Vol.13(2011年4月20日配信)

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*このたびの東日本大震災で被災された皆様に心よりのお見舞いを申し上げます。
一日も早い復興をお祈りするとともに、私たちにできる支援を継続していきます。

 こんにちは、RegMed-now編集室です。震災から一月、被害を免れた地域でもまだまだ節電や学業や仕事への影響は続きそうな状況です。そんななか、被災地の学生の受け入れを表明している研究室などもあるようです、RegMed-nowでもそういった情報があれば随時お知らせしていきます。

 さて、当メールマガジンは今号よりさらにコンテンツを充実させ、月刊化することとなりました。今後はこれまでの再生医療関連の情報発信に加え、先端医療研究についても幅広く取り上げていきます。パワーアップしたインタビュー記事や、編集部のある東京女子医科大学先端生命医科学研究所における最新の研究成果報告などを皆様にお届けしていきます。新しいRegMed-nowは毎月第三水曜日発行です、よろしくお願い致します。

 このメールマガジンは再生医療などの先端医療に興味のある研究者・医師の皆様のために現場発、最新の再生医療研究に関する情報や知識を正確にかつわかりやすくお届けすることを目的としております。ご意見、ご感想、新規登録をお待ちしております。


【目次】

1. インタビュー企画『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第1弾 岡野光夫
 ●最終回「これからの夢、若手に伝えたいこと」 +岡野先生へのQ&A

2. 再生医療トピックス
 ◇第34回 未来医学研究会大会のお知らせ
 ◇新ジャーナル「BIOMATTER」創刊のお知らせ

3. 【新コーナー】ABMES ダイジェスト


1.インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第1弾 
-東京女子医科大学先端生命医科学研究所・TWIns 所長・教授 岡野光夫

【プロフィール】
岡野 光夫(おかの・てるお)
1949年生まれ、東京都出身。1979年、早稲田大学大学院高分子化学博士課程修了(工学博士)。
その後、東京女子医科大学医用工学研究施設助手、ユタ大学薬学部Associate Professorなどを経て現職。再生医療界で注目の技術である温度応答性培養皿を用いた「細胞シート」工学の創始者。
2008年4月には、世界に類を見ない、複数の大学からなる、医学と工学の研究・教育の融合拠点として「東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設(TWIns)」を開設。
2009年、紫綬褒章受章。


☆シリーズ第1弾を読む > 第1回第2回第3回第4回最終回

●最終回「これからの夢、若手に伝えたいこと」+岡野先生へのQ&A

前回までは、岡野先生の「これまで」についてお伺いしてきました、今号では先生の「これから」の夢、また今後の再生医療研究の主役となる若手研究者に伝えたいことを語っていただきます。

——これまでのお話を伺って、先生の研究人生は「医学」と「工学」と「薬学」だったり、「日本」と「アメリカ」だったり、様々な要素の「融合」がキーワードではないかと思いました。異分野や異文化と融合するコツはあるのでしょうか?

 やっぱり、相手に信頼されること。「融合」というからには相手方があるわけだから、真摯で誠実である事が重要だね。手前味噌になるけれど、僕はそういった心がけをしていたから篠原功先生(早稲田大学名誉教授<当時>)や櫻井靖久先生(先端生命研の前身である医工研施設長<当時>)にとても信頼されて、仕事を任せてもらっていたんだ。ユタ大学でもキム先生(Prof. Sung Wan Kim)から「日本へ帰るな」とまで言っていただいた。誠実で、いい仕事をやって、人から信頼されて、「ああいう人といっしょにやりたい」と思ってもらえるかどうかが大切なんだ。そうしていれば、自然と道が開けてくるよ。これは、どこの組織でも分野でもそう。結局、「世の中はちゃんと見ている」んだよ。

孤立している研究者もいるかもしれないけれど、いい仕事をするというのは当たり前で、その上で周りとのいい人間関係を築いていくというのは、すごく大切なことだと思うよ。例えば、清水達也先生(現・先端生命研教授)は、良い研究をしているのみならず、みんなのために研究室の運営に尽力して貢献してくれているじゃない。見ている人は絶対に見ている。それは、彼にとって大切な人脈を作っていることになると思うし、成功者には必要なことだと思うよ。

——先生のご経歴の中で様々な「融合」が起こったとき、櫻井先生やキム先生、大和雅之先生(現・先端生命研教授)のような方々との出会いもカギになっているように感じました。「理系の若手研究者は人脈作りが苦手」とよく言われますが、何かコツはあるのでしょうか?

