Vol.17(2011年8月18日配信)

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こんにちは、RegMed-now編集室です。今月より配信日が毎月第三木曜日となりました。今後もぜひご愛読をよろしくお願い致します。
今月号では引き続き、スーダンでの医療支援を手がけるNPO法人ロシナンテス代表の川原尚行先生へのインタビューをお届け致します。先日シンガポールで行 われたTERMIS-APのAnnual meetingにおいてもTissue engineering and the developing worldというセッションが設けられるなど、先端医療と発展中の国々との関係も注目を集めるいま、今回はスーダンの医療が抱える問題や今後の展望につい てお話を伺いました。


【目次】

1. インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第2弾 川原尚行
●第3回 「スーダンの医療が抱える問題」

2. 再生医療トピックス
◇女子中高生のためのサイエンスカフェ・「広がる医学」先端医学研究へのお誘い
◇辰巳公平助教「Young Investigator Award(YIA)」受賞!
◇第43期バイオメディカル・カリキュラム 受講生募集!締切間近!

3. ABMESダイジェスト
◇青紫色LED照射は抜歯後の出血を即座に止血する:臨床的・電顕的観察(石川烈ら)
◇代償性肝再生時の血中凝固因子動態 (辰巳公平ら)


1.インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第2弾
-NPO法人ロシナンテス理事長・医師 川原尚行

【プロフィール】
川原 尚行(かわはら・なおゆき)
1965年生まれ、福岡県出身。1992年九州大学医学部を卒業。1998年九州大学大学院修了後、外務省入省。在タンザニア日本国大使館へ医務官(兼二 等書記官)として赴任。その後、ロンドン大学で熱帯医学を研修。2002年、在スーダン日本国大使館に医務官 (兼一等書記官)として赴任。2005年外務省を退職後、スーダンで医療活動を開始。2006年NPO法人ロシナンテスを設立。


☆シリーズ第2弾を読む > 第1回第2回第3回最終回

●第3回 「スーダンの医療が抱える問題」

◆医療格差はここにも……

――現在、スーダンの医療界が抱える問題というと、どのようなことが大きいですか?

川原 いっぱいあるので、何から言ったらいいかな……。まず、中央と地方の医療格差がある。日本の医療も大都市中心というのが現状だけれど、それと 同じように地方では医療過疎が起こっている。無医村がいっぱいある。地域医療がうまくいかない要因は、保険制度がないことにもあるのではないかと思いま す。
人の国外流出も問題ですね。例えば、ヨーロッパに医療留学した人は、そのまま帰ってこない。患者さんも国外へ出ていっています。日本も今、「メディカル・ ツーリズム(医療ツーリズム)」ということを唱えて海外から患者さんを受け入れようとしているけれど、私はあまり好きじゃない。特に発展途上国では、国外 へ出て治療を受けて帰ってくる人々がかなりの人数に上るので、まずは自国内で対応できるようにしないといけないと思います。

――アラブの裕福な国では、大金持ちが寄付して「自分の病院」を作っているそうですが……。

川原 カタールの王族の一人がスーダンにドカンと病院を建てたのだけれど、それができた後でも、大金持ちはヨーロッパまで医療を受けにいっています。その次のランクぐらいのお金持ちは、湾岸諸国に渡っています。

――具体的な病気の撲滅うんぬんという以前に、医療システム自体に多くの問題を抱えているということですね。

川原 再生医療の分野でも医療格差はあります。例えば、火傷に使う再生皮膚でも保険適用外になると数十万円もかかることがあります。

――中身こそ違いますが、先進国は先進国で、アフリカ諸国はアフリカ諸国で、医療格差という構造問題がある点では共通しているのではないかと思っています。その格差は、どこまで埋めるべきなのでしょうか? 政策的な手当てが必要でしょうか?

川原 非常に難しい質問です。お金持ちではない普通の村の人でも、高度な医療手段があることを知ると、どうしてもそれを受けたくなる。または、受け させたくなる。当然です。でも、とてもお金がかかる。お金がなくて高度医療を受けさせられないとなれば、強い罪悪感のようなものを抱いてしまうようです。
 その一方で、その村に生まれて、育って、結婚して、子どもを産んで、その村で死んでいくというのもアリで、そこにある資源で医療を含めて何とかやってい くというのも一つなのかなと思います。この間も、ある子どもさんの病状が危なかったので首都にある病院に搬送したのだけれど、結局うまくいかなくて、その 子どもさんは亡くなった。そうなると、「やはり村で診てあげて、村で死を迎えさせてあげたほうがよかったのかな……」という後悔の念も覚えるのです。私自 身、まだその解答は見出せていない。迷いの最中です。

