Vol.6(2010年11月24日配信)

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 こんにちは、RegMed-now編集室です。
 このメールマガジンは再生医療に興味のある研究者・医師の皆様のために現場発、最新の再生医療研究に関する情報や知識を正確にかつわかりやすくお届けすることを目的としております。ご意見、ご感想、新規登録をお待ちしております。

 体細胞への遺伝子導入により作製される人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、再生医療分野のみならずマスメディアをはじめとする多方面より多くの注目を集めております。本日は、「再生医療-日本再生医療学会雑誌(メディカルビュー社)」にて「特集:iPS細胞研究の最前線」と題して掲載されました大津真先生、中内啓光先生の総説をもとに、iPS細胞に関する昨今の技術進歩と臨床応用へ向けた課題について皆様にお伝えします。


【目次】

1. ヒトiPS細胞等を用いた次世代遺伝子・細胞治療法の開発
―大津真、中内啓光(再生医療-日本再生医療学会雑誌 2009年第8巻第3号より)

2. 再生医療トピックス
 ◆第43期バイオメディカル・カリキュラム 受講生募集!
 ◆RAPSジャパン2010シンポジウム(11/25)のお知らせ


1. ヒトiPS細胞等を用いた次世代遺伝子・細胞治療法の開発

―大津真、中内啓光(再生医療−日本再生医療学会雑誌 2009年第8巻第3号より)

*本文は「再生医療-日本再生医療学会雑誌(メディカルビュー社)」2009年第8巻第3号からの転載であり、本文に含まれる所属等は2009年当時のものです。

i. はじめに

 基礎的な幹細胞研究の知見に基づき実際の再生医療を実現するには、基礎研究者と臨床現場の医師の協力のもと、研究成果を円滑にトランスレートできる体制が必須である。
 東京大学は本郷地区に医学部附属病院、白金台地区には医科学研究所附属病院、と性格の異なる2つの病院を有し、それぞれ先駆的な前臨床および臨床研究が展開されている。
 加えて、分子細胞生物学研究所ならびに駒場地区の総合文化研究科では幹細胞や発生に関する独創的で質の高い研究が行われ、さらに医科学研究所においては、造血幹細胞やヒトES細胞に関する基礎研究から遺伝子治療や臍帯血移植などの難病治療に至るまで幅広く先駆的な研究活動が遂行されている。
 医科学研究所ではすでに研究用幹細胞バンク、FACS(編集注:fluorescence activated cell sorting)コアラボが整備され、さらに平成20年4月より幹細胞治療研究センターが設備された。
 当センター内には細胞プロセシング室を設け、研究者からの要請に応じてiPS細胞を初めとする各種幹細胞の分離培養、安全性の検討、遺伝子導入ベクターの調製などを行うことが可能である。
 東京大学iPS細胞等研究拠点(以下、本拠点)では平成20年度より開始した本研究課題の遂行において緊密な情報交換および定期的なリトリートの開催などにより、拠点内研究者間の連携がこの1年間で一層強化され、さらに理想的な研究体制が構築されている。

 以下に本拠点内、医科研幹細胞治療研究センター(中内啓光)、医学研究科・医学部附属病院チーム(牛田多加志)、細胞生物学研究チーム(宮島篤)、総合文化研究チーム(大沼清)の4つのチーム(チームリーダー)において行われている研究内容について紹介する。

ii. iPS細胞樹立のための新しい基盤技術とiPS細胞の安全性強化技術の開発

 貴重な臨床検体から再現性良く、高効率でのiPS細胞樹立を可能とする高力価レトロウイルスベクター生産システムを構築した。
 本法により従来困難であった造血細胞からのiPS細胞の樹立に成功している。
 また、ゲノムに遺伝子挿入を残さない樹立法として、iPS細胞誘導因子を蛋白質の形で導入する方法が報告されているが、これを実用可能な効率まで高める検討を行っている。
 また、iPS細胞の樹立から維持に至るまで、異種生物由来の成分の混在を排した培養技術の開発を行い、合成ハイドロゲルなどを用いて無血清、無フィーダー条件でヒトiPS細胞における未分化維持技術を確立している。
 さらなる安全性強化技術として、癌化の可能性の高い細胞を予見する技術、アッセイ系の確立およびそれらの細胞を前もって、または生体投与後に選択的に除去するシステムの開発にも着手している。

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iii. iPS細胞を臨床応用するための各種細胞への分化誘導システムの確立

