歯根膜グループ

歯根膜由来細胞シートによる歯周組織再生治療

 2011年1月4日に厚生労働大臣に承認された臨床試験「自己培養歯根膜細胞シートを用いた歯周組織の再建」をスタートさせた。具体的には、セルプロセッシングセンター(CPC)内で無菌的に歯根膜細胞を採取・培養することによって自己歯根膜細胞シートを作製する。作製した細胞シートに対して歯根膜細胞の性質を維持しているかを確認する品質管理試験や細胞がウィルスや細菌に感染していないかを確認する安全性試験を行い、その有効性と安全性を実証後、歯周病患部へ移植する予定である。今後2年間で10症例の臨床試験を実施する予定である。

 本邦における歯周病罹患率は高く、抜本的な治療法の開発が望まれている。よって、細胞シート工学に基づいた本治療法を用いてこれまで治療困難と考えられてきた重度歯周病の治療方法を確立していきたいと考えている。さらには、適応症を拡大するためのトランスレーショナルリサーチによる検証は必須であり、我々のグループでは基礎的な研究も平行して行っている。動物実験レベルにおいてはイヌを用いた広汎な歯周欠損モデルにおける細胞シートの有効性を探索ならびに検討している。また最適な細胞ソースの検討を行うため、骨髄由来間葉系幹細胞・歯槽骨膜細胞・歯根膜細胞の3種類の細胞をイヌに自家移植し、再生した組織を比較検討したところ、歯根膜細胞を用いた群において有意な、神経組織を含む歯周組織の再生が観察された。細胞レベルの実験においては、ヒト歯根膜細胞の多分化性・免疫調節能・他の細胞に与える栄養補助機能を検索することにより、他用途への応用も視野に入れた研究を行っている。具体的にはヒト歯根膜細胞を用いて1)石灰化誘導時におけるWnt 関連遺伝子の発現制御の解析、2)幹細胞性維持に関する研究、3)最小侵襲による細胞採取法の開発を行うとともに、細胞シート工学を応用することにより1)歯科用インプラント周囲の骨造成に与える影響の探索、2)歯の発生をモチーフにした上皮間葉相互作用モデルの確立などを目指している。

図1:
歯根膜由来シートの移植


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図2:
CPCでの作業風景

クリーンルーム内で二重ガウンを着用し、作業者・記録者のペアが作業を相互確認しながら細胞シートを作成する。

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研究者紹介

先端生命医科学研究所 准教授  岩田 隆紀 Takanori IWATA

Takanori IWATA 元々石川烈先生お一人から始まった我々のグループは5年の月日を経て、スタッフ4名、大学院生3名の合計7人の規模へと成長し、臨床試験と基礎実験とそれをつなげるトランスレーショナルリサーチのすべてを実施しております。これまでは不慣れな申請書作成や、経験したことのない安全性試験、二重ガウニングでの細胞プロセッシングセンター(CPC)内での細胞培養などの苦難の連続でしたが、ようやく2011年初頭に厚労省から臨床試験の承認をいただき、臨床研究をスタートする運びとなりました。やっとスタート地点に立った状態ではございますが、6名がCPCでの作業を実施できる盤石な体制を構築しました。安全に臨床試験を遂行し、本治療法の有効性を検討していきたいと考えております。

 

業績リスト

  • Tsumanuma Y, Iwata T, Washio K, Yoshida T, Yamada A, Takagi R, Ohno T, Lin K, Yamato M, Ishikawa I, Okano T, Izumi Y. Comparison of different tissue-derived stem cell sheets for periodontal regeneration in a canine 1-wall defect model. Biomaterials. 2011;32(25):5819 - 25.
  • Washio K, Iwata T, Mizutani M, Ando T, Yamato M, Okano T, Ishikawa I. Assessment of cell sheets derived from human periodontal ligament cells: a pre-clinical study. Cell Tissue Res. 010;341(3):397- 404.
  • Iwata T, Yamato M, Zhang Z, Mukobata S, Washio K, Ando T, Feijen J, Okano T, Ishikawa I. Validation of human periodontal ligament-derived cells as a reliable source for cytotherapeutic use. J Clin Periodontol. 2010;37(12):1088 - 99.
  • Ishikawa I, Iwata T, Washio K, Okano T, Nagasawa T, Iwasaki K, Ando T. Cell sheet engineering and other novel cell-based approaches to periodontal regeneration. Periodontol 2000. 2009;51:220 - 38.
  • Iwata T, Yamato M, Tsuchioka H, Takagi R, Mukobata S, Washio K, Okano T, Ishikawa I. Periodontal regeneration with multilayered periodontal ligament-derived cell sheets in a canine model. Biomaterials. 2009;30(14):2716 - 23.