Vol.16(2011年7月20日配信)

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こんにちは、RegMed-now編集室です。7月に入りいよいよ「節電の夏」が到来しました。都内のオフィス等では、照明やエアコンの使用制限により電力消費を抑えようと努めております。このような電力問題に加え、猛暑の影響により熱中症で救急搬送される方が例年より大幅に増えております。必要以上に節電に取り組み、体調を崩すことのないようご注意ください。

 前月号のインタビュー企画より、NPO法人「ロシナンテス」理事長の川原尚行先生とのインタビューを配信しております。川原先生が設立されたロシナンテスは、日本から遠く離れたスーダンの無医村地区における医療活動を中心に、衛生面、教育面など多岐にわたる国際支援をなさっております。今回は川原先生のインタビュー2回目と致しまして、川原先生のスーダンでの活動のお話、現地での苦労や交流の模様をお送りいたします。


【目次】

1. インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第2弾 川原尚行
●第2回 「スーダンへ」

2. 再生医療トピックス
◇第43期バイオメディカル・カリキュラム 受講生募集!締切間近!
◇「オールジャパンで目指す再生医療実用化」開催のお知らせ
◇NHK総合テレビ「あなたが主役50ボイス〜これが未来だ!先端技術ボイス〜」出演のお知らせ

3. ABMESダイジェスト
◇歯根膜細胞シートを用いた歯周組織再生療法の有効性(妻沼有香ら)
◇旋光特性を有する固くて透明なコラーゲン製ベニア板(田中佑治ら)


1.インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第2弾
-NPO法人ロシナンテス理事長・医師 川原尚行

【プロフィール】
川原 尚行(かわはら・なおゆき)
1965年生まれ、福岡県出身。1992年九州大学医学部を卒業。1998年九州大学大学院修了後、外務省入省。在タンザニア日本国大使館へ医務官(兼二等書記官)として赴任。その後、ロンドン大学で熱帯医学を研修。2002年、在スーダン日本国大使館に医務官(兼一等書記官)として赴任。2005年外務省を退職後、スーダンで医療活動を開始。2006年NPO法人ロシナンテスを設立。


☆シリーズ第2弾を読む > 第1回第2回第3回最終回

●第2回 「スーダンへ」

◆初めは「不審者」だった

――ロシナンテスを立ち上げる前に、スーダンに行かれたのですか?

川原 私は無計画な人間で、走りながら考えるタイプです。ラグビー部の後輩たちの協力でロシナンテスを立ち上げ、NPO法人に認可されたのが2006年4月。その1年以上前の2005年1月に、手始めにイブン・シーナ病院に入り込んで外科医として診療をしながら、「さて、どうしていったらいいか」と考えた。ただ、スーダンは非常に厳しいところで、スーダンの医師免許は取ったものの、最初はすごく怪しまれましたね。それで、「やはり組織を作らなければいけない」ということで、NPO法人を立ち上げたわけです。

――現在、事務所や診療所はどこに構えていらっしゃるのですか?

川原 首都ハルツームと、そこから東へ500km程離れたガダーレフ州の州都に事務所を置いています。診療所は、ガダーレフ州の州都から更に 100kmほど東側に位置するシェリフ・ハサバッラ村で運営しています。あと、日本事務所が北九州にあります。結構、行ったり来たり。

――ハサバッラ村の人口はどのくらいですか?

川原 5000人くらい。スーダンの保健省からは「もっと広域を診てくれ」と要請されているので、周辺の村を合わせて1万5000人くらいが診療の対象かな。

――現在のロシナンテスは、医療事業を核として、水・衛生事業、学校・教育事業、さらにはサッカースクールなど、かなり手広く事業を展開されています。医療の拡充のためにほかのことを整えているのか、それともスーダンの国情のために手を広げざるを得なかったのでしょうか?

川原 私たちの原点は医療です。医療には水が必要。その水が汚かったら水事業をやらないと何も始まらない。また、われわれが未来永劫ずっと支援していくわけではないので、いかに人を育てていくかということも必要でしょう。村出身の看護師を育てようと思ったけれど、女性は学校に行っていない。そこで、学校を作って教育事業を始めた。最初にビジョンがあったわけではありません。しかし、「村人たちの自立」ということを念頭に置いていました。
 サッカーも初めはまったく考えていなかったのですが、たまたま青年海外協力隊で、バングラデシュでサッカーを教えていた人が、奥さんがユニセフの職員だということでスーダンにやって来た。「川原さん何かやることある?自分は協力隊でサッカーを教えていました」と言うから、「じゃあ、サッカーをやってみようか」というくらいの気持ちでスタートしたのです。子どものチームを作ったら、あいさつや整列、順番を守る、ゴミを拾う、そういうことをサッカーを通して子どもたちが学んでいった。それで、スーダン政府からの要請・支援もあって、ストリートチルドレンの教育もサッカーを通してやろうか、という流れになってきた。ちょっとやり過ぎと言えば、やり過ぎかもしれないけれど。

――まもなく、スーダンでは南部が独立しますが、その影響についてはいかがですか?

