Vol.4(2010年10月28日配信)

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おはようございます、RegMed-now編集室です。
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 今回は、先端医療振興財団 膵島肝臓再生研究グループ・グループリーダー松山晃文先生の文献を通し、日本における再生医療分野のレギュラトリーサイエンスの現状についてご紹介いたします。
米国でES細胞を用いた臨床試験が開始されたという大きなニュースもあり、再生医療研究を実際に臨床応用するにあたっての規制問題は、非常に関心の高い分野と考えられるため、取り上げさせていただきました。


目次
1. 再生医療製品の品質・安全性確保において「最低限必要とされる要求事項」の明示による再生医療実現と社会還元の加速を目指して
  ―再生医療研究大国にっぽんの再生医療大国への道のり―松山 晃文(『再生医療』2010年2月号より)
2. 再生医療トピックス
  シンポジウム 「バイオアセンブラ」(11/1) 開催のご案内


 

1. 再生医療製品の品質・安全性確保において「最低限必要とされる要求事項」の明示による再生医療実現と社会還元の加速を目指して

―再生医療研究大国にっぽんの再生医療大国への道のり― 松山 晃文
(『再生医療』 2010年2月号より)

i. はじめに

 近年の再生医学、発生医学の進歩は目を見張るものであり、それが革新的治療法として難治性疾患への光明として話題に上らない日はない。
世界を見渡すと、骨髄、末梢血、臍帯血中の造血幹細胞を用いた細胞治療が盛んに行われており、また心筋梗塞などで壊死に陥った組織の機能を補う再生医療臨床研究も行われている。
わが国でも、数多くのヒト幹細胞を用いた臨床研究が実施されており、その数は米国のそれを凌駕している。

 基礎的研究シーズの社会還元への迅速化に向け、臨床研究が応用開発に連結しやすい仕掛けが、今、まさに求められている。
解決すべき課題はあまたあるが、これまでの再生細胞医療臨床研究での経験を踏まえ、再生細胞医療研究開発から臨床利用における共通プラットフォームとしての「最低限に必要とされる要求事項」明示がその1つではないかと考える。
医師法・医療法と薬事法という規制の目的方向性が異なる法の下での実施あっても、諸外国と法制度の差異はあっても、First-in-Manへの最低限確認しなければならないことは一貫しているはずである。
本稿では、米国と我が国の再生医療臨床応用に向けた規制を比較し、再生細胞医療研究開発から臨床利用において「最低限必要とされる要求事項」について求めるべき考え方について私見を述べたい。

ii. 米国での規制とその緩和

 米国では、すべての細胞製剤についてはPublic Health Service Act Article 351  361およびFood, Drug and Cosmetic Actの諸条項により、Biologics License Application (BLA)を受けるまでInvestigational New Drug (IND)として規制を受ける(機器の場合はInvestigational Device Exemption; IDE)。
INDは申請者によりcommercial IND(企業が申請するIND)とnon-commercial IND(大学など研究機関研究者が申請するIND)に分けられるものの、phase Iに相当するclinical trialへの要求水準が同じであるため大学など研究者から不満があった。
米国では、基礎的研究の速やかな臨床応用を目指し、国家を挙げてCritical Path Initiative政策を掲げているところである。
Critical Path Initiativeは速やかな基礎的シーズの産業化という目的をもった科学技術産業政策であり、その本質はとにかく成功体験を作り、それにより問題点・課題を抽出・明確化するということにある。

 加えて、成功体験を作るには基礎的シーズのBLAに行き着く確率が一定であれば、phase Iに入るシーズが多いほど産業化期待値が大きくなるはずであるから、基礎的シーズを多く保有する大学などによるnon-commercial IND申請・承認を増やさねばならない。
再生医療周辺産業が産業として確立している米国においてさえ、研究者からはINDによる過剰な審査と脱落が由々しき問題であると認識されていた。
確かに、米国においても研究費獲得のためのIND申請も行われていると仄聞しており、すべてのIND申請の質が良好であるわけではないが、上記背景から、phase Iにおいて求められる要求事項を“discount”したPhase I-GMP Guidanceがreleaseされた。
米国をはじめわが国を含めたICH参画国においてFirst-in-Manで求められる水準は収束してきていると思われ、興味深い。
なお、産業化がなされ市場として成熟していくのであれば、OECDがガイドラインを作成すると思われるが、現在のところ市場が確立しているわけでもなくそのような動きはないのも現実である。

