Vol.2(2010年9月23日配信)

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目次
1. Bloody Engineerの医療への挑戦
第47回日本人工臓器学会大会 教育講演 梅津光生(人工臓器 39巻1号より)
2. 再生医療トピックス
第三回振興調整費シンポジウム(9/ 30)のお知らせ


1. Bloody Engineerの医療への挑戦

第47回日本人工臓器学会大会 教育講演 梅津光生(人工臓器 39巻1号より)

i. はじめに

 なぜ、鉄道、時刻表、旅行好きの少年が人工臓器を開発するようになったか。 振り返ると、そこには、いくつかの外的要因と素晴らしい人々との出会いがあったように思う。
 まず、1969年、東京大学の入試が大学紛争で中止になり、早稲田大学で土屋喜一教授に出会うことができた。土屋教授は流体制御が専門で新幹線の関ヶ原の豪雪地帯に設置した消雪用スプリンクラーの開発を行なった。 鉄道ファンの私はそこに惹かれてゼミに入ったが、就職活動のときに第1次のオイルショックが起こり、就職はせずに大学院でバイオエンジニアリングを学ぶ機会を得た。

 大きな病気をしたこともなく、医学部へ行こうなどと一度も考えたことのない私に対して、土屋教授は"これからは医学が工学と一緒にやる時代が必ず来る。大学院でBiomedical Engineeringという新分野をやったらどうか"と言われた。これに対して「僕がやりたいのは機械工学です。医学なんて関係ないじゃないですか」という言葉が思わず出た。しかし土屋教授は、気の毒そうな顔をして、「関係とはあるかないかじゃない。関係とは、いかにこじつけるかだよ。私は長年、流体を制御することをやってきたけれども、生体の血液循環系だって精巧な神経系が制御している、言ってみれば、これも流体制御だよ」と言われた。取り扱う対象はずいぶん違っていても、その哲学が面白いと感じ、1974年、早大理工から2kmの距離にある共同研究先の東京女子医大の心臓血圧研究所に早大の大学院生として通う日々が始まった。
 本稿では、これをきっかけに女子医大・早大の連携施設が出来て、そこで現在展開されているエンジニアの医療への挑戦に関して概説する。

ii.東京女子医大における医工連携の経験

 東京女子医大では、当時、20歳台から30歳台半ばで、その後わが国の心臓外科のリーダーとなられた心研外科の小柳医局長(当時)、富野、北村、黒澤、小原、川副らの諸先生とともに、読書会をやり、人工心肺、人工心臓の開発や、心臓代用弁の性能評価や補助循環の効果の評価などのテーマで、雑種成犬を用いた動物実験を週二回のペースで行った。
しかし、動物を犠死させることは、動物好きの著者には大変辛いものであり、何とか、動物実験の頭数を削減できないものか、とずっと考えていた。
そこで動物実験代替システムとして血液循環系の流体循環シミュレータを構想した。その設計諸値を決めるために、動物にたくさんの血圧トランスデューサや流量プローブを取り付けて血液循環系をなるべく流体システムとして捕らえる実験を繰り返した。 

 一方、心研の専門スタッフとも密接にコミュニケーションが取れるという、きわめて恵まれた環境が提供され、手術室、集中治療室などにも出入りでき、シミュレータを作り、その性能を検証するための血行動態データを取得することができた。
異分野の若造が従来とは違う視点から質問を投げかけるので、かえって面白がられて、皆、とても親切であった。 そのうち医学の専門用語にも耳が慣れてきて、気づいたら自分も専門用語を使って医療チームのメンバーと会話が出来るようになり、論文としてもまとめることが出来た。
その後、国立循環器病センター研究所の立上げを経験し、オーストラリア人工心臓の初代リーダーとして国際プロジェクトの運営にも携わり、バイオエンジニアとして、動物実験や、補助心臓の臨床応用を多数経験した。

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iii.連携施設TWInsの創設

 その後、母校で職を得て、再び、女子医大とのお付き合いが始まり、心臓外科の山崎教授のEVAHEARTのプロジェクトだけでなく、再生医療の岡野教授、ロボット外科の伊関教授らとの共同研究も推進された。
そして、将来のために研究・教育環境をもっと組織的にまとめようとの決意をもとに、両大学の、総長、学長、理事会のサポートを得るとともに、両校とも、文科省の私立大学学術研究高度化推進事業(ハイテクリサーチ整備事業)の多大なご援助をいただき、2008年3月に"東京女子医大・早大連携先端生命医科学センター"が創設された。 

