English 肺グループ
皮膚線維芽細胞シートで術中気漏を閉鎖する新たな治療
呼吸器外科手術では、出血、感染という合併症に加え、肺から空気が漏れる「肺気漏」という特有の合併症がある。呼吸器外科手術においても各種手術材料、手術器具の進歩、さらには術中の様々な手技に関わらず、現在でも肺気漏の対応は検討の余地がある。術後の遷延性肺気漏に対する対応は、他の外科手術が術後の癒着を回避、防止するのに対し、気漏は胸壁と肺を癒着させて治す方法がとられてきた。しかし、癒着症例では、術後の疼痛、肺機能低下につながり、また、近年増加傾向である胸腔鏡下手術では、胸腔内操作も従来の開胸手術とは異なり、容易に肺と胸壁が癒着しない場合があり、術後気漏に難渋する症例が存在する。
術中の確実な気漏閉鎖は、術後の胸腔ドレナージ期間、在院日数の短縮が期待できる。また、従来、難治性・遷延性気漏は癒着により閉鎖を行ってきたが、悪性腫瘍再発など再度の手術に際しては、癒着剥離のため手術時間が延長したり、新たな気漏の原因となり得るため胸腔内癒着を回避することも必要である。肺気漏に対する理想的な組織修復材は、強力な接着力をもち、柔軟であり、呼吸による肺の伸縮に追従することが要求される。現時点では、臨床に用いる接着剤で強い接着力と低い毒性を合わせ持ったものは存在しない。多数の細胞が細胞?細胞間接着で結合を有し、さらに培養の過程で蓄積した細胞外マトリックス成分、コラーゲン、フィブロネクチン等が細胞下面に存在し、接着剤の役目をする細胞シートは、組織や細胞シート同士を再接着させることが可能である。これらの特徴に着目して、従来の方法、手術材料とは一線を画する新たな手術手技を開発した。現在まで、胸膜損傷モデルに対する皮膚線維芽細胞シートを用いた気漏閉鎖法は、大動物（ブタ）でもその有用性を確認している。現在、ヒト皮膚線維芽細胞を用いた細胞シートの作製条件などの最適化を検証している最中である。
.
図１：
回収したヒト皮膚線維芽細胞シート
←クリックすると拡大します
図2：
ラット肺気漏モデルに、皮膚線維芽細胞シートを貼付し、気漏を閉鎖した。移植3 ヶ月後の再開胸時、白色を呈しシートで被覆されていた。
←クリックすると拡大します
研究者紹介
呼吸器外科 講師/ 先端生命医科学研究所 准教授(兼務) 神崎 正人 Masato KANZAKI
肺癌、自然気胸などの手術は、胸腔鏡手術が主流となってきています。とりわけ、人工材料などの各種手術材料、胸腔鏡・手術器具の進歩により、安全な手術を提供できていますが、呼吸器外科手術の開始の時点から問題視されていた「肺気漏」は、現在でも呼吸器外科医を悩ませています。術後に長引く肺気漏のため、患者さんは胸腔ドレーンが長期に留置され、入院期間の長期を余儀なくされています。我々のグループでは、このような古くから問題となっている肺気漏に対して、細胞シートを用いて気漏を閉鎖する新たで、確実な方法を臨床応用すべく、日夜研鑽しています。
業績リスト
- Maeda M, Yamato M, Kanzaki M, Iseki H, Okano T. Thoracoscopic cell sheet transplantation with a novel device. J Tissue Eng Regen Med. 2009;3(4):255 - 9.
- Kanzaki M, Yamato M, Yang J, Sekine H, Takagi R, Isaka T, Okano T, Onuki T. Functional closure of visceral pleural defects by autologous tissue engineered cell sheets. Eur J Cardiothorac Surg. 2008;34(4):864 - 9.
- Kanzaki M, Yamato M, Yang J, Sekine H, Kohno C, Takagi R, Hatakeyama H, Isaka T, Okano T, Onuki T. Dynamic sealing of lung air leaks by the transplantation of tissue engineered cell sheets. Biomaterials. 2007;28(29):4294 - 302.