川原 そう、2011年7月9日に南部が独立するのです。スーダンは石油を産出しますが、その8割以上が南部からなので、北部は石油収入がドーンとなくなる。だから、スーダンという国も変わっていかなければならない。そのためには、やはり人作りが基盤になると思う。すでに、大統領の肝煎りの学会も立ち上がって、産官学での取り組みが始まっている。私は、そこにも参加させてもらっています。日の丸を背負ったつもりでいますが、これも日本に何かフィードバックがあればと思ってのことです。

◆イスラム文化の国で

――先生の活動が生んだ成果として、自信を持って誇れるものは何でしょうか?

川原 村の人たちのマインドがだいぶ変わってきました。それから、公共性もだいぶ育まれてきたようです。ハサバッラ村の人たちは、もともとが遊牧民なのです。遊牧民の気質って分からないでしょう?要するにヒット・アンド・アウェイ。40年くらい前、この地に定住したのだけれど、マインドは遊牧民のままだった。スーダン政府や州政府が「ここは難しいところだから、川原、がんばってくれ」と言った意味がようやく分かってきた。
そこに入って私たちが活動していくうちに、だんだん村の人たちが参加するようになってきたんです。診療所の運営に関する会議がもたれるようになったり、井戸を掘ったら水管理委員会のようなものを作って井戸を共同で使うための話し合いをしたり、発電機や重油ディーゼルを買うお金を村人から集めたり……。だんだんマインドが変わってきて、公共性が身に付いてきたかなと。
そのため、私たちの活動が注目されてきましたね。例えば、私たちの水事業が文字通り呼び水になって、ユニセフがトイレの衛生事業を始めるようになりました。

――基本的なところができれば、その後の援助の展開もやりやすいですね。ところで、もともと遊牧民というお話がありましたが、イスラム文化でもあるそうなので、お酒は飲まないということでしょうか?

川原 そうです。

――川原先生は「お酒で仲良くなる」というようなお付き合いが得意だと伺いましたが、この点で困ったことはありませんでしたか?

川原 いい質問ですね。もし酒が飲める国だったら、面白くないことがあってガンガン飲んで暴れていたかも。そうしたら、今の私は多分ないですね。私は、酒を飲んでいろいろなバカ話をしながらも、それをいかに実行するかということを常に考えているので、「あのとき酔っ払っていたから、あの話はなしね」ということはしない。酔っ払っていても、そのときの話に向き合っていようとするところがある。でも、酒がなくても、そういう自分であれる、酒がなくても、自分を高めていける。新たな自分を発見しました。

――では、村の方々との交流はどのように?

川原 飯とか、水とか、お茶とか、コーヒーでやります。初めは何か手持ちぶさただったけれど(笑)、もう大丈夫です。
それで、「ドクター、コーヒーでも飲めよ」と言われたら、2時間くらいかかる。火を起こすところから始まって、豆を煎って、挽いて……。時間の流れが違うのですね。最初のうちは、「もういいよ、急いでいるから」なんて断ることもありましたが、今では「もういいや」と、しゃべりながら待って、お茶を飲んで、また次に行くという感じです。

――そのくらいのペースでないと……。

川原 そうそう、あくせく生きても同じ。向こうの言葉で「インシャーアッラー」というのがある。「明日10時ね」と言ったら、平気で11時とか12時に来て、必ず「インシャーアッラー」と言う。「神が望めば10時に行く」みたいな意味で、寝坊しても「神様が『まだ寝ておけ』と言った」という感じで使われる言葉。当初は、その言葉がすごく嫌いで、「明日10時ね」と言ったら「ノー・インシャーアッラー」と付け加えていたんです。ギスギスしていたね。
外務省の職員だった頃は、「インシャーアッラー」という意識はまったくなかったし、外交官として付き合う人も違う。でも、現地の人の診療を始めて、そこから2~3年かかって「インシャーアッラー」という言葉が好きになり、今は自分でも使うし、それでいいのだなと思っている自分があります。だから日本に帰ったときは、自分でスイッチを切り替えないといけないですね。たまにそれを忘れることがあって、怒られる。「おまえはアフリカ人だから」なんて言われたりね。

――イスラム教の文化に戸惑ったことは、ほかにありますか?

川原 イスラム教は結構誤解されていると思います。実際に中に入ってみて、「こんなに素晴らしい文化だったのか」という感じです。

――男尊女卑もありますが?

川原 間違いなく男尊女卑はあるけれども、女性は女性で守られているんですよ。また、女性が男性をうまくコントロールしている部分もある。例えば、女性はめったに外出しない。男性が買い物に行くのだけれど、帰ってきたら「あんた、また腐ったタマネギ買ってきて」とか言われている(笑)。そういうのを見ると、まるっきり男尊女卑という感じでもないのかなという気がします。私たちの価値観で判断したら、「女性が家の中に閉じ込められている」と感じるのだけれど、向こうの人は別にそれが苦でも何でもない。当たり前の世界だ。やはり、価値観が違うところは、それを尊重しなければいけない。価値観を押し付けることはできないのですね。

――医療においても、日本や先進国の医療を押し付けるのではなくて、現地の文化に則した医療をやっていく必要があると……。

川原 そう。医療人類学(medical anthropology)という分野があるでしょう。日本でも伝統医療や漢方などがあったところへ、明治維新以降に西洋医学が入ってきたけれど、両者がうまくミックスできるような方向を目指していってもいいのかなという気がします。

――スーダンの医療で興味深いと思われたことはありますか?