 この愛称は、両校の頭文字にInstitutionを組み合わせて"TWIns(ツインズ)"と呼ばれている。その名のとおり、2大学によってひとつの研究教育施設を共同で運営するという画期的な企画で、女子医大隣接地の国有地払下げ2000坪に延べ床面積20000平方メートルの近代的ビルが建設された。
そこに早大から400名(大学院生300名)、女子医大から150名が結集し、医学・生命科学と理工系の先端テクノロジーのニーズ・シーズが出会い、2大学の研究室が真に融合する環境が出来上がった。 女子医大で温かく育てていただいた恩返しのつもりで今はその円滑な運営に力を注いでいる。

iv.Another EBM (Engineering Based Medicine) の提案

 現在は、TWInsのメンバーは、内外でさまざまな連携研究を推進しているが、梅津研究室では、血液循環シミュレータの技術を発展させ、工学が医療に貢献できるDRYラボという環境作りを進めている。

1)手術技能研修室
 冠動脈バイパス術と僧帽弁形成術に対しシミュレータを用いて反復練習する実験環境を整備している。そこでは,若手外科医が冠動脈吻合技能を行い、その技術を定量的に評価できる。 また、熟練医が難易度の高い手術に対していくつか選択肢のある手技の効果を非臨床で定量的に調べる、すなわち外科医の技を数値で表現することを進めている。

2)人工臓器機能評価実験室
 開発中、あるいは新規の医療機器に対して、臨床に即した環境をシミュレータで再現し、そこで性能評価実験を行える実験室の整備を進めている。 評価項目は、流体力学特性、耐久性、血液適合性であり、耐久性に関しては、近年ステントの破損事例の報告が増えてきており血管用ステント(末梢血管,冠動脈)の耐久性を短期間に予測評価する加速耐久試験装置を開発した。 その耐久性を比較評価することができる本装置には国内外の医療レギュラトリーサイエンスに係る研究者、企業人、医療機器審査関係者などが見学にきており、我が国初の体験型実験施設として整備中である。

3)医療情報解析室
 医療行為を定量評価するプロセスを経験するために、流れの可視化、数値流体解析(CFD)を医療情報と結びつけることが出来る環境の整備を進めている。 そこでは、血液ポンプなどの治療機器をはじめ,脳動脈瘤や冠動脈バイパス術での吻合部の血行力学を現実に近い環境下で詳細に評価することができる。 また、数値シミュレーションによる血流可視化では脳神経外科医とともに大規模な症例数のデータに基づく脳動脈瘤の大規模な破裂リスク解析を行い、未破裂・破裂脳動脈瘤を的確に判断し,手術の必要性や緊急性を医師の経験に加えて科学的データに基づいて評価する指標の構築が進められている。
 これらの実験室の使用を通じて、科学的な非臨床実験データに基づき、医療の安全性、有効性の評価を行なうことを進め、その蓄積により、医療のレギュラトリーサイエンスの学問構築を推進する予定である。

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v.おわりに

 著者のバイオメディカル・エンジニアとして35年間やってきた経験より、異分野が融合できる環境が極めて大切であると痛感している。国立循環器病センター研究所の設立当初、人工心臓開発のオリジナルメンバーとして働いていたとき、1ヶ月に17日人工心臓ヤギの横で当直した経験がある。
ヤギの状態が悪化した時、「自分はエンジニアなので・・・」と何もしないわけにはいかない。また、医師も当直中に機械のトラブルがあっても何もしません、では困る。お互いの分野に敬意を払い、各自のオリジナリティーを大切にしながら異分野へも足を踏み入れて、グループで活動して行くことが成功への鍵だと思う。 そういう意味から、異分野融合教育でニーズ・シーズ両方の分野の目利きを育てることがバイオメディカルエンジニアリング分野の発展のために重要であり、この連携施設(TWIns)の果たす役割は大きいと信じている。

謝辞:本研究を進めるに当たり、厚生労働科学研究費補助金(医工連携研究推進基盤研究事業:H20-001)および、文科省私立大学学術研究高度化推進事業(ハイテクリサーチ整備事業2007年)の援助に対し、謝意を表する。 また、梅津研の実験室整備に貢献してくれている岩崎清隆、八木高伸、坂口勝久、朴栄光、銭逸らのスタッフ、および大学院生、共同研究先の諸氏に心から御礼申し上げる。


◇梅津 光生(ウメヅ ミツオ)
早稲田大学先端生命医科学センター(TWIns: ツインズ)

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2. 再生医療トピックス

シンポジウム開催のお知らせ

文部科学省科学技術振興調整費先端融合領域イノベーション創出拠点の形成 再生医療本格化のための最先端技術融合拠点 第三回シンポジウム

「CSTEC2010」-細胞シートによる再生治療の現状と将来展望-
招待講演「細胞治療から臓器再生治療へ:次世代の再生医療を目指して」
中内 啓光 東京大学 医科学研究所 幹細胞治療研究センター センター長・教授

日時:9月30日(木) 13:30~18:00
場所:東京女子医科大学 弥生記念講堂
参加費無料・事前登録不要、奮って御参加ください
URL:http://www.twmu.ac.jp/ABMES/CSTEC/ja/cstec2010


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