 本拠点では、各種血液疾患、血友病、骨・軟骨形成不全症、免疫不全症候群、変形性関節、糖尿病、神経変性疾患などに対して、iPS細胞を用いた遺伝子・細胞治療の確立を目指している。
 これまでにマウスやヒトES細胞で培った知見をもとにiPS細胞から造血系細胞、膵臓細胞、骨・軟骨系細胞、平滑筋細胞などの誘導法の開発、神経系分化におけるニューロン分化維持機構の解明を試みてきた。
 医科学研究所では、ヒトES細胞から造血前駆細胞が濃縮される嚢様の構造物(ES-Sac)を介して血小板を分化誘導し、その機能を維持する方法を確立した。
 この成果を基にヒトiPS細胞からも機能性血小板が産生できることを明らかにした。また、ヒトES細胞から脱核赤血球を誘導する方法も確立しており、ヒトiPS細胞からの赤血球産生にも成功している。
 iPS細胞からの膵島(β細胞)への分化誘導法開発研究では、成熟型のβ細胞への分化に必須の因子を同定しており、これに基づいて作製されるインディケーターマウスを用いることによりiPS細胞からの選択的な成熟型β細胞への誘導法開発が期待されている。
 また、iPS細胞からの血管平滑筋への分化誘導法もβ細胞研究と同様の手法を用いることで確立されつつある。骨・軟骨分化をモデルとした大量培養・分化誘導系の開発も行われ、静水圧による軟骨細胞の分化促進というユニークなアプローチの検証をiPS細胞を用いて行っている。
 また、神経変性疾患の病態解明、治療モデル開発を目的とするiPS細胞由来神経幹細胞からの高効率なニューロン分化実現プロジェクトも進行中であり、ニューロン分化能喪失に関連する分子メカニズムの解明を通じて目的の達成も近いと考えられる。

iv. 患者由来iPS細胞などの保存・供給システム

 患者由来iPS細胞は再生医療のみならず、病態解明、毒性試験、創薬などへの応用が可能であることから研究材料としても極めて重要であり、その保存・供給システムの確立が望まれる。 そこで、医科学研究所にはiPS細胞などを保存する“ステムセルバンク”の設置を完了した。拠点内にて樹立されたiPS細胞の保管、樹立および評価を行い、理研バイオリソースセンター(理研拠点、中村幸夫副拠点リーダー)と連携して広く研究者に供給できる体制を目指している。

v. iPS細胞に関する標準化

 これまでの研究成果によりiPS細胞は株ごとに性質が大きく異なることが想定されるため、“標準iPS細胞”の定義は難しい。
創薬研究においては、in vitroで再現性良く目的細胞へ分化する細胞が望まれる一方、未分化性維持機構の解明といった目的においては、安定して多能性を維持する株を用いる必要がある。
また、将来的にはヒト疾患への応用を考慮すれば、癌化のリスクの極力小さい細胞株が治療用として選択されるべきであり、用途に応じた“標準iPS細胞”の定義が必要かも知れない。
このような状況のもと、さまざまな細胞ソース、異なる樹立法により多種多様なiPS細胞を作製し、大きな母集団の中でそれぞれの評価系を用いた特性比較を行い、データを蓄積することが現時点では肝要である。

 医科学研究所では、フローサイトメトリー解析によるスクリーニングによりiPS細胞の未分化性と相関する表面マーカーを特定するとともに、single sequence trap法に基づくスクリーニング法により、iPS細胞に特異的に発現する複数の候補分子の同定にも成功しており、iPS細胞を表面マーカーにより特性ごとにソートする技術への応用が期待されている。

 iPS細胞のゲノムの安定性の評価は標準化に極めて重要な指標である。代表的iPS細胞を用いた高密度SNP(編集注:single nucleotide polymorphism、一塩基多形)アレイによるゲノムの安定性の網羅的評価においては、一部の細胞株で微細な染色体異常を見出している。
今後より多くのiPS細胞株について経時的な評価を行うことで、“標準化”作業に重要な知見を提供しうるものと考えられる。


◇大津 真(オオツ マコト)
東京大学医科学研究所 幹細胞治療研究センター 幹細胞治療分野 助教
◇中内 啓光(ナカウチ ヒロミツ)
東京大学医科学研究所 幹細胞治療研究センター 幹細胞治療分野 教授

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2. 再生医療トピックス

◆第43期バイオメディカル・カリキュラム 受講生募集!

東京女子医科大学では、医療産業に携わる社会人が1年間で医学と工学を系統的に学習する講座を約40年にわたり開講しています。

開講期間: 2011年10月〜2012年9月
申込み〆切: 2011年7月末日
詳細はweb(PC版)をご覧下さい→ http://www.twmu.ac.jp/ABMES/BMC/

◆RAPSジャパン2010シンポジウムのお知らせ

より合理的な薬事規制はどうあるべきか
 -リスクマネジメントを中心としてー
日時: 2010年11月25日(木)13:00-18:30
場所: 東京女子医科大学 弥生記念講堂
URL(PC版): http://www.rapsjapan.jp/tabid/1773/Default.aspx


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