――海外に重い病気の人がいたら日本に連れてきて、治して元気にして返せばいいというのは、何かちょっと違うと思います。

川原 でも、メディカル・ツーリズムって、そういうことだよね。日本は今、経済が停滞しているから、海外から患者さんを受け入れる医療サービスに よって経済を上向かせようという考えがあるけれども、それはあまり感心しない。すごくエゴを感じてしまう。むしろ、そういう医療を必要とする国へ行って、 そこの国の中で賄えるように支援すべきだと思います。

――明らかに「他の国だったら助かるのにスーダンでは助からない」というようなことがなければ、ある程度の水準の医療が整えられればよいのでしょうか? 医療先進国のレベルに達するまで支援するというのではなくて。

川原 でも、スーダンのドクターだって先端のレベルを知っているからね。再生医療も知っている人は知っているし、より上のレベルを目指せるように支 援するのはアリだと思います。結局、バランスの問題でしょう。地域医療もやらなくてはいけないし、草を煎じて飲めばいいという伝統医療だって、ある地域の 人々が信じているのであればアリだと思う。

◆「生きている」という実感

――医療格差というものは、単に埋めたりならしたりすればよいわけではないのですね?

川原 評価軸を変えてみたら、スーダンより日本が下だということもありますから。例えば、家族のあり方とか、人同士の付き合い、人と自然との付き合いという面では、スーダンのほうがはるかに上だものね。昔の日本であれば、それも当たり前の風景だったろうに。
 ただ、首都のハルツームにもだんだんと近代的なものが入ってきて、よい文化が壊されていくのが目に見えて分かります。とはいえ、よい文化を残している地 方では、逆に医療システムが駄目だったりする。伝統的なものをうまく残しながら、医療を含む社会システムを整えていかなければならない。だから、「地方」 というのは重要なキーワードだと思います。地方を元気にしないといけない。スーダンでも日本でも、それは同じなんです。スーダンという国のあり方を見て、 「日本も今のうちにちょっと軌道修正する必要があるなあ」と、そう思います。
 
――スーダンのための活動をとおして、日本の課題も見えてきたということですね?

川原 まあ、巡りめぐって自分のためになるのだろうね。スーダンでは生きていることに実感がわく。「生きているんだ」って思える。日本も、そうした実感が得られる社会になったらいいなと思います。

――どういうときに「生きている」という感じがするのですか?

川原 貯金通帳なんかを見て、「いくら貯まったかな」というのは、おもしろくないと思うよ。やはり、皆と一緒に喜びも悲しみも 分かち合うというのが「生きている」ということかな。最近の日本では、「個食」といわれるように、一人でご飯を食べる人が多くなっているのでしょう?  スーダンの人々は、必ず皆と一緒に同じ物を食べる。人間は一人では生きていけないので、そういった連帯感を感じると、「生きている」と思うなあ。
 この間、現地で事故に遭ったんです。夜中、穴ぼこにドカンと落っこちた。泣きそうになったけれど、村の人が100人くらい集まってきて、皆で引き上げて 助けてもらったんです。私が死んだと思って泣いていた人もいた。そのときの一体感たるや、「ああ、生きていてよかったなあ」という感じです。
 ずいぶん前、日本で交通事故に出くわしたことがあったのですが、大破した車の中に人がいるのだけれども、救急車を呼んでいるからということで、取り巻い て見ている人たちは何もしないでいる。私が中に入っていったのだけれども、助けられなかった。何か日本人って、「誰かがするから自分はいいや」と思ってい るのではないか、そういう感じを受けましたね。アフリカでは考えられません。必ず皆がワーッと協力して、何かやろうとする。そういう意識の差はあります ね。「誰かがするから自分はいいや」という意識は、「何でも行政任せ」というところに通じているのかもしれません。

――ところで、NPO法人名「ロシナンテス」の由来を教えてください。確か、「ロシナンテ」というのは、『ドン・キホーテ』の主人公が乗る馬の名前ですね?

川原 私は革命家のチェ・ゲバラが好きなんです。ゲバラはアルゼンチンのドクターでしょう。それがグランマ号に乗って、全然関係ないキューバに行っ て革命に参加する。数百人が何万人の兵士に向かっていくわけで、いったん負けるのだけれど、中には住民にかくまわれた者もいて、やがて勢力をどんどん増し ていって最後には勝つ、という奇跡みたいな革命を起こしてしまった。その後、ゲバラは「もう一度、ロシナンテの背中にまたがりたい」という言葉を残して革 命闘争のためにアフリカに渡ったわけ。その生き様がすごく好きで、「ロシナンテ」を複数形にした名前を付けたんです。ゲバラみたいになりたいよなあ。

――もう、ほとんど達成していらっしゃる気がしますが……。

川原 いやいや、まだまだですよ(笑)。

◆日本へのフィードバック

――先端医療とへき地医療の関連について、お伺いしたいと思います。現在、川原先生が現地で医療行為をする際に、実際に使っている医療機器にはどんなものがありますか?