 まじめに一生懸命、正直に生きることですよ。誠実でフェアに生きることが、周りの人を大事にすることにもなるでしょう。それって、長い目で見ると損ではないよ。人をだましたり、自分の損になることはやらなかったりと、目先の小さいところばかり見て損得勘定しちゃう人も多いけれど、それは人生を知らない、間違っていると思う。人のために何かやってあげるというのは、やっぱり必要じゃないかな。僕も、そういうふうに面倒見た学生や後輩達に、後々助けられるという経験をしているからね。返ってくることを期待して面倒見るわけじゃないけれど、結局は返ってくる。人生ってそういうものです。

だから、一生懸命いい仕事をやって、いい人間関係を作って、誠実かつフェアに周りとかかわっていけば、いいラボが作れる。それが評判になれば、自分自身の価値を上げることにもなるわけだ。そうやって一人ひとりが心がけていけば、きっと世界で評判になるラボができる。ラボはみんなで作るもの、みんなで価値を築いていくものなんだよ。

——最後に、先生のこれからの夢についてお聞かせください。

 やっぱり、世界中の患者を細胞シートで治すこと。再生医療に特化した再生医療病院をヨーロッパ、アメリカ、日本に何カ所かずつ作って、世界中の患者を細胞シートで治すということができたらいいね。きっと、できるんじゃないかな。これは、若手のみんなの頑張り次第かもしれないね。

若い子たちの中には、着実に自分の道を切り開くための努力をしないで、安易にそれをつかむことを考えている人もいるよね。でも、努力の上に何かをつかむというのが重要だと思うんだ。英語にしたって、頑張らないと話せるようにならないよ。いい論文を書くにしたってそう。来る日も来る日も積み重ねて、僕なんか同じコンセプトの研究を35年くらいやってきたんだよ。それを変えちゃうほうが楽なときもあるけれど、やり続けたことが今の価値になっていると思う。継続というのは、ものすごい力だよ。

ただし、やり続けるテーマはきっちりと選んで、自分のそのジャッジが信じられるように、目と頭を養っておかないとね。「これはいい!」と思っても、全然違うほうへ向いてしまっていたら、それは何年やってもだめだよ。学会で色んな人の話を聞きながら「この人はどういう苦労をしてきたんだろう」とか、まじめに考えている人だけが、やっぱり「見えてくる」んじゃないかな。何も考えないで、のほほんとしてうまいもの食って、そんな人生ないって!ぜひ、自分の力でいい人生をつかんでください。

~          ~          ~          ~          ~

●エクストラ「岡野先生へのQA」

  最後にちょっと肩の力を抜いて、若手研究者の日頃の悩みに対して、優しく厳しい先輩研究者の岡野先生として、Q&A形式でお答えいただきました。

Q:最近スランプ気味です。先生にもこんな時期はあったのでしょうか?どのように乗り切ったらよいでしょうか?

 人生では、楽なものを選び続けていられるわけではなくて、「未来につながるけれど一番大変な道」というのが選択肢として必ず出てくる。そのときに「未来につながるけれど大変な道」を選び、最高の努力をして、未来を作っていけばいいんだよ。ただ楽な道ばかり選んでいる人の人生は、そのうち枯れちゃうよ。長続きするわけがない。人に信頼されたり、世の中で自分の価値を見出されたりするために、ものすごく勉強したり、論文をいっぱい読んだり、未来を踏まえて自分の研究方針を考えたり、そういうことを頑張るから、他の人にはない能力が備わるんだよ。

 未来のためには、苦しいときこそ自分を磨けるチャンスと思って、スランプのときこそ、真面目かつ誠実に取り組んで逃げないこと。必ずしもガリ勉をやれということではなくて、誠実に研究に取り組んでいれば、何らかの支援があったり、運に恵まれたりで新しい発展が得られると思う。

 私にもつらい時期はあったけれど、その時その時で逃げないで、嘆かないで、ずっと頑張り続けた。私は研究人生の中で、すごい数の論文を書いていると思うよ。アメリカへ渡って最初の1年は、土曜日はほとんど徹夜で論文なんかの書き物をしていたし、30〜40代もそれに似た生活を続けていたんだ。私は論文の数だけが価値ある研究のバロメーターだとは思っていないけれど、論文の数と質は研究の本質とリンクしていて重要だと言いたいんだ。

Q:未曾有の大不況による就職難や事業仕分けで、国の研究支援も危うい状況です。ポスドクに未来はあるのでしょうか?

 研究者というのは、誰かにすべてをお膳立てしてもらって「はい先生、お願いします」というわけじゃないでしょ。それで、そのまますべてをお膳立てしてもらわなきゃ研究できない、何のアイディアもない人が教授になったら不幸じゃない。実際は、そういう大学がたくさんあるし、教授になると“ゴール”という人はいっぱいいる。それは間違っていると思うよ。ポスドクのあなたたちは今、自分を磨いて本気で何かをつかみ取るチャンスをもらえているんだよ。だったら、自分で食い扶持を勝ち取っていかないと。その中で、自分がやらなければならない主題を見つけて、先輩や友人、後輩に信頼される基盤を作る、そういう人生を創っていく人が価値ある指導者、教授になることを僕は願っている。

やっぱり、職業として研究するというのは、いろいろな意味で大変なこと。だから、研究に打ち込める若いときにはとにかく打ち込んで、自分の可能性をどれだけ高められるかに専念しなくちゃ。それができないようなら、研究者になんてなれないよ。大変なこともたくさんあったけれど、今になって考えると、私の年でもこれからやりたいことがいっぱいあって、世界中が私を必要としてくれている。それだけ生き甲斐がある、すばらしい仕事だよ。

Q:研究職という仕事柄、なかなか家族との時間を作れず妻に寂しい思いをさせています。仕事と家庭円満を両立する秘訣はあるでしょうか?

