Vol.10(2011年1月19日配信)

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こんにちは、RegMed-now編集室です。
 このメールマガジンは再生医療に興味のある研究者・医師の皆様のために現場発、最新の再生医療研究に関する情報や知識を正確にかつわかりやすくお届けすることを目的としております。ご意見、ご感想、新規登録をお待ちしております。

 先日放送された「夢の扉」、「プロフェッショナル -仕事の流儀- 」は皆様ご覧頂けましたでしょうか。近年は再生医療関連のトピックをいろいろなメディアで目にするようになり、この分野への関心が高まっていることを実感させられます。

 今号は岡野光夫先生のインタビュー第2回として、TV番組では多くを語られなかった研究者・岡野先生のアメリカ留学時代を中心にお伝えします。


【目次】

1. インタビュー企画『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第1弾 岡野光夫
 ●第2回「アメリカでの研究生活―ユタで掴んだ飛躍のきっかけ」

2. 再生医療トピックス
 ◇第10回再生医療学会総会のお知らせ
 ◇「薬事法の基礎」ワークショップ開催のお知らせ


1.インタビュー企画 『未来医療への挑戦者たち』 シリーズ第1弾 
-東京女子医科大学先端生命医科学研究所・TWIns 所長・教授 岡野光夫

【プロフィール】
岡野 光夫(おかの・てるお)
1949年生まれ、東京都出身。1979年、早稲田大学大学院高分子化学博士課程修了(工学博士)。
その後、東京女子医科大学医用工学研究施設助手、ユタ大学薬学部Associate Professorなどを経て現職。再生医療界で注目の技術である温度応答性培養皿を用いた「細胞シート」工学の創始者。
2008年4月には、世界に類を見ない、複数の大学からなる、医学と工学の研究・教育の融合拠点として「東京女子医科大学・早稲田大学連携先端生命医科学研究教育施設(TWIns)」を開設。
2009年、紫綬褒章受章。


☆シリーズ第1弾を読む > 第1回第2回第3回第4回最終回

●第2回「アメリカでの研究生活―ユタで掴んだ飛躍のきっかけ」

 早稲田大学大学院高分子化学博士課程で工学博士号を取得されたのち、アメリカ・ユタ大学に渡ってたくさんの業績を挙げられた岡野先生。今回は、留学を決意したきっかけ、温度応答性高分子との出会い、そして若手への思いについて伺いました。

――アメリカにはどのようなきっかけで行かれたのですか?

 1981年頃に僕が出した、HEMAとスチレンをつなげたポリマーの論文をユタ大学のキム先生(Sung Wan Kim)が読んでくれて、僕の発表を聞きに来てくれた。パリでの国際人工臓器学会での発表だったかな。そして、「一度、ユタに来ない?」と声をかけてくれた。その後もいろいろな資料を送ってくれたりして。1983年にユタ大を訪問した際にはとても歓迎してくれて、セミナーを開催してもらって熱い議論を交わしたんだ。

 そのうち、「こっちで研究費が取れたからアメリカへ来ないか?」と言われて、1984年の2月、雪のばんばん降るなか、僕は1歳の長女を背中におぶった家内とユタへ飛んだの。前年、ユタ大学ではクラークさんという方に世界で初めて人工心臓を使ったんだけれど、脳や肝臓、腎臓などにミクロの血栓がいっぱいできてしまったんだよ。それらは太い血管を詰まらせるほどではないものの、血流に乗って末梢の大事な血管に詰まって悪さをしちゃうんだ。だから、抗血栓性の材料を研究する必要に迫られていた。それで、「日本に面白い奴がいるから」とキム先生が呼んでくれたんだよ。

――今よりも、留学へのハードルが心理的にも環境的にも高かった時代ですよね?

 どうかな。まぁ、僕らの頃はみんな海外へ行くのがわりと当たり前だったね。絶対数としては今より少なかったかもしれないけれど。当時のアメリカの研究環境は日本と比べ物にならないくらい進んでいたんだ。だから、僕はかねてより「一度はアメリカへ」と思っていたので、ちょうどいい機会だった。アメリカで研究に専念したのは4年半ぐらい。アメリカ人と場所の取り合いで喧嘩しなくちゃいけなかったし、教授会でも偉い先生達と英語で渡り合わなきゃいけなかった。振り返って思えば、ああいう経験が今の僕を形作る一つの素になっているのかもしれない。

 ただ、当分は日本へ帰らないつもりだったのが、思いがけず早く帰ってくることになって、アメリカと日本での「24時間営業」が始まった。夜はアメリカのほうの実験をやっているし、昼間は日本での実験をやっているみたいなね(笑)。そんな生活を6~7年ぐらい続けたのかな、その間も10名ほどの博士を送り出した。

――先生は、一度はアメリカに家を買って、日本には戻らないと決意をされていたと伺いましたが?

 僕が日本でこせこせと研究しているときに、すでにアメリカではバイオエンジニアリング(生物工学)やバイオメディカルエンジニアリング(生体医工学)という学問が確立していて、研究費もどんどん取れる状況にあったんだ。だから、研究環境という面でやっぱりアメリカの方が優れているという思いはあったかな。そのうえ、ユタ大学ではよい学生に恵まれて、キム先生も信頼して好き勝手にやらせてくれたので、「ここに腰を据えて一生懸命やろうかなぁ」と思っていたんだ。家も買ってね、アメリカで研究を続けようと決心していた。

――アメリカではどのような研究をされていたのでしょうか? 

