね。息子も「国際協力の世界に進みたい」と言っているので、将来的に一緒に何かやれたらいいなと思います。

――夢は広がりますね。では、再生医療の若手研究者に向けて、メッセージやリクエストをお願いします。

川原 やはり、自分にできることをしっかりやっていく、それを積み重ねていってほしいです。再生医療という分野を一つのチームだと考えてはどうでしょう。「自分がやっていることは小さなことだ」などと思わずに、自分にできることを一生懸命にやって、さらにほかの人たちとそれぞれがやっていることを尊重し合えば、素晴らしい成果が出てくるのではないかと思います。

――ラグビーにまつわる言葉で表現できますか?

川原 “one for all, all for one”ですね。ひとりはみんなの為に、みんなはひとりの為になって、お互いにやっていきましょう。

――スーダンにラグビーを普及させたいという思いはありますか?

川原 そうなんだよね。同志社大学で平尾誠二さん(同大卒、元ラグビー日本代表・日本代表監督)との対談を企画してくれたことがあって、そのとき平尾さんから「サッカーなんかせんで、ラグビーせえよ」とラグビーボールをもらった。ラグビーもやりたいですね。サッカーはサッカーでいいけれど、「ラグビーは少年をいち早く大人の男にし、大人の男にいつまでも少年の心をもたらす」といわれるんですよ。

――川原先生が主人公のドラマが作れそうですね。

川原 いやいや、まだまだ頑張らないと物語にならない。私は、漫画みたいな人生になればいいかなと思っている。「続きが読みたいな」と思わせるような、ね。


―了―

・・・・・・・・・

(インタビュアー:RegMed-now編集室/ 編集:RegMed-now編集室・シーニュ)

本日インタビューを掲載させていただきましたNPO法人「ロシナンテス」に興味がございましたらホームページをご参照ください。
http://www.rocinantes.org/index.html
また、ロシナンテスの会員になりたい方、ロシナンテスのサポートに興味のある方はこちらをどうぞ!!
http://www.rocinantes.org/support/

◆◇ 10月、女子医大祭に川原先生がご講演にいらっしゃいます ◇◆
先生の生の声に触れる貴重なチャンスです、奮ってご参加ください。詳細は再生医療トピックスをご覧下さい。

*本インタビューのご感想をぜひお寄せください。
regmed-infoabmes.twmu.ac.jp

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2. 再生医療トピックス

◇2011年度 東京女子医大学園祭 女子医大祭のお知らせ

日時: 10月28日(金)・29日(土)
場所: 東京女子医科大学 河田町キャンパス
○川原先生ご講演
日時: 10月29日(土)14:00~15:30
場所: 東京女子医科大学 弥生記念講堂地下1階 臨床講堂1
* 詳細は追ってお伝え致します。

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◇第2回G-COE公開シンポジウム開催のお知らせ

日時: 11月10日(木)(時間未定)
場所: 東京女子医科大学 弥生記念講堂
* 詳細は追ってお伝え致します。

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◇第43期バイオメディカル・カリキュラム 受講生募集!締切間近!

東京女子医科大学では、医療産業に携わる社会人が1年間で医学と工学を系統的に学習する講座を約40年にわたり開講しています。詳細は下記ホームページをご覧下さい。
開講期間: 2011年10月〜2012年9月
申込み締切: 2011年9月末日
URL: http://www.twmu.ac.jp/ABMES/BMC/

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3. ABMESダイジェスト

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所(ABMES)の注目の研究成果をわかりやすくお届けするコーナーです。
<最新論文紹介>

◇カルシウムと扁平上皮細胞~新たな関連性について~
  高木亮(Ryo Takagi)ら著

 培養した重層扁平上皮細胞は移植グラフトとして用いる事が可能である事から、再生医療の分野において、熱傷や潰瘍の治療の為の細胞ソースとして有用である。低カルシウム濃度の培養液は、正常組織から得られた重層扁平上皮細胞の継代培養に適した培地である事が Hennings らによって報告されており、細胞を人工的に増やす手法として有用な技術である。また、ケミカルディファインドな培地にアレンジしやすいという点からも、医療応用を目指した上皮細胞の増幅には有用な技術である。
 低カルシウム培地で培養された細胞は、上皮の分化誘導が抑制されている為、継代培養が可能である代わりに重層化が誘導されないが、そもそも、なぜ継代培養が可能であるかについては不明な点が多い。
 本研究は、低カルシウム培地で培養された正常ヒト表皮角化細胞から見つかった新たな知見について報告した論文である。

Low calcium culture condition induces mesenchymal cell-like phenotype in normal human epidermal keratinocytes
BBRC. 2011, 412, 226–231

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◇温度応答性ナノ薄膜の膨潤収縮挙動は非対称である
  熊代善一(Yoshikazu Kumashiro)ら著

 温度応答性高分子であるポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PIPAAm)は、水中において温度に応答して迅速な水和/脱水和挙動を示すことが知られている。本論文ではPIPAAmをシリコン表面に数ナノメートル固定化した表面を作製した。これらの温度応答性表面を水中で原子間力顕微鏡によるフォース測定を行った結果、温度上昇に伴い迅速な脱水和挙動が観察されたのに対し、温度低下に伴い緩やかな水和挙動を示すことが明らかとなった。

Asymmetric Behavior of Temperature-Responsive Poly(N-isopropylacrylamide) Ultrathin Layers Observed by Atomic Force Microscopy
Macromol. Chem. Phys. 2011, 212, 1852–58


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