 自分の仕事を理解してもらうこと。家庭で問題があったら落ち着いて研究できないじゃない。私なんか海外を含めて飛び回っているわけだから、自分の家が不安定な状態だったら、そんなことやっていられない。理解のある信頼できるパートナーと結婚するというのは重要だと思うよ。私の妻は早稲田大学側の研究室の秘書をやっていて、私の学生時代をちょっと知っているから、それもあるかもしれないね。私がわがまま放題やりたい放題やっても文句一つ言わず、ずっと支えてきてくれたわけだから、いい女房をもらえてありがたいと思うよ。

 理解してもらえるかどうかは、自分が未来を創るぞと信じて頑張れるかどうかにかかっている。どれだけ豊かな未来を思い描いて、どれだけ未来に投資する生き方ができるかだよね。それは、当然仕事にも反映されてくるよ。目の前の損得勘定しかできない人は、小さな人生しか描けない。女性が男性を選ぶときは、そういう視点で選ぶべきだよね。きっちりと未来のために頑張っているやつをね。見てくれよりも、そういうのが大事だよ。だからといって、研究者がいいかは分からないけれども(笑)。

<終>

・・・・・・・・・

(インタビュアー:田村・村岡/編集:RegMed-now編集部・シーニュ)

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2. 再生医療トピックス

◇第34回 未来医学研究会大会のお知らせ

テーマ:再生医療の産業化にむけて
開催日時:2011年4月23日(土)10:00~18:35(懇親会18:45~)
会場:東京女子医科大学 弥生記念講堂
参加費:会員5000円/一般7000円(懇親会費込み)
URL:http://www.twmu.ac.jp/ABMES/SFM/ja/34th/

◇新ジャーナル「BIOMATTER」創刊のお知らせ

東京女子医科大学 GCOEプロジェクト拠点リーダーの大和が編集委員をつとめる、バイオマテリアルの医療応用にむけた研究に関するジャーナル、BIOMATTERが2011年7月に創刊されます。皆様のご投稿をお待ちしております。
URL: http://www.landesbioscience.com/journals/biomatter/

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3. 【新コーナー】ABMES ダイジェスト

本コーナーでは東京女子医科大学 先端生命医科学研究所(ABMES)の注目の研究成果をわかりやすくお届けするコーナーです。
<最新論文紹介>

◆ あたらしいタンパク質吸着材〜タンパク質の環境にやさしい分離法
  長瀬健一(Kenichi Nagase)著

 医薬品に用いられるタンパク質の精製には、カラムに流す水溶液の塩濃度を制御して分離するイオン交換カラム、有機溶媒をもちいておこなう疎水性カラムなどを用いた方法があるが、これらはタンパク質の機能・構造が損なわれるおそれがある。
 そこで、温度応答性高分子を用いてわずかな温度変化で、タンパク質を吸着・脱着できるあたらしい吸着材を開発した。これらは、医薬品用タンパク質の製造工程において重要なキーテクノロジーとなりうる。
 Thermally-modulated on/off-adsorption materials for pharmaceutical protein purification
 Biomaterials. 2011 Jan;32(2):619-27; doi:10.1016/j.biomaterials.2010.09.012

◆ 白目が黒目に!
  田中佑治(Yuji Tanaka)ら著

 角膜(黒目)と強膜(白目)は共にコラーゲン線維を主成分とする組織であるが両者の光透過性は本来相反する。しかし線維構造を制御することで角膜を真っ白にも強膜を透明にも転換可能であることが分かった。透明化した強膜(白目)が角膜(黒目)移植に用いられる日が来るかもしれない。
 Irreversible optical clearing of sclera by dehydration and cross-linking
 Biomaterials. 2011 Jan;32(4):1080-1090; doi:10.1016/j.biomaterials.2010.10.002

◆ ヒト歯根膜細胞による新しい歯周病治療への第一歩
  岩田隆紀(Takanori Iwata)ら著

 歯周病は人類史上最も感染者数の多い感染症とも言われているが、悪化するとQOLを大きく損ない、糖尿病などの全身疾患との関連性も示唆されている。これまで進行を食い止めるにすぎなかった歯周病治療に、ヒト歯根膜細胞の移植が新たな光をもたらすかもしれない。本研究ではヒト歯根膜細胞の安定した単離培養法を確立し、特異的に発現するマーカーを確認した。これはヒト歯根膜細胞による臨床試験実施の際に有効な手法となりうる。

 Validation of human periodontal ligament-derived cells as a reliable source for cytotherapeutic use
 J Clin Periodontol. 2010 Dec;37(12):1088-99; doi: 10.1111/j.1600-051X.2010.01597.x.


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