川原 一番使うのが聴診器です(笑)。妊婦さんの健診もトラウベの聴診器を使います。あとは、エコーを日本から持っていったので、それもよく使います。それくらいです。
今度、日本の医学部の学生が5人、やって来ます。彼らには実際に患者さんを診てもらう。日本では、なかなか患者さんをじっくり診る時間もないし、診断もX 線撮影をしたりエコーで見たり血液データを出したりすれば、ある程度答えが分かるわけです。でも、スーダンでは、患者さんを診て、そこから得られる情報だ けで診断しなければならない。これはよい勉強になります。だから、ある意味、日本にとっての教育の場になるんです。日本がうまく協力してスーダン独特の医 療を支援していけば、そこから日本は絶対によいフィードバックを得られると思います。

――「こういうものがあったらいいのに」と思う医療機器はありますか?

川原 いろいろあればいいけれどね……。遠隔医療のテレメディシン・システムを使って、首都のメディカルセンターに地方からコンサルタントできればいいなとは思います。でも、自分が持ち歩いて使うもので何かというと、ほかの必要性はあまり感じないですね。

・・・・・・・・・

最終回 「スーダンの医療に描く夢」に続く

(インタビュアー:RegMed-now編集室/ 編集:RegMed-now編集室・シーニュ)

本日インタビューを掲載させていただきましたNPO法人「ロシナンテス」に興味がございましたらホームページをご参照ください。
http://www.rocinantes.org/index.html
また、ロシナンテスの会員になりたい方、ロシナンテスのサポートに興味のある方はこちらをどうぞ!!
http://www.rocinantes.org/support/

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2. 再生医療トピックス

◇女子中高生のためのサイエンスカフェ・「広がる医学」先端医学研究へのお誘い

* 学外の方は講演(13:00〜)のみご聴講頂けます。参加ご希望の方は以下の問い合わせ先まで所属および氏名を記載の上お問い合わせください。

講演: 
● 「再生医療って何でしょう」 
   東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 大和雅之教授

● 「遺伝子医療って何? 〜科学と患者さんの架け橋〜」 
   東京女子医科大学 附属遺伝子医療センター 斎藤加代子教授

日時: 日時:2011年11月3日(木)13:00〜
場所: 東京女子医科大学先端生命医科学研究所(TWIns)2階大会議室
問い合わせ: 東京女子医科大学附属遺伝子医療センター 近藤恵里助教(kondo@img.twmu.ac.jp)

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◇辰巳公平助教「Young Investigator Award(YIA)」受賞!

当研究所の辰巳公平助教がXXIII Congress of the International Society on Thrombosis and Haemostasis (ISTH) (2011年7月23日~28日・京都開催)において以下のご講演でYIAを受賞されました。おめでとうございます!
演題:
 「Propagation and Genetic Modification of Autologous Hepatocytes toward Gene and Cell Therapy for Hemophilia B」

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◇第43期バイオメディカル・カリキュラム 受講生募集!締切間近!

東京女子医科大学では、医療産業に携わる社会人が1年間で医学と工学を系統的に学習する講座を約40年にわたり開講しています。詳細は下記ホームページをご覧下さい。
開講期間: 2011年10月〜2012年9月
申込み締切: 2011年9月末日
URL: http://www.twmu.ac.jp/ABMES/BMC/

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3. ABMESダイジェスト

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所(ABMES)の注目の研究成果をわかりやすくお届けするコーナーです。
<最新論文紹介>

◇青紫色LED照射は抜歯後の出血を即座に止血する;臨床的・電顕的観察
  石川烈(Isao Ishikawa)ら著

380-515nmの波長はヘモグロビンの吸収波長に相当するが、この青紫色LEDを抜歯後の出血部に照射したこところ、10~20秒で止血し、従来法よりはるかに短かった。電顕像では表面に無構造の薄膜が形成されていた。この方法は安全で副作用のない方法である。

Blue-violet light emitting diode (LED) irradiation immediately controls socket bleeding following tooth extraction: clinical and electron microscopic observations.
Photomed Laser Surg. 2011, 29(5):333-338.

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◇代償性肝再生時の血中凝固因子動態
  辰巳公平(Kohei Tatsumi)ら著

肝臓は、部分的に切除されても残存肝の代償性再生により元のサイズに戻ることができる非常に再生能力の高い臓器であるが、今回はその肝再生時におけ る種々の凝固因子動態についての検討を行った。結果、トータル肝重量の減少に加え、残肝の単位細胞あたりの凝固因子産生量も減少することにより、ほぼすべ ての凝固因子の血中値が減少した。一方で、その欠損が血友病Aの原因ともなる第VIII因子のみその血中値が増加することを見い出し、その主な原因は当該 蛋白の血中半減期の延長にあると推測された。血液凝固異常症に対する細胞療法を考えた際、第VIII因子とそれ以外の因子とでは異なるアプローチをとる必 要があるかもしれない。

Regulation of coagulation factors during liver regeneration in mice: mechanism of factor VIII elevation in plasma.
Thromb Res. 2011, 128(1):54-61.


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