iii. これまでのわが国における基準明確化の流れ

 細胞・組織利用医薬品などによる再生医療は、ヒトの臓器確保が難しいわが国の医療状況下において強く期待されており、研究の進歩に伴う技術的な実現可能性の高まりとともに、医療としての実用化を望む声がますます強くなっている。
わが国では、医師法・医療法の下で行われる臨床研究として数多くの再生細胞治療臨床研究が試みられてきた。
再生細胞医療はいまだ未解明な部分もあることから、臨床研究の質を向上させ、患者さんの不利益とならないように臨床研究を実施する必要があることから、平成18年9月1日に「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」が施行された。
厳しいのでは、という指摘もあるところであるものの、厚生労働大臣が意見を述べるまでのtime clockも短縮してきており、申請プロトコールの質の向上も明白、ヒト幹細胞臨床研究プロトコールの質も世界標準に近づきつつあると認識される。

 これまで、厚生労働省においても、わが国の再生医療を適正な規制のもと推進するため安全性評価基準の作成など規制のあり方について検討を加えており、平成12年医薬発第1314号別添2「ヒト由来細胞・組織加工医薬品などの品質及び安全性の確保に関する指針」の改定を行い、薬食発第0208003号通知ならびに0912006号通知として薬事法上の規制に反映されてきた。
臨床研究として医師法・医療法の規制下で行われてきた再生細胞治療に関しては、従前なんら規制などはなかったが、平成18年に厚生労働省告示第425号「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」が告示され、同年9月1日より施行された。
同告示はあくまで医師が自らの医行為の一環として、自ら組織を採取、培養、投与することを前提としている。
投与される細胞の品質を確保し、その有用性を担保するための基準として薬事法関連規制としての平成12年医薬発第1314号を援用しているところであるが、同通知はFirst-in-Manに向けた確認申請で求められる水準のものから、製造販売後に求められる水準まで記載されており、いわゆる1314号通知に記載されているすべての項目を援用する必要はないはずで、過剰な要求がなされているのではないかと研究者側が過剰に反応しているとの危惧を覚える。
薬事法関連規制としての改定自己通知・同種通知(平成20年薬食発第0208003号通知・同第0912006号通知;あわせて平成20年通知と呼ばれることもある)において、確認申請時に求められる水準を明確にすべく改定されていることから、現在進行している「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」の改定委員会においても議論され、改定時に反映されるものと認識している。

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iv. なぜ「最低限必要とされる要求事項」の明示が必要なのか?

 広く再生医療にかかる安全性および有効性評価項目・基準を研究早期から示すことは、大学などでFirst-in-Manとして開始される臨床研究を迅速に実用化するためにも必須である。
大学発シーズが速やかにかつ広く社会還元されるには、医師法下にて行われるヒト幹細胞臨床研究から薬事法下での確認申請・治験・承認審査・製造販売承認までの制度を超越、一貫した共通して申請資料に使用できる「最低限必要とされる項目」が示されるべきである。
すべての再生医療製品(細胞組織利用医薬品医療機器)に共通したFirst-in-Manに求められる水準が明示され、それがヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針の運用で用いられれば、薬事法関連規制へと一貫連結した前臨床研究・非臨床研究データを得られることとなり、それらプロトコールを引き受ける企業も「安心して」引き受けることが可能となるのである。