川原 遊牧民は薬草について詳しい。マラリアだったら、この木のこの葉を煎じて飲めばいいとか。そういう知識を研究に役立てることもできるのではないかと思っています。スーダンの研究所と九州大学で学術提携が始まったところです。

――それは産業を興すことにもなるのではないでしょうか?

川原 そうそう。産業を興すというと、従来は植民地政策の名残のような側面があって、本当の意味でのフェアトレードは、まだまだ行われていない。だから、日本が率先して変えていって、大もうけしなくてもいいので、うまく産業が育つ手助けをできればと思っています。

・・・・・・・・・

第3回 「スーダンの医療が抱える問題」に続く

(インタビュアー:RegMed-now編集室/ 編集:RegMed-now編集室・シーニュ)

本日インタビューを掲載させていただきましたNPO法人「ロシナンテス」に興味がございましたらホームページをご参照ください。
http://www.rocinantes.org/index.html
また、ロシナンテスの会員になりたい方、ロシナンテスのサポートに興味のある方はこちらをどうぞ!!
http://www.rocinantes.org/support/

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2. 再生医療トピックス

◇第43期バイオメディカル・カリキュラム 受講生募集!締切間近!

東京女子医科大学では、医療産業に携わる社会人が1年間で医学と工学を系統的に学習する講座を約40年にわたり開講しています。
詳細は下記ホームページをご覧下さい。
開講期間: 2011年10月〜2012年9月
申込み締切:2011年8月末日
URL: http://www.twmu.ac.jp/ABMES/BMC

◇JSPS「再生医療の実用化」に関する研究開発専門委員会シンポジウム

「オールジャパンで目指す再生医療実用化」開催のお知らせ

日本学術振興会(JSPS)による「再生医療の実用化」に関する研究開発専門委員会では、再生医療の実用化に向けた学界、産業界、行政の立場から、それぞれの取り組みと課題について海外の実践モデルの検証を含め論議してきました。このシンポジウムでは、各分野の取り組みと成果を発表し、相互に呼応した取り組みについて産学官の見解を共有すると共に、一層の実用化促進に向けた「連帯」の方向性を提案します。
日程: 2011年7月30日(土)10:30~17:10
場所: 東京女子医科大学 弥生記念講堂
参加費: 無料
URL: http://www.twmu.ac.jp/ABMES/ja/jsps_sympo/

◇NHK総合テレビ「あなたが主役50ボイス〜これが未来だ!先端技術ボイス〜」出演のお知らせ

NHK総合テレビ「あなたが主役50ボイス〜これが未来だ!先端技術ボイス〜」に本研究所の松浦勝久講師、岩田隆紀講師が出演します。
お見逃しのないようご覧下さい。
放送日時: 2011年7月29日(金)22:55~23:24
URL: http://www.nhk.or.jp/50voice/

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3. ABMESダイジェスト

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所(ABMES)の注目の研究成果をわかりやすくお届けするコーナーです。
<最新論文紹介>

◇歯根膜細胞シートを用いた歯周組織再生療法の有効性
  妻沼有香(Yuka Tsumanuma)ら著

歯周病は成人の80%が罹患しているといわれるが、一度失われた歯周組織の再生は困難である。我々は既に歯根膜細胞シート移植が失われた歯周組織再生に有効であることを示している。本研究ではより効果的な治療法の開発を目指すため、歯根膜細胞、骨髄間葉系幹細胞、骨膜細胞を用いて細胞シートを作成し、イヌの歯周組織欠損モデルを用いてその有効性を比較した。結果より歯根膜細胞の有効性が示され、今後の歯根膜細胞シート移植のヒトへの臨床応用が多いに期待される。

Comparison of different tissue-derived stem cell sheets for periodontal regeneration in a canine 1-wall defect model
Biomaterials 2011, 32(25), 5819-5825; doi:10.1016/j.biomaterials.2011.04.071

◇旋光特性を有する固くて透明なコラーゲン製ベニア板
  田中佑治(Yuji Tanaka)ら著

抽出したコラーゲンは良好な細胞親和性を示す反面、脆弱で乳濁しやすく、微細構造も生体と異なります。フローキャスト法、脱水、化学架橋といったたった3つのシンプルな技術を巧みに利用することで、臨床で使用されている移植用コラーゲン溶液からこれまでにない生体実質組織に類似したラメラ構造を有する強靭で透明なコラーゲン薄膜を作製することができました。目的に合わせて配向性、膜厚、積層数、透明性、旋光性を自在にカスタマイズすることができる非常に汎用性の高い素材です。

Transparent, tough collagen laminates prepared by oriented flow casting, multi-cyclic vitrification and chemical cross-linking
Biomaterials 2011, 32(13), 3358-3366; doi:10.1016/j.biomaterials.2010.11.011


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