Vol.7(2010年12月16日配信)

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 こんにちは、RegMed-now編集室です。
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 RegMed-nowが始まり三ヶ月ほど立ちましたが、最近では、メディア等でも再生医療の話題が取り上げられることもすっかり多くなりました。先日、放送された「医龍3」でも心筋の幹細胞の話題が上がり「再生医療学会」という固有名詞まで登場してくるまでになりました。そのような中、来月1月に長崎大学では、第2回スーパー特区「細胞シートによる再生医療実現プロジェクト」シンポジウムが開催されます。

 今回は、このスーパー特区制度のあらましとこのプロジェクトが目指す未来医療についてまとめられた総説「スーパー特区と未来医療」を通しまして、再生医療実現化に向けた課題と展望を、次号との2回に分けまして、ご紹介いたしたいと思います。


【目次】

1. スーパー特区と未来医療 <前編>
―清水達也(未来医学 2009年 No.24より)

2. 再生医療トピックス
 第2回スーパー特区「細胞シートによる再生医療実現プロジェクト」シンポジウム(2011/1/15)のお知らせ


1. スーパー特区と未来医療 <前編>

―清水達也(未来医学 2009年 No.24より)

i. スーパー特区のあらまし

 2008(平成20)年秋、政府は再生医療・医薬品・医療機器などの開発およびそれらの実用化を加速することを目的に「革新的技術特区」、いわゆる「スーパー特区」を創設した。これは優れた革新的な技術シーズを特定し、資源の重点的・集中的投資を図るとともに、それにふさわしい研究開発体制を整備することで、迅速に開発を促進、さらにイノベーション創出につなげるという「経済財政改革の基本方針 2008」(経済財政諮問会議)を受けて設立された。これまでの行政区域単位の特区は地域の自発性を最大限尊重する形で規制改革を進め、わが国の経済および地域の活性化を実現することを目的としていたが、スーパー特区はテーマ重視の特区であり、複数の病院・研究施設・企業が参画・連携した複合体形成による革新的技術の早期実用化を目標としている。

 スーパー特区は内閣府に加え、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3省が連携して運営を行い、これまでにない実施体制となっている。また、革新的技術の早期実用化を阻害している要因に対する具体的な方策として、各省庁縦割りの研究資金に関する統合的かつ効率的な運用や薬事など規制当局との開発段階からの並行協議や優先審査などが挙げられている。さらに、複合体からの構造改革に向けた提案を随時受け入れ可能であることが盛り込まれている。これらの方策により産官学の歯車が噛み合えば、最先端の再生医療・医薬品・医療機器の開発・実用化の持続的な流れを生み出す環境を整備することにつながるものと期待されている。

 具体的には 2008(平成20)年度の公募において1. iPS細胞応用、2. 再生医療、3. 革新的医療機器の開発、4. 革新的バイオ医薬品の開発、5. 国民健康に重要な治療・診断に用いる医薬品・医療機器の研究開発の5つの重点分野から24のプロジェクトが採択された。特に再生医療分野に関しては現状の規制や審査体制ではその臨床応用・実用化に対応しきれておらず、スーパー特区が突破口となる可能性がある。

 今回、当研究所を中心に展開してきた細胞シート工学を基盤とした再生医療実現プロジェクトも再生医療分野におけるスーパー特区の1つに採択された。細胞シートを用いた角膜・心臓・食道疾患に対する治療が臨床応用されているものの、その普及や他疾患への臨床応用に関 しては様々の課題が山積しており、スーパー特区の1つに採択されたことでこれらの課題を克服し、早期に細胞シート移植医療を実用化・普及させたいと考えている。

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ii. 細胞シートによる再生医療実現プロジェクト

 本スーパー特区プロジェクトは日本発世界初のティッシュエンジニアリング「細胞シート工学」を基盤技術とした再生医療の臨床応用・産業化を医理工・産官学融合した実施体制により加速的に推進することで、これまで内科的外科的に治療困難であった難治性疾患や身体障害に苦しむ患者の救済ならびに高齢化・癌治療に伴った障害を持つ患者のQOL(Quality of Life)向上を早期に実現することを目的としている。種々の疾患に対する再生医療の実現には細胞の注入による治療法では限界があり、ティッシュエンジニアリングにより再生した組織・臓器の移植が必須となっている。

 ティッシュエンジニアリングにおいて主流となっているのは生体吸収性高分子からなる支持体(スキャフォールド)に細胞を播種して作製した組織様構造体を移植する治療法であり、世界的に広く行われている。一方、本プロジェクトにおける基盤技術は温度応答性培養表面上で細胞を培養・増殖し、それを温度変化のみでシート状の細胞として回収、さらに単層あるいは積層化して移植する方法である。この革新的技術は支持体に起因する問題点を克服するとともに、より生体に近い組織再生を実現しており、細胞シート自身の接着蛋白による貼付という縫合不要の日本独自の組織工学技術として世界的にも注目されている。