v. 「最低限必要とされる要求事項」策定の考え方と具体的な検討の方向性

 「最低限必要とされる要求項目」は、科学的合理的で拠って立ちうる最低限かつ不可欠な評価項目・基準とそのパッケージとして提示される必要がある。
これらパッケージの提示は、「サイエンス」という共通かつ普遍言語をもってして初めて可能となる。
「サイエンス」からみれば、医師法・医療法下での臨床研究も薬事法下での治験もなく、本質的不可欠な項目は普遍でなければならない。
そうでなければ、我々研究者が拠って立つサイエンスは無力と言われてしまう。
すべての再生医療製品(細胞組織利用医薬品医療機器)に共通したFirst-in-Manに求められる水準は、疾患ごとのケースバイケースの上乗せ評価項目の基盤として、階層構造を念頭においたパッケージとして構築されるべきであろう。
そのため、ヒト幹細胞臨床研究において投与・移植される細胞・組織利用製剤などに関して、学問・技術の進歩、倫理上の重要ポイント、国際的動向などを調査・検討、さまざまな研究者などから提言されている安全性評価基準を広く収集し、当該評価項目・基準の科学的合理性および妥当性に関して検討、「最低限必要とされる要求事項」の適切な安全性評価項目立てを行い基準の作成が行われるべきである。
特に、ヒト幹細胞臨床研究に際して、臨床応用に向けた一貫した評価指標との観点から、研究、開発、評価などを効率的、効果的、合理的に行う上で、学問技術の進歩、開発動向、倫理上の重要ポイント、関係法規指針など、関連する諸要素をふまえて、必須かつ共通と思われる技術、細胞・組織利用製剤などの製造施設、製造方法、特性解析方法、品質管理方法及び安定性評価に関する具体的留意事項について明示されるべきものであって、産官学が理解と解釈を共有できるミニマムコンセンサスであり、かつそれがパッケージング化されることが望ましい。

 ヒト幹細胞を利用した細胞・組織利用製剤などにかかわる国内外のガイダンスや最新の情報収集を行い、その科学的合理性に関しては追試を行うことも必要となるかもしれない。
研究者などから提言されている有用性評価基準・項目を収集することも、研究から開発、社会還元にむけた一貫性確保の観点から重要である。
これらをとりまとめのうえ、科学的に合理性があると想定される事項に関して再現検討を含めて評価、「最低限要求項目」として設定し、わが国における規制の枠組み、特に再生医療実現化の入口であるヒト幹細胞臨床研究審査基準に反映させるため、「最低限要求項目」に階層構造を付与し、「最低限要求事項ポートフォリオ」として策定されるべきである。

vi. おわりに

 これらにより、再生医療実現化の入口であるヒト幹細胞臨床研究から薬事法上の製造販売承認までシームレスかつ一貫した研究開発の方向性が示される。
ヒト幹細胞利用製剤の評価などを効率効果的、合理的に行う上での基本的考え方、必要と思われる技術、データ、安全性評価指標の主要項目など、すなわち「最低限必要とされる要求事項」が示されれば、再生医療を活用する新規治療技術の実用化に関連した、細胞・組織などを用いる治療技術の安全性・品質の確保に関する技術開発に資することとなる。
ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針でも取り込む必要があろうし、この基盤をいわゆる自己通知・同種通知(平成20年通知)の実務運用に活用すべきである。
これらを国際標準とするための働きかけも重要である。

 また、これら「最低限必要とされる要求事項」作成の過程を公表することで、すべては患者さんのためというその哲学を示すことが可能となる。
要求項目の1つ1つに込められた規制側の「思い」を理解することで、Phaseが進行したときに上乗せされる規制についても合理的に想像ができるようになると思われ、ケースバイケースとされている判断項目・基準がいかに合理的に運用されているかを理解できよう。

 研究と開発の非連続性を解決し、数多くの臨床研究の中から本当に患者さんに有用な細胞組織利用医薬品などが、患者さんの手に届く日が1日でも早く来るよう、その結果国民の保健医療の向上に大いに貢献するよう願いたい。


◇松山 晃文(マツヤマ アキフミ)
先端医療振興財団 膵島肝臓再生研究グループ グループリーダー
厚生労働省厚生科学審議会科学技術部会専門委員(ヒト幹細胞臨床研究に関する審査委会)、同高度医療評価会議技術委員、(独)理化学研究所 創薬・医療技術基盤プログラム マネージャー(規制科学担当)、上智大学生命倫理研究所客員研究員、山口大学医学部非常勤講師 兼務
専門:再生医療・規制科学

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2. 再生医療トピックス

シンポジウム 「バイオアセンブラ」 開催のご案内

日時:2010年11月1日(月)10:30-16:50
会場:東京女子医科大学先端生命医科学研究所 TWIns 2階 大会議室
住所: 〒162-8666 東京都新宿区河田町8-1
参加費:無料
TEL: 03-5367-9945 内線6223
URL:http://www.twmu.ac.jp/ABMES/ja/sympo20101101


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