 キム先生をはじめ、ユタ大の先生達に僕は高く評価をしてもらっていたようで、アメリカではポスドクではなくてアシスタントプロフェッサーのポジションを用意してくれていた。日本では講師くらいに当たるのかな。そして、キム先生は薬学部の教授だったから、僕も薬学部で研究をスタートさせたんだ。ちょうどDDS(薬剤送達システム)が盛んになり始めていた時代だったから、刺激応答制御型という新しいシステムのDDSを世界に先駆けて始めたり、抗がん剤を皮膚から体に入れる研究をヒグチ先生(William I. Higuchi)と一緒にしていた。そのころ日本の製薬会社からも留学生が来ていてね、薬学をやっている大学や企業の人たちとの人脈を作ることができた。

 一方で、抗血栓性材料の開発を当時博士号をとったばかりのデイビッド・グレンジャー先生(David W. Grainger)と一緒にやっていた。彼は今ではユタ大学の学科長、チェアマンになっているけれど、その頃はポリエチレングリコールとポリスチレンをつなげたポリマーを一生懸命に作っていた。さらに半年くらい経ってから、ベイ(You Han Bae)という学生――彼も今ではユタ大を代表する教授になっているから、ベイ先生だね――が来て、彼と温度応答性のハイドロゲルの研究を始めた。

――なるほど、そこで温度応答性高分子ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(*1)の研究を始められたわけですね。ということはこの留学時代が先生の大きなターニングポイントとなるわけですが、先生は留学して研究を行うことの意義をどう考えていらっしゃいますか?
*1 ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド): 温度に応答して水への溶解度が変わる高分子、その性質を利用して医用材料などへの応用が期待されている。

 他人のやれないオリジナリティの高い仕事やクリエイティブな仕事をやろうと思ったら、やっぱり勉強し続けることだと思う。勉強し続けるということは、いろいろなコンセプトや実験手法、テクニックなどをキャッチすること。その素材を使って新しいフィールドで考えた方がアイデアは出やすいよね。学んだこと一つひとつの本質を理解して、自分の分野のことも知り抜いたうえで、ただ組み合わせるのではなく、集学的にどういう新しい組み合わせを作るか。僕は、みんな日本にいて同じように考えて、新しい方法でオリジナルな何かをやるというのは大変なことだと思った。だから、アメリカへ行って、アメリカ人を見て、アメリカのやり方を見て、それで自分に何がやれるかを考えた方が、よほどキャパシティが大きくなると僕は思っていた。

 僕は工学部から医学部に移ったとき、必死に勉強したんだよ。病気のこと、特に診断や治療法の詳細は勉強したことが無かったからね。そうやって勉強しながら、アメリカでは薬学部で研究を行った。ということは、他の人に比べて高分子に詳しくて、病気のことも知り、さらに薬学も知っているわけじゃない。そして、アメリカ人のやり方も日本人のやり方も知っている。1つのものに対して様々なアプローチができるから、誰もやらないようなことを最初にやってこられたんだと思う。1995年に僕のハイドロゲルに関する論文が「Nature」に掲載されたんだけど、僕はこういった技術を学術研究のレベルにとどめるのではなく、世に出して患者を治すというところまでやり抜こうと次第に考え始めて、今につながっている。君たちも若い頃は何でも興味を持って、いろいろなことをやった方がいいと思うよ。

・・・・・・・・・

第3回「温度応答性培養皿の開発と細胞シートの臨床応用」へ続く

(インタビュアー:田村・村岡/編集:RegMed-now編集部・シーニュ)

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2. 再生医療トピックス

◇第10回再生医療学会総会のお知らせ

岡野先生が会長を務める再生医療学会の総会が3月に行われます。
たくさんのご参加をお待ちしております。

会期:2011年3月1日(火)~2日(水)
会場:京王プラザホテル(東京都新宿区)
URL:http://www.aeplan.co.jp/jsrm2011/index.html
*参加登録は当日受付のみとなります、詳しくはURLをご覧下さい。

◇薬事法の基礎ワークショップ開催のお知らせ

 医薬品などの開発販売に関わる薬事関連の研究団体であるRAPSジャパンでは、昨年2月に発刊した「薬事法の基礎」をベースにしたワークショップを開催しております。医薬品・医療機器業界にて多くのご経験をお持ちのスペシャリストの方々を講師にお招きし、これまで多くの薬事業務(市販後安全、品質保証も含む)に携わる実務者や研究者の皆様に御参加を頂いております。回によってはまだ参加者に若干名の余裕がございますので、皆様の御参加をお待ちしております。

会場:東京女子医科大学 先端生命医科学研究所(TWIns)
URL:http://www.rapsjapan.jp/Default.aspx?TabId=1728
*東京女子医科大学学内より参加をご希望のかたは事前にregmed-info@abmes.twmu.ac.jpまでご連絡をお願い致します。


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