 既に述べたように、この基盤技術により角膜・心臓・食道疾患に対する細胞シート移植の臨床応用を実現している。角膜に関しては自家角膜上皮および口腔粘膜上皮細胞シート移植の臨床研究により視覚障害を持つ患者の視力が回復することが示され、現在フランスで治験が進行中である。難治性疾患である拡張型心筋症に対し、自己筋芽細胞シート移植の臨床研究が始まっている。また、早期食道癌に対する治療として行われる内視鏡的粘膜除去術の術後には創傷治癒過程で食道狭窄による通過障害が生じるが、その予防を目的に粘膜除去部に口腔粘膜上皮細胞シートを移植する臨床研究も開始され良好な結果を得ている。本スーパー特区ではこれら角膜・心臓・食道疾患に対する細胞シート移植治療の臨床研究・治験をさらに推進し産業化・世界普及を目指すとともに、歯周・肺に対する細胞シート移植の臨床応用を開始、さらに肝臓など他臓器の疾患に対する臨床応用の早期実現に向けた研究開発を行う計画である。

 また、本プロジェクトでは組織・臓器ごとの縦断的な研究開発に加え、細胞シート操作技術、自動培養装置、細胞・組織評価技術、輸送技術、移植デバイス、 GMP(Good Manufacturing Practice:医薬品等の品質管理基準)準拠製造工程、免疫寛容導入技術といった細胞シート医療実現を加速させる横断的な技術開発をこれまでに実績のある医理工ならびに産学の共同体制を統合することにより実施する。これらの支援技術を特区内で共有することにより、細胞シートを用いた再生医療の迅速な臨床応用と国内外の多施設での臨床普及を支える産業化の実現をめざす。

 本複合体にはレギュラトリーサイエンス(科学技術や医薬品の規制や許認可を科学する学問)を専門とする研究者が参画するとともに、薬事申請などに関わる産官学の規制関連専門者集団の国際的な教育を担うRAPS(Regulatory Affairs Professionals Society)と相互に綿密なコミュニケーションをとれる環境を整備(東京女子医科大学内に日本事務局設置)しており、規制を鑑みた細胞シートの安全性・有効性に関する評価技術や基準に関し共通のプラットフォームを迅速に構築する。また、倫理や知財に関しても複合体内で共有できるプラットフォームの整備を目指す。本プロジェクトではこれらのネットワークと特区における開発段階からの医薬品医療機器総合機構(PMDA)との協議を連動させ、産官学医の連携を図ることで細胞シートによる再生医療の臨床応用・産業化を一体となって推進する。さらにスーパー特区内において細胞シートの取り扱いを熟知した医師・研究者等の人材や規制関連専門者を育成する拠点を設けることにより、国内のみならず世界への細胞シート移植技術の普及を担う人材の創出を図る。国際的な活動により、それぞれの組織・臓器ならびに支援技術に関してアジアを含む世界市場への展開を常に意識するとともに、国際共同治験の可能性を模索する。

 本特区では、東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設(TWIns)を拠点とし、これまでに細胞シートを用いた再生医療に関わってきた実績のある10個の大学・研究機関および8個の企業が参画した複合体を形成することで縦断的・横断的研究を統合して行う。TWInsはこれまでにない医理工・産学融合の研究環境を整備しており、本特区実施機関のうち3個の大学・研究機関および7個の企業が共同研究ベースで同居して研究開発を推進するという他のスーパー特区に類を見ない、いわば融合的な複合体拠点となっている。

 以上、本スーパー特区プロジェクトでは単なる要素技術の開発ではなく、各臓器に対する縦断的な研究開発と実用化加速に向けた横断的な技術開発を統合的に行い、さらに臨床応用・産業化・世界普及に向け時間軸を意識した環境整備をTWInsを中心に産官学融合して行うことで、“できるだけ早くできるだけ多くの患者さんを救う”ことのできる再生医療社会の実現を目指している。

―後編(vol.8)へつづく―


◇清水 達也 (シミズ タツヤ)
東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 准教授
医学博士 専門:循環器内科、再生医学、組織工学

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2. 再生医療トピックス

第2回スーパー特区「細胞シートによる再生医療実現プロジェクト」シンポジウムのお知らせ

日時:2011年1月15日(土)10:00-16:00
場所:長崎大学医学部 良順会館2階 ボードインホール
参加費:無料(事前登録不要)
URL(PC版):http://www.twmu.ac.jp/ABMES/ja/tokku2